強められた中央集権体質 自治体農政に輝きを 明治大学農学部教授 小田切徳美

小田切徳美氏

 今年5月に公表された食料・農業・農村白書は、農政に関わる重要な事実を伝えている。市町村の農林水産関係職員数は2006年以降の10年間で20%も減少しており、それは一般行政全体の13%減を上回る。つまり、平成合併後の地方行革は、農政分野でとりわけ進んでいるのである。

 白書も「将来に向けて地方農政の推進体制を確保していくことが必要となっている」と警鐘を鳴らしている。華々しく進む国の農政改革の一方で、「地方農政」の体制が問題となっているのである。
 

未来塾で気付き


 そして、その文脈で白書は、全国町村会の「地域農政未来塾」を紹介する。この塾が、地域の課題に自ら気付き、提案し、そして行動できる町村職員を養成することを目的としているからであろう。塾では志願した町村職員を対象に、座学、討議そして現場研修が行われている。

 筆者はその塾の主任講師を務め、講義やゼミを担当しているが、塾生(町村職員)に長時間接して、改めて感じることは、それぞれの自治体には、地域に応じた政策課題があることである。地域の戦略的農作物が多彩なことはもちろん、担い手の存在形態も実に多様である。塾生は相互の交流によりそれに気付き、オンリーワンの農政を自らが担っている事実を認識することから研修は始まる。

 しかし、こうした自治体農政が、現場で空洞化している状況も生じている。地方財政の問題もあるが、それ以上に、他ならぬ国の農政改革、特に近年の農地中間管理機構(農地集積バンク)や米政策見直しにより、いつのまにか農政の中央集権的な体質が以前より強化されているのである。

 自治体職員は次のようにつぶやく。「農水省の新しい政策に関わる情報をいち早く集めることが仕事になっている」(県職員)。「次々に出てくる新しい仕組みに対応するのが精いっぱいだ」(町村職員)。「農政(課)の仕事は調査ものなど国の下請けばかりで、役場内ではあまり人気がない」(同)。
 

現場にこそ視線


 職員数の減少という事実と併せて言えば、「より少ない人員で、霞が関ばかりを気にしている傾向」が自治体に生まれてはいないだろうか。本来は農業・農村の現場にこそ視線が注がれるべきであるが、その余裕がなくなっている。さらに、農水省にはいまだに市町村を「末端」と表現し、国の農政の忠実な執行機関と位置付けているような幹部もおり、分権改革意識の低さには驚かされる。

 いささか手前みそになるが、だからこそ「地域農政未来塾」の存在意義は大きい。塾生はこの研修により、「自治体農政」という領域を再発見し、希望と誇りを持って自治体に戻る。現実に卒塾生はそれぞれの地域課題に立ち向かっており、先の白書でもその事例が紹介されている(京都府与謝野町の取り組み)。

 農政には現場に近い自治体農政を中心として、それに寄り添い、励ますような国レベルの制度や政策が必要であろう。農政改革が一段落したといわれる今、農政関係者が全力で考えるべき課題ではないだろうか。

<プロフィル> おだぎり・とくみ

 1959年神奈川県生まれ。農学博士。東京大学農学部助教授などを経て2006年より現職。専門は農政学、農村再生論。日本学術会議会員、日本地域政策学会会長。『農山村からの地方創生』(共著)など著書多数。

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