誰を幸せにする農業か 自発的な営みが基本 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏

 北海道十勝、新得町にある共働学舎新得農場は、チーズ好きなら知らない人はいない国産チーズの聖地です。代表の宮嶋望さん(67)は35年前からチーズ作りを始め、国内外の賞を受賞。農場全体の売り上げは2億円を超え、ここで学んだ職人や酪農家は全国に100人以上です。さぞかし大きな牧場かと思いきや、牛の頭数はブラウンスイスだけ(搾乳牛で)52頭という北海道の大規模酪農とは正反対の方向にひた走る牧場です。 先日もNPO法人チーズプロフェッショナル協会によるジャパンチーズアワードが開催され、全国280のチーズ工房のうち80工房が参加して、グランプリをはじめ共働学舎で学んだ人の多くが受賞しました。国産チーズ文化の礎を築いたリーダーといえますが、その道のりはいわゆる農業法人とは異なります。

 そもそも「共働学舎」とは、障害や生きづらさを抱える人が共に働いて暮らし、福祉と教育を掲げる「農業家族」として、1974年に故・宮嶋眞一郎さんが長野県小谷村に創立しました。その後の78年、長男の望さんは第2農場として妻の京子さんや仲間と6人で新得町に入植し、今では何と70人以上の大所帯となり、半数が障害などを抱える人たちです。搾乳牛の頭数よりも多くの人間が暮らしていくために、チーズ加工は欠かせない生き残り戦略だったのです。毎日の朝礼では、今日の自分の仕事を全員が発表し、牛の世話や掃除、販売など、みんな何かしらの働きをしています。

 宮嶋さんいわく、「今日何をしますか」という問いかけは、「あなたはどう生きますか」ということに他ならない。誰だって世話を受けるだけでなく、自発的に生きたいと語ります。 今、国でも農福連携などソーシャルインクルージョン(社会的包摂)を進めていますが、これは新しい動きというよりむしろ、本来「農」に含まれていた「土を耕し食を生みだす教育福祉生活的な営み」を商工業に分け過ぎた反省なのではないでしょうか。

 チーズ作りに欠かせない微生物や発酵文化が見直されている今の時代は、一見小さくて弱い個々の多様な働きが、食だけでなく農業にも地域にも国造りにも必要だというサインに思えてなりません。働くという言葉は、「はた」を「らく」にすると言います。誰かにしてもらうのではなく、自分は何ができるか。「共働」と「協同」の目指すものは同じはずです。
 

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