「外交の安倍」というウソ 失敗繰り返すのか? 立教大学経済学部特任教授 金子勝

金子勝氏

 外交になっていない。安倍外交のことである。

 自民党は2012年12月の総選挙で、「TPP(環太平洋連携協定)交渉参加に断固反対」だと公約したのにもかかわらず、公約を破りTPP交渉に入った。今度は米国のトランプ大統領がTPPを離脱して2国間交渉を求めてくると、残る11カ国の自由貿易協定(FTA)でTPP合意を図り、トランプ政権をTPPに引き戻すとしてきた。ところが、9月26日の日米首脳会談でトランプ政権に2国間FTA交渉開始で押し切られてしまったのである。
 

ごまかしTAG


 安倍政権はFTAではなく、日米物品貿易協定(TAG)交渉だと主張する。しかし、米国大使館による共同声明の和訳のどこにもTAGの文言はない。ペンス副大統領は日米FTA交渉に入ったと明言する。多くの外国メディアもそう報じている。

 実際、共同声明では「米国と日本は、必要な国内手続きが完了した後、早期に成果が生じる可能性のある物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する」「上記協定の議論が完了した後、貿易および投資に関する他の項目についても交渉を開始する」とある。素直に読めば、FTA交渉だ。TAGは言い逃れにすぎない。

 そもそも世界貿易機関(WTO)協定の第1章第1項で「最恵国待遇」が規定されており、FTAにはその例外が認められる。もしTAGがFTAでないと言うなら、日米2国間貿易交渉で合意された内容は全てのWTO加盟国に適用されてしまう。それでは、農産物は丸裸にされてしまうことになるではないか。

 一部には、TAGで粘り合意を難しくして、トランプ政権をTPPに引き戻す安倍政権の戦術だという見方もある。だが、米政府の主張に右往左往している今の安倍政権に、そのような外交力があるのだろうか。

 安倍政権は、自動車で懸念された米国による追加関税がなくなったことを、あたかも成果であるかのように宣伝する。だが、交渉中なら当たり前のことだ。共同声明には自動車関税を回避するとどこにも書かれていない。ロス米商務長官は、日本が自動車の対米貿易黒字を是正するには、米国に製造拠点を移すことだと主張し、ムニューシン米財務長官は通貨安誘導を制裁対象とする「為替条項」を要求した。輸出自主規制や関税も出てくるだろう。
 

農産物既に譲歩


 安倍政権は農産物について、TPP以上は譲らないとしている。それだけでも既に大幅な譲歩であるが、共同声明は「日本の過去の経済連携協定」を最大限としか書かれておらず、早くもパーデュー米農務長官は、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)以上の農産品関税引き下げを要求した。自動車交渉がもめれば、農産物への要求を強めてくることは必定である。

 この間、「外交の安倍」といわれてきたが、実はメディアが創り出した印象操作にすぎない。結果は惨憺(さんたん)たるものだ。原子力発電所のセールス外交もことごとく失敗。北朝鮮問題では事実上「蚊帳の外」。自ら訪朝して拉致問題を解決すると言うが、見通しは立たない。ロシア訪問では、プーチン大統領に北方領土問題を事実上棚上げした形の平和条約締結を主張され、反論さえできない。きちんと主張すべきことを主張できないのだ。看板に偽りありと言わざるを得ない。

〈プロフィル〉 かねこ・まさる

 1952年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程修了。2000年から慶応義塾大学教授、18年4月から現職。著書に『金子勝の食から立て直す旅』など。近著に『日本病 長期衰退のダイナミクス』(岩波新書)。

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