荻野アンナさん(作家・慶應義塾大学教授) 地酒のあてにご当地料理 地方の珍味に目がない

荻野アンナさん

 がフランス系米国人、母が関西系日本人なんです。母は画家としてかなり忙しかったので、兵庫県の明石に住む祖母が育ててくれたようなもんでして。祖母がねんねこで私をおんぶしてくれてたんです。

 そういうふうに育ったので、好きな食べ物はいろいろあります。その中から取捨選択して最後に残ったのは、餅なんです。私は自分の死因をいろいろ考えてるんですけど、つきたてのずんだ餅をすするように食べている時に、喉に詰まらせてポックリ逝くというのが理想です。

 フランスに留学していた時のことです。パリ国際大学都市という地区に、学生と研究者が住む各国の寮があります。アメリカ館やイタリア館というように。日本館もあって、日本人が半分、外国の方が半分住んでいました。私は別の女子寮に住んでいたんですが、たまに日本館を訪ねていました。

 その日本館で冬に、餅つき大会がありました。つきたてのお餅を食べられるというのでものすごい勢いで食べたら、動けなくなって。留学生の部屋を借りてしばらく休ませてもらって、みんなにあきれられました。

 れまでつきたてを食べたことはありませんでした。初めて経験するおいしさにうれしくなって。落語に「そば清」という噺(はなし)があります。そばを食べすぎた男が、ウワバミが使っていた消化薬代わりの薬草を口にしたら本人が溶けちゃって、そばが羽織を着て座っていたという。ほとんどその世界でした。

 お餅に限らず、でんぷんが大好きなんで、糖質制限ダイエットはできませんね。日本人にとってのお米、フランス人にとってのパン。これは「基本のき」です。これを捨て去ってしまったなら、食事が貧しくなってしまいます。

 私はご飯派でもあり、パン派でもあります。おいしいフランスパンには目がないですが、ご飯もおかずが何もなくても食べられるくらい好きです。今はもうなくなった近所の居酒屋は、お釜でご飯を炊いていたんです。それが日本酒とよく合ったんですよ。本気で炊いたおいしいご飯なら、それをつまみにお酒が飲めます。でもフランスで和食や日本酒をいただこうとは思いません。フランス料理を食べながらワインを飲みます。

 その土地で作られたものが一番。「お酒は何が好きですか?」と聞かれたら、「目の前にあるお酒です」と答えます。その土地で作られた料理を、そこで作られたお酒といただくのがいい。

 地方に行くと、独特の珍味がありますでしょう。苦手な人もいるでしょうけど、私は珍味が好き。例えば東北に行ってホヤが出ると、一緒に行った人で食べられない人もいます。私、その人の分をいただいちゃいます。人の苦手な珍味って、狙い目ですね。

 のおつまみだけではなく、地方では食材全般を楽しむことができます。市場や道の駅、商店街に寄って、買い物をするのが大好きです。群馬に行った時においしいネギがあると聞き、買いました。バッグからネギの頭を出した状態で持ち帰って。感動的においしく、すき焼きの主役になりましたね。

 私は横浜に住んでいまして、地元紙に商店街巡りの連載を10年ほど書き続けています。「買い者 荻野アンナ」という名刺を作って。この取材の時にはものすごく大きな袋を持って行き、取材中に見つけた野菜、肉、魚を買い、最後は袋を引きずりながら歩く状態になってしまいます。取材の後1週間は、食生活が豊かになりますよ。(聞き手・写真 菊地武顕)
 

 おぎの・あんな


 1956年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、パリ第4大学で学ぶ。91年『背負い水』で芥川賞、2002年『ホラ吹きアンリの冒険』で読売文学賞、08年『蟹と彼と私』で伊藤整文学賞受賞。05年に落語家・金原亭馬生に弟子入り。二つ目の金原亭駒ん奈として高座にも上がる。 
 

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