武器としての食料 1兆円で攻める米国 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 国民の命を守り、国土を守るには、どんなときにも安全・安心な食料を安定的に国民に供給できること、それを支える自国の農林水産業が持続できることが不可欠である。まさに、「農は国の本なり」、国家安全保障の要である。そのために、国民全体で農林水産業を支え、食料自給率を高く維持するのは、世界の常識である。食料自給は独立国家の最低条件である。それを放棄しようとしているのが日本である。 例えば、米国では、食料は「武器」と認識されている。米国は多い年には穀物3品目だけで1兆円に及ぶ実質的輸出補助金を使って輸出振興しているが、食料自給率100%は当たり前。いかにそれ以上増産して、日本人を筆頭に世界の人々の「胃袋をつかんで」牛耳るか。そのための戦略的支援にお金をふんだんにかけても、軍事的武器より安上がりだ──。まさに「食料を握ることが日本を支配する安上がりな手段」だという認識である。

 ただでさえ、米国やオセアニアのような新大陸とわが国の間には、土地などの資源賦存条件の圧倒的な格差が、土地利用型の基礎食料生産のコストに、努力では埋められない格差をもたらしている。それなのに米国は、輸出補助金ゼロの日本に対して、穀物3品目だけで1兆円規模の輸出補助金を使って攻めてくるのである。

 ブッシュ元大統領は、食料・農業関係者には必ずお礼を言っていた。「食料自給はナショナル・セキュリティだ。皆さんのおかげでそれが常に保たれている米国は何とありがたいことか。それに引き換え、(どこの国のことか分かると思うけれども)食料自給できない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国だ(そのようにしたのもわれわれだが、もっともっと徹底しよう)」と。

 また、1973年、バッツ農務長官は「日本を脅迫するのなら食料輸出を止めればよい」と豪語した。さらに、農業が盛んな米国ウィスコンシン大学の教授は、農家の子弟が多い講義で、「標的は日本だ。直接食べる食料だけじゃなくて畜産の餌穀物を米国が全部供給すれば日本を完全にコントロールできる。これがうまくいけば、これを世界に広げていくのが米国の世界戦略なのだから、君たちはそのために頑張るのだよ」という趣旨の発言をしていたという。 戦後一貫して、この米国の国家戦略によってわれわれの食は米国にじわじわと握られてきた。故宇沢弘文教授は、友人から聞いた話として、米国の日本占領政策の2本柱は、①米国車を買わせる②日本農業を米国農業と競争不能にして余剰農産物を買わせる──ことだったと述懐している。

 トランプ政権下では、①最低輸入義務台数として20万台の米国車を買え②米の最低輸入義務数量を7万トン(環太平洋連携協定=TPPで約束した米国枠)から15万トンに増やせ──と要求している。占領政策は今も同じように続いている。そして、日米経済連携協定(FTA)で、いよいよ「総仕上げ」、最終局面を迎えている。

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