北野大さん(秋草学園短期大学学長) 食事に感謝する心こそ 当を得た母親の教え今も

北野大さん

 どもの頃、うちには食事中のNGワードがありました。「まずい」は、絶対に言ってはならなかったんですよ。今と違って、食べ物とは飢えをしのぐためのものという考えが徹底していました。おふくろは口癖のように「食べ物についてとやかく言うのはいけない。口の卑しいのが、人間として最も卑しい」と言ってましたね。弟(ビートたけしさん)が「まずい」と言ったら、「まずくて嫌なら食べなくていい!」と怒られた。そういうしつけをされて育ちました。

 貧しいということもあって、例えばお歳暮でハムをもらいますよね。すると毎日毎日、弁当にハムが入ってくるんです。新巻きザケをもらうと、毎日毎日サケの切り身が。おいしいんですけど、何度も続くとねえ。

 弁当といえば、ご飯の上にかつお節とのりをのっけて、またご飯を……と工夫して作ってくれました。その弁当箱を新聞紙にくるむ。汁が出て茶色くなった新聞紙は、トイレの紙にする。「もったいない」という考えが徹底していました。おふくろのしつけのおかげで、弟はグルメの番組には出ないでしょう。唯一、志村けんさんとのギャグで「日本一まずいラーメン」というのをやったくらいですよね。

 私も女房と一緒になって40年近くになるんですけど、よく言われます。「あなたは私が作ったものを『まずい』と言ったことは一回もない」と。私は口に合わないと思ったなら、それを脇に置いて食べないということで意思表示をするんです(笑)。女房には「逆に『おいしい』とも言ってくれない。私が聞くと『おいしかった』と言ってくれるけど、だったら聞かれる前に言ってよ」とも言われます。

 は以前、淑徳大学で教えていました。ここは浄土宗の大学。「共生」を理念にしていて、食事というのは、他の生き物の命をいただきますということ。決して食べ物を粗末にしてはいけないと教えています。

 おふくろのしつけにも通じますし、私も学生によく言いました。「食事中に帽子をかぶったままなんていうのは礼儀に反する」「バイキング料理のときは、自分が食べられるだけの量を取りなさい。たくさん取っておいて残すなんて恥ずかしい」と。

 今、学長を務めている秋草学園短期大学の学生にも、その考えを伝えています。特にうちの大学は保育士や幼稚園教諭を養成しています。将来子どもたちを育てる立場の人間として、ちゃんと「いただきます」「ごちそうさま」という感謝の気持ちを持ってほしいと願っています。

「いただきます」「ごちそうさま」というのは、素晴らしい言葉だと思います。英語にはありませんよ、これに当たる言葉は。他の国の言葉ではあるんでしょうかね。

 「三つ子の魂百まで」といいますが、うちの卒業生が保育士として幼児に教えることで、その子たちが大きくなっても食べ物をいただくことに感謝の心を持ってもらえればと思うんです。

 食での学生を見ていて気になるのは、カップ麺を食べる子が多いことですね。たまに食べる分にはいいんですが、常食にするのはいかがかな。それと若い女性だからしょうがないにしても、カロリーを気にし過ぎているように感じます。

 以前教えていた明治大学の男子学生は、ほんとに山盛りのご飯をガツガツ食べていました。若い人がモリモリ食べているのを見るのは頼もしく、好感が持てますよね。なんでも食べられる時代であっても、感謝の気持ちを持ってガツガツモリモリ食べてほしいと思っています。(聞き手・写真 菊地武顕)


<プロフィル>きたの・まさる


 1942年、東京都生まれ。東京都立大学大学院博士課程修了。財団法人化学検査協会勤務、明治大学教授、淑徳大学教授を経て現職。経済産業省・化学物質審議会委員、環境省・中央環境審議会委員などを歴任する一方、「サンデーモーニング」「クイズダービー」などに出演しお茶の間でも人気。

おすすめ記事

食の履歴書の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは