[達人列伝](66) 「二子さといも」岩手県北上市・瀬川 栄一さん(67) 300年の伝統 種芋守る 栽培、貯蔵後進につなぐ

「二子さといも」の栽培技術を惜しみなく伝え続ける瀬川さん(岩手県北上市で)

 300年間守り続けられてきた伝統の味がある。岩手県北上市の特産「二子さといも」。味の良さにこだわり、品種改良せず同市二子地域で脈々と受け継いできた。

 「種芋で勝負が決まる。良い種芋だと思って保存しても、春になってびっくり。駄目だったということがある」。同地域で栽培歴30年以上の瀬川栄一さん(67)は、断言する。

 強い粘りと、深いこく、柔らかいが煮崩れしないのが特徴だ。東北の秋の風物詩「いものこ汁」は、地元では「二子さといも」の味の濃さを楽しむため、ゴボウやニンジンなどの野菜は入れないという。

 食味は抜群。だが流通量が少ない。サトイモは親芋から子芋、孫芋と分球するが、「二子さといも」は孫芋が肥大しない、子芋を中心に収穫する子芋専用種。大玉のサトイモを収穫できるが、収量が少ない。2018年度は100戸が30ヘクタールで栽培し、出荷計画は200トン。県外出荷はほとんどない。

 さらに他産地に栽培が広がらなかった理由の一つに、種芋の貯蔵の難しさがある。種芋の確保に失敗したときは地域の農家で譲り合い、大切に受け継いできた。その産地で瀬川さんは、JAいわて花巻が地域の中核農家を指導役として任命する「農の匠(たくみ)」を務め、栽培方法や貯蔵法をアドバイスする。

 瀬川さんは出荷用とは別に、種芋用を栽培。11月ごろ収穫し、良質な種芋を選抜。地面に深さ1メートルほど掘った穴に11月下旬から入れ、翌年の3月下旬まで貯蔵する。

 種芋栽培の中で特に重視するのは肥料設計だ。元肥は出荷用栽培の3分の1から4分の1。追肥もしない。先輩農家から「肥料はやるな」と習ってきた。「早くに肥料を切らして、早く熟させるイメージ」。芋が若いと穴の中で成長を続けてしまい、腐る原因になってしまうという。

 約4カ月間の貯蔵も気が抜けない。芽が出たり、腐ったりするのを防ぐため、穴の温度を10度前後に保つ。保管の際は種芋の上にもみ殻をかぶせ、温度を調整。天気によって量を調整する。

 「二子さといも」は9月、地理的表示(GI)保護制度の登録を受けた。瀬川さんは、前JA北上地域野菜部会さといも専門部長として、GI取得に尽力した。「ブランド化し、若い人が作ってくれる状況にして面積減少に歯止めをかけたい。種を欠くわけにはいかない」と、知識を惜しみなく伝える。(塩崎恵)
 

経営メモ


 「二子さといも」30アールの他、ネギ40アール、トマト26アールを栽培。前二子さといも生産組合長などを務めた。
 

私のこだわり


 「先輩たちの知恵で300年大事に栽培してきた。種は買えない。なくしたくないし、なくさないようにするには、手間暇をかけてやるしかない」 
 

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