[結んで開いて 第2部][ここで暮らす](1) 毎月届けて37年 出会いも支えも新聞 京都市右京区

笑顔が絶えない「なかえ路」の編集会議。話が盛り上がり、時には深夜に及ぶことも(京都市右京区で)

住民の日々の暮らしが紙面を彩る

 地方で、行政サービスの縮小や商店の撤退などで生活の不便が増しつつある。過疎が進む恐れがある一方で、地元の人々の温かなつながりを改めて見直し、地域外の協力も得ながら課題を乗り越えようという動きがある。この地で暮らし続けたいという強い思いから、前に踏み出す地域を見た。

 手書きの新聞が京都市右京区の北部、山間部にある中江集落の32戸に、毎月届いている。集落の住民自らが“記者”となり、取材、編集し、配達もする。子どもの誕生、夏祭り、消防団活動……。今年で37年目。10月で423号を数える「なかえ路(みち)」は、地域の歴史を刻み、住民同士の絆を紡いできた。

 5年前に移住した石井美佳さん(36)。引っ越してすぐに取材を受けた。「驚いたけど、紙面に載ったおかげですぐに声を掛けてもらえた」。夫の雅和さん(44)との写真と共に「2人で米作りをしたい」とメッセージを寄せた。農地を貸してくれる住民も現れた。

 子育てと農業の両立に悩むと「今は子育てに専念していいんじゃない。子どもの成長は今しか見られないよ」という住民の言葉で心が軽くなった。みんなが見守ってくれていると感じた。自分も高齢者の見守りなどを積極的に心掛ける。「都会と違って、田舎は独りじゃ生きられない。家族じゃないけど家族みたいな関係」(美佳さん)。

 今では住民10人でつくる編集委員の一人として、制作に参加する。「なかえ路」は住民の日常が紙面を彩る。1年間で、全戸を登場させるのがモットーだ。作り手となり、地域への思いも深まった。「あの人元気ないな、載せたら元気出るかな、とか。みんなにエールを送るつもりで毎号作っている」とほほ笑む。

 新聞を受け取った住民は、子どもの入学式のニュースに喜び、若手による除雪活動の記事に感謝の思いを寄せる。インターネットなら世界中の出来事がすぐに手に入る。でも、一番身近な地域のことをどれだけ知っているか──。住民同士がつながりを実感できる大事な情報を伝えてくれる。

 外出機会が減る高齢者にとっては特に、地域との絆を保つために、新聞はなくてはならない手段だ。集落の最高齢夫妻の木下喜八郎さん(91)、政子さん(90)。訪問配布される「なかえ路」を毎月、心待ちにする。

 昔は、田植えも稲刈りも住民総出で助け合ってしていた。共同の炊事場もあった。今は、便利になった半面、住民同士が顔を合わせる機会が少なくなった。「会えなくても集落のいろいろなことを知れる。みんなとつながっていると感じられることがうれしいの」(政子さん)。

 紙面には災害時の対応や小中一貫校問題なども積極的に扱い、住民同士が課題を共有する。4年前に集落を襲った豪雨。田んぼの水路や道路が土砂でふさがれた現場までみんなで行き、記事にした。行政を動かす力にもなった。

 夜。「1面トップは『なかえ祭』やな」「台風とか暗いニュースは後ろに回しとこ」。明かりがともった山あいの公民館に、声が飛び交う。

 創刊当初から編集委員を続け、中心となってきた岩本清さん(68)。翌月号の紙面作りに向けて議論する編集委員の姿を見つめる。「『なかえ路』を通じて、住民同士が率直な意見を出したり、若手の意見を聞いたりする雰囲気が生まれた。中江の歴史が詰まった地域の共有の財産だ」と自信を持って語る。

 発起人の一人で農家の杉本良雄さん(71)は「集落は、たまたまそこに生まれた人たちでできたもの。強いつながりを生むには、軸になるものが必要」。思いを、「なかえ路」に込める。

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