茶産地つなぐ 農家→継業組織→移住者 宝守る 地縁、流通丸ごと 兵庫県神河町

「仙霊茶」を栽培する野村さん(中)と継業を支援した町の農家ら(兵庫県神河町で)

 兵庫県神河町で300年の歴史を持つ「仙霊茶」のブランド産地が、継業という形で移住者にバトンタッチされ、消滅の危機を逃れた。高齢化で一時は廃園が決まっていたものの、同町の農家らが「町の宝をなくしたくない」との思いで、次の担い手につなぐための継業組織を結成。産地を伝承する新たな仕組みにより、若者への継承が実現した。農家の高齢化と後継者不足で全国で希少な産地が消えている中、専門家は「全国のモデルになる仕組み」とみる。

 「仙霊茶」は享保元(1716)年が起源とされ、同町吉富地区で栽培されてきた。しかし、2年連続で降霜害に見舞われたことなど理由に、3年前に、同地区の茶農家11戸らで組織していた組合が解散を決定。7ヘクタールの茶園が廃園になる恐れが高まった。

 「仙霊茶」は同町にとって地区外に売り込める大切な特産品。仙霊茶がなくなるうわさを聞き付けた、同町の地区長を務めていた農家や商工会役員らが、「何とかしたい」と話し合いを重ねた。

 兵庫県立大学などのアドバイスを受け、同町の住民らが「神河町お茶園継業セットアッププロジェクト有限責任事業組合」を結成。次の担い手にバトンタッチするまで草刈りや販路開拓をして産地を維持するリリーフの役目を果たすことにした。有限責任事業組合(LLP)は、2005年に法整備された新しい組織形態で、法人税が発生しないなどのメリットがある。

 目標は2年後に次の担い手にバトンタッチすること。現状のままでは経営が厳しいため、販路開拓にも奔走した。商工会役員を務めていた秋山紀史さん(76)は「町の財産をなくしてはいけないという使命感で、みんな気持ちが一つになった。担い手が見つからなかったらどうしようという不安は不思議となかった」と振り返る。

 茶で生計を立てる近隣の専業農家らに、栽培しないか相談していたところ、朝来市でショウガとゴマを栽培していた新規就農者の野村俊介さん(40)と出会った。野村さんは当初、茶栽培は関心がなかったが、廃園になる話を聞いて同地区を訪問。茶園の美しさに感動したという。「一目ぼれ。心奪われた」と野村さん。同組合に出資し、メンバーとして関わることになった。

 神戸市出身で3年前に会社員から脱サラし、農を軸にした自分の生き方を模索中だった野村さん。同組合の一員として売り上げと費用対効果、栽培方法などを知るうちに、次第に自分が引き継ぐ気持ちが芽生えていった。同組合の農家らも「野村さんなら託せる」という思いが強まり、予定通り2年間で同組合を解散。今春から野村さんに経営を任せることになった。

 同組合のメンバーで農家の鵜野嘉夫さん(69)は「バトンタッチしたけれど、できることがあれば何でも力になりたい。ビジネスの手法は任せるので、何とか茶園を守ってほしい」と願う。鵜野さんらは今でも茶の新規開拓店を探す日々だ。

 野村さんは茶の栽培をする「(株)仙霊」を立ち上げ、吉富地区に移住。今春の一番茶は5・6ヘクタールの無農薬栽培で収量は5トンにとどまった。赤字経営だが「長期戦の営業次第でビジネスチャンスはある」とみる。新たな夢が見つかった野村さんは「これだけ美しい茶園は他にない。バーベキューできるスペースを作って、人を呼び込んでいきたい」と意気込む。

 2年間の“並走期間”は、同大学や金融機関など多様な組織が支え、地域住民と野村さんは信頼関係を育んだ。バトンタッチするための組織を立ち上げ、次世代に継承した全国でも珍しい仕組みだ。農家の井上利秋さん(67)は「仙霊茶は町にとって活性化のツール。2年間の継承する期間があったから、実現できた」と笑顔で話す。
 

<ことば> 継業


 なりわいや地域の仕事を親族や従業員ではなく、移住した若者ら第三者に引き継ぐこと。事業だけでなく地域との関係も含めてバトンリレーする。今まで培った販路や流通なども引き継げ、施設や土地の有効利用も見込め、引き受け手は“ヨソモノ”視点で経営の再活性化を目指す。
 

継業に詳しい鳥取大学の筒井一伸教授の話


 後継者不足の農山村では、なりわいをどう残すかが課題だ。仙霊茶の取り組みは継業に向けて地域と多様な主体がタッグを組み中継ぎした、画期的なポイントを示している。
 

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