[経済流通特報] 「有機」市場底上げ 健康、安心…消費者にじわり浸透

若者が入りやすい店づくりのビオセボン麻布十番店(東京都港区で)

有機JAS認証マークで売り込むぐり~んは~と(横浜市で)

 特別な存在から日常の食卓に──。有機農産物の市場にスーパーや専門店が相次ぎ参入してきた。一般の消費者を新たな顧客と捉え、需要の底上げが見込まれる。国も有機農業を実践する農地の倍増を目標に掲げるが、その実現には何が必要か探った。(児玉洋子、三宅映未)
 

 需要を喚起 おしゃれな店 宅配で気軽に


 赤ちゃんを抱いた母親や外国人客がじっくりと商品を選ぶ。東京都港区の有機専門店「ビオセボン」は野菜、精肉、乳製品の他、総菜、飲料、加工品を合わせて3500品目そろえる。おしゃれで気軽に入りやすい店づくりは、若い客層を呼び込む試みだ。

 店は、イオンと、フランス中心に欧州で有機専門店を展開するビオセボンが合弁会社を設立し、2016年に出した1号店。これまでに4店を出店し、今年度中に東京、神奈川で複数の出店を計画中だ。ビオセボン・ジャポンの土谷美津子社長は「世界の有機市場は拡大している。日本も成長する余地がある」と見据える。利用客の66%は30、40代、食の安全に関心の高い層だ。

 野菜の9割は有機JAS認証で、全国の生産者と取引する。規格にこだわらず、おいしさを優先し、価格を慣行栽培の1・2~1・5倍に抑える。果実は人気だが国産は少なく、多くを輸入品に頼る。店舗の拡大で国産確保が課題だ。

 大阪市西区にはライフコーポレーションが有機農産物を数多く扱う新業態店「ビオラル」を16年に開店させた。17年9~12月の有機野菜の売上高は前年比138%と順調に伸ばしている。「一般の食品も扱う店で、気楽に有機を試してもらいたい」(同社)。

 農水省によると、消費者の65%が有機食材を購入したいとの調査結果があり、潜在需要をどう取り込むかが鍵を握る。注目されるのが宅配事業だ。

 宅配大手のオイシックス・ラ・大地(東京都品川区)では、同社ブランドの「大地を守る会」が扱う農産物の3割を有機JAS認証で占める。18年6月末の会員数は4万7000人を超え、前年比105%。統合で若い世代を新規顧客にした。同社は「安心・安全を求める消費者は増えている」とし、同ブランドの年間売上高は115億円を見通す。
 

販路多彩に 全国組織も 生産安定、 所得を確保


 農水省によると有機栽培の農地面積は16年度が2万3000ヘクタールで、耕地面積の0・5%にすぎない。18年度は1%に倍増させる目標だが、それでもイタリア14・5%、ドイツ7・5%、フランス5・5%と比べわずかだ。有機食品の市場規模も欧州3・7兆円、米国4・7兆円で年々拡大しているのに対し、日本は1300億円で食品に占めるシェアは1%を下回る。

 日本特有の高温多湿な気象条件や、自然災害のリスクが高いことで出荷が不安定だ。さらに販路の確保、手取りが安定しないことなどから有機農業の担い手が絶対的に不足している。

 その中で明るい兆しも出てきた。県を挙げて有機栽培に力を入れる島根県は、有利販売につなげようと生産組織を支援する。浜田市の(株)ぐり~んは~とは、年間約9種類の野菜を出荷し、2億円を売り上げるまでに成長した。販売先はインターネット通販、生協、スーパーなど。「需要に対し供給が追い付かない」と言う。宅配送料の値上げで物流費の負担増が悩みだ。

 全国1600戸の農家が組織し、生協やスーパーに販売するマルタ(東京都千代田区)は有機農産物の販売額が5億円と総売上高の9%を占め、15年から2桁成長が続く。組織のネットワーク化で産地リレーを実現し、実需と信頼関係を築いた。佐伯昌彦社長は「規格外品も売り切れば所得は安定する。青果だけでなく冷凍、カット、総菜など加工度を高める商品開発力が問われる。協業先を確保し、生産者が安心して増産できる体制が重要だ」と指摘する。
 

コスト増加分 国の支援必要


 ■秋田県立大学生物資源科学部・酒井徹准教授の話

 2006年に有機農業推進法ができた。都道府県や市町村にも有機農業の推進が求められるが、地域で温度差がある。技術支援体制や具体的な振興施策が必要だ。有機農産物は労力や資材費などの生産コストと流通コストが高く、小売価格が上がる。消費者がある程度負担するとしても、基本的には国が直接支払いで経営を支える必要がある。

 流通面では、複数の生産者組織や小売業者がコスト削減で流通を共同化する動きもある。JAにも有機農産物の取り扱いが期待される。欧州では市民の有機農業への理解が進み、有機農産物の市場が拡大している。日本の消費者にも環境や持続性に配慮した農産物を購入する意義を理解してもらうよう、積極的な情報提供が求められる。
 

<ことば>


 有機農業 化学肥料や農薬を使わず、遺伝子組み換え技術を利用しない生産方法。有機JASは化学肥料、農薬を2年以上使わない圃場(ほじょう)で、有機種苗で生産された農産物や加工品。審査が必要。

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