[結んで開いて 第2部][ここで暮らす](5) 集落とナース挑戦 元気な人、元気な町へ 島根県雲南市

高齢者宅を訪問する柿木さん。会話をしながら、血圧を測って体調を確認する(島根県雲南市で)

 病院に通うのは大変――。高齢者が多く、医師の少ない農村で共通した課題だ。ならば、なるべく病気にならないようにしよう。住民と看護師が結び付いた新しい挑戦が、島根県雲南市で始まった。集落にナースが飛び込み、体調を見るのは診察室ではなく、日々の生活の場。暮らしの会話の中に元気が生まれる。

 「最近、めまいはない?」「大丈夫。これからみんなで散歩に出掛けるの」。同市南部に位置する波多地区。人口300人余り、高齢化率が5割を超す農村で今年から、こうした会話が頻繁に聞かれるようになった。

 高齢者に声を掛けるのは、柿木守さん(25)。柿木さんの役割は「コミュニティナース」。担当の波多地区に週3、4回は出向く。病院の中ではなく、集落に入り込んで、拠点の交流センターや訪問した住宅で住民と交流。健康や生活の相談に乗る。中長期的な関係を築き、病気の予防や早期発見につなげる。

 医療サービスに恵まれない過疎地の暮らしを支える。新しい看護の形として、仕組みは各地から注目されている。

 地区に唯一の診療所に、医師は週に1度しか来ない。住民で猟友会に参加する藤原功雄さん(75)は「悪くなる前に相談できる柿木君の顔を見るだけで安心だよ。看護師先生ではなく、息子のような感覚かな」。いつも顔を合わせているから、何でも相談できる。

 首都圏の総合病院で3年間勤務していた柿木さん。具合が悪くなってから病院に来る患者が多いのを見てきた。そこから治療しても、高齢者は回復できないこともある。「だったら、体が悪くなる前に一緒にできることを考えたくて」。地元にコミュニティナースの先駆者がいたこともあり、同市にUターンした。

 ナースを雇い、地区に派遣するのは、同市のNPO法人・おっちラボだ。代表の矢田明子さん(38)は、コミュニティナースの第一人者。全国各地で育成を手掛ける。

 温泉の休憩所で、おばあちゃんたちの井戸端会議にも加わり、農作業を手伝って、住民の暮らしにとけ込む。何気ない会話が、健康や生活習慣を知るヒントになる。レシートを管理して、不足している栄養のアドバイスもする。

 矢田さんは「中山間地は助け合わないと暮らしていけませんから。人を思いやり手を差し伸べる土壌が、農村には残っています」と、可能性を見いだす。新しい看護の道を志す若者と、彼らの力を必要とする住民を結び付ける。

 今年度、同市で、柿木さんを含む3人がコミュニティナースとして働き始めた。新しい動きだけに、住民に理解してもらうところからだ。考え方を説明し、少しずつ賛同してくれる地域が増えてきた。

 新市地区の地域自主組織「新市いきいき会」。サロンや体操教室など、催しの内容をナースと共に考え、取り入れる。同会事務局の郷原剛志さん(71)は「気軽に会って相談ができ、安心を届けてくれる。新しい風をばんばん吹かせてほしい」と期待する。

 矢田さんは「みんなが元気で暮らしたいという思いを、住民や行政、医療機関などが共有するため、コミュニティナースを活用してもらえたら」と理解を訴える。

 波田地区では活動半年で、柿木さんが拠点とする交流センターを訪れ、血圧を測りに来る住民が増えた。心も体も元気なままで。健康な集落への道筋は、徐々に広がり始めている。

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