グローバリズムの限界 地域資源どう生かす 資源・食糧問題研究所代表 柴田明夫

柴田明夫氏

 トランプ米大統領の仕掛けた貿易戦争が、世界経済にかつてない混乱を招いている。背景には台頭する中国との世界覇権争奪の構図があり、国際的な緊張の高まりは一過性で終わるはずはあるまい。一方で、際限ないグローバリズムの限界も見え始めた。

 食糧(穀物)や原油などの1次産品市場では2005~12年にかけて、価格が一斉に急騰する「スーパーサイクル」現象が起こった。1990年代以降、先進工業国の海外移転により世界経済のグローバル化が加速。先進工業国の脱工業化が進む一方、中国、インド、中南米など発展途上国は急速に工業化し、双方の国内総生産(GDP)が収斂(しゅうれん)する過程で、工業原材料や食糧需要が急増し、価格を押し上げたのだ。世界の名目GDPに占める先進国の割合は、06年の74%から17年には60%に低下し、新興国は26%から34%に上昇した。世界貿易額は、世界貿易機関(WTO)体制がスタートした95年の5兆1000億ドルから14年には19兆ドルに拡大した。

 しかし、安価な食糧・資源・エネルギーを前提に、「より速く」「より遠くに」「より効率的に」と、ひたすら成長を目指してきたグローバル化の時代は終焉(しゅうえん)しつつあると言えよう。既に世界貿易額は15年以降、16兆ドル前後で頭打ちとなり、貿易増加率が世界経済成長率を下回る「スロー・トレード」の状態にある。景気回復にも勢いはなく、先進国世界の所得レベルは伸び悩んでいる。
 

価値転換が潮流


 一方で、地球温暖化の脅威は増している。考えられない気象パターンが世界中のあらゆる場所で起きている。主要国は15年、自主的に二酸化炭素(CO2)排出量の大幅削減に取り組む「パリ協定」に賛同した。化石燃料を抑制する「価値転換」は世界の潮流となり、産業界では化石燃料からの投資撤退とESG(環境・社会・統治)優良企業への投資が活発化している。いまや世界は、無限の自然を前提にした無限の発展を見直し、持続可能な経済への転換を模索しつつある。

 日本の農業も脱グローバリズムが必要だ。目指すは「より遅く」「より近く」「より寛容な」地域に根差した経済への転換であろう。農業を核に食糧、エネルギー、人材、水、森林などの地域資源をフル活用し域内だけで完結させる経済の構築である。長年地元で活動してきた農協の活用も不可欠だ。
 

地方創生も期待


 こうした中、17年の食料自給率(カロリーベース)が2年連続38%となった。物流コストの上昇を考えれば、6割以上の食料を海外に依存している状況はいかにも異常である。農業生産基盤の弱体化に歯止めをかけねばならない。担い手による大規模農家が競争力ある農業をつくりだす一方、地方では中山間地などの中小規模農家や地元農協、企業、住民、自治体など多様な主体のネットワークによる水、風力、太陽光などの自然資源の利活用を通じた地方創生も期待したい。

 激動する世界情勢下にあって、われわれに必要なことは社会的な安定要素である農業・農村の持つ多面的な機能を正しく評価することではなかろうか。

<プロフィル> しばた・あきお

 1951年栃木県生まれ。東京大学農学部卒業後、丸紅に入社。丸紅経済研究所の所長、代表などを歴任。2011年10月、(株)資源・食糧問題研究所を開設し、代表に就任。著書に『食糧争奪』『食糧危機が日本を襲う!』など。 
 

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