原発事故で出荷制限の福島 イノシシ処分苦慮 埋却負担重く 高齢狩猟者 地域維持へ奮闘 頭数が増加放棄地拡大

農地を巡回する助川さん(右)と荒井さん(福島県田村市で)

 東京電力福島第1原子力発電所事故の影響で、捕獲したイノシシをジビエ(野生鳥獣の肉)として流通させられない福島県などの地域の狩猟者らが、今年も処分に苦慮している。原発事故前は狩猟者らで食べるなど活用をしてきたが、焼却炉を建設した一部地域を除き埋設するしかなく、11月半ばから狩猟シーズンを迎えた中、埋却は狩猟者にとっての相当な負担となっている。事故から7年たった今も、現場では捕獲後の出口が見えない状況が続く。

 イノシシが荒らし稲刈りができなかった田んぼや、事故後に鳥獣害などを理由に耕作をやめた農地を回りながら、福島県田村市船引町の狩猟者、助川秀俊さん(74)が険しい表情で話す。「原発事故前は、イノシシの被害は深刻じゃなかった」

 事故前、同町で捕獲したイノシシは年間5頭前後で、地域で祝って食用にしていたほど貴重だった。しかし、県猟友会田村支部の支部長を務める助川さんによると、事故で人が住めなくなった家や農地などにイノシシが押し寄せ、繁殖率も高まり、農作物被害は一気に全域に広がった。同市によると、助川さんら実施隊が昨年捕獲したイノシシは989頭にも上る。

 狩猟歴54年の助川さんは昔、農地の隅々まで桑や葉タバコが作られていた状況を知るだけに、荒れる古里が悲しい。食い止めようと捕獲を頑張るが、地主の許可を得てスコップで1メートル以上の穴を掘って埋める作業について「高齢の狩猟者が、重機の入らない、山道もない場所で掘るのは大変な苦労だ」と明かす。イノシシの増加が耕作放棄地増加の原因となり、荒れ地がイノシシの隠れ場所となり、さらにイノシシが増え農家が離農するという悪循環に現場は陥っているという。

 同県は事故前までシイタケの原木を県外に出荷する筆頭産地だったが、出荷できないために山に入らない農林家が増え、山道もなくなり、狩猟が難しくなっている。事故前は5000万円前後だった県の農作物の鳥獣被害額は、原発周辺12市町村を除いて現在9000万円前後で推移。田村市の農家で狩猟者の荒井久二男さん(68)は「捕獲しても処分は狩猟現場に丸投げの状況が続く。農家、地域のために捕獲を続けるが、減らない農業被害にむなしくなる。このままでは地域がイノシシの勢力に負けてしまうんじゃないか」と苦悩する。

 農水省によると、ジビエ利用については、福島県は摂取制限と出荷制限、岩手、山形、宮城、茨城、栃木、群馬、千葉の全域と、新潟、長野の一部地域は出荷制限の状況だ。

 行政から処分や捕獲の費用として報奨金は出るが、問題解決には至っていない。福島県内では自治体によって差があるものの、国、県、市町村の補助金合わせて1頭当たり2万円前後になる。県内では鳥獣害対策として農家が狩猟免許を取得する傾向もあるが、実際の現場で活躍するには技術が必要となる。県は「狩猟者に大変苦労を掛けていることは承知している。高温で発酵させて処分する実証実験も進めているが、抜本的な処分の解決方法がない」(環境保全農業課)と説明する。2億円近い工事費をかけて有害鳥獣専用の焼却処理施設を建設した地域もあるが、莫大(ばくだい)な維持運営費や人員が必要となる。

 宮城県丸森町の元農家、一條功さん(68)は狩猟者と共に立ち上げたジビエの加工施設を事故の影響で閉鎖した。「イノシシの流通が再開できれば捕獲数も増えるのではないか。今のままでは、イノシシ害の解決策が見えない」と嘆く。

 農水省は、ジビエの出荷制限が長引いていることに「餌となる野生のきのこから基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超える放射性物質が検出されていることから、まだ当面は全面解除は難しい。一部解除を続けていく」(農村環境課)としている。 
 

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