命・食 大切さ伝え20年 学びの場次代に 心育み、ファンづくり、6次化も 高齢化する農家多忙な教職員… 新たな実践者もっと 酪農教育ファーム

搾乳機に指を入れ牛の気持ちを考える子供たち(栃木県那須塩原市で)

 酪農体験を通じて子どもたちに命の大切さを伝える酪農教育ファームの活動が始まり、今年で20年を迎えた。酪農家戸数の減少、教職員の過重労働など厳しい環境の中、現在約300の認証牧場が酪農体験を受け入れている。今後の継続的な活動には、酪農家や教職員の中に理解者を一層増やしていくことが欠かせない。22日には「未来につなぐ」をテーマに、中央酪農会議が東京都中央区でシンポジウムを開く。(長野郁絵)

 栃木県那須塩原市の人見みゐ子さん(69)は1979年から牧場を学びの場として開放し、2001年に酪農教育ファームの認証を受けた。

 「みんなの分のソーセージを作るために牛1頭、豚1頭、羊4頭が殺されるのよ」。ソーセージ作りに興奮していた児童は、人見さんの言葉にハッと息をのんだ。

 この日、体験学習に来たのは、地元の黒磯小学校の3年生45人。搾乳機に指を入れる“搾られ”体験や、飼料とふんのにおい比べなど、多彩なメニューが用意された。室井琉君(9)は「雄は生まれてから2年で肉にされることに驚いた。命をもらっていると感じた」と話す。3年生は毎年、総合学習時間を利用し、牧場に来る。生き物から命をもらって食べていることを学んだ後は、給食の食べ残しが減るという。

 人見さんは牧場周辺の別荘の住人から「臭い」とクレームを受けたことを機に、周囲の理解を得ようと酪農教育を始めた。「もうけはほとんどないが、長期的に考えたら酪農経営にプラスになる」と考える。口蹄(こうてい)疫や東日本大震災の風評被害に遭っても、ありのままの姿を伝えることで理解を得た。今では地域の教育や観光のために必要な存在だと認められている。

 「近隣で酪農家の廃業が相次いでいる。消費者に酪農を知ってもらい、ファンになってもらわないといけない。酪農家にとっても、子どもにとっても、酪農教育ファームの必要性は増している」と強調。5年前に経営委譲した娘夫妻にも体験学習を担うファシリテーターの取得を勧めている。
 

年間体験46万人 学校ニーズ維持


 認証牧場は3月末時点で287、うちファシリテーターは571人。10年の口蹄疫発生以降、ほぼ横ばいで推移する。体験者は年間約46万人。10年に個人グループは大きく減少したが、学校は約20万人を維持し、変わらないニーズがある。

 体験学習で児童らの攻撃性が減った、牛乳を飲む量が増えたなどの研究結果が報告されている。農家はアイスクリームやチーズ作りなど6次産業化が進み、女性の活躍の場が増えた。

 一方で、スタートから20年が経過し、酪農家が高齢になり、活動をやめる事例が増えている。中央酪農会議は「このままでは生産現場と消費者が離れていきかねない」と、危機感を抱く。認証牧場の後継者だけでなく、認証を受けていないが独自に体験を受け入れている酪農家にも働き掛けていく考えだ。

 教育現場でも新しい学習指導要領への対応で教員の忙しさが増し、実践者が増えていない。しかし、日本酪農教育ファーム研究会の國分重隆会長は「一度の牧場訪問で、子どもたちの命や仲間を大切にする態度が変わる。多くの学校は一度実施すればリピーターになる」と断言する。新しい道徳の授業への組み込み方を提案し、実践する教員が成果を他の教員と共有する必要性を訴える。 
 

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