「小農宣言」の意義 官邸農政見直す契機に

 世界の家族農家と農村で働く人々、それを支える協同組合にとって歴史的な国連宣言だ。小農の権利を守る宣言が、国連総会で正式に採択された。それは世界の潮流に背を向け、市場原理に染まるわが国の官邸農政の見直しを迫るものでもある。

 小農の権利宣言は、二つの意味で画期的だ。一つは、世界の農家の9割、食料生産の8割を占める小規模・家族農業を正当に評価し、「食料主権」「種子の権利」「農村女性の権利保護」「労働安全や健康の権利」などを守ることを明確に盛り込んだことだ。

 だから宣言は、農林漁業者、農産加工など農村で働く人々に対象を広げている。それは1次産業と農村社会が一体との考えからだ。しかも農業者らが協同組合に参加する権利、協同組合の独立性まで明記しており、この点でも大いに評価できる。

 二つ目の意義は、グローバル経済よって破壊され、浸食されてきた家族農業や農村の価値と役割を再定義することで、真に持続可能な社会モデルを提示したことにある。

 宣言に至る背景には、多国籍企業による農地の大規模化や集約化、開発援助に名を借りた先進国の経済覇権などで、「食の主権」を奪われ、搾取と差別にあえいできた途上国農家の粘り強い抵抗運動があった。それを後押し、来年からの「国連家族農業の10年」につなげた国連食糧農業機関(FAO)の戦略も見逃せない。

 世界銀行や国際通貨基金(IMF)を中心とした米国など先進国主導の途上国支援の構図がすぐに変わらないにしても、今回の宣言を家族農業再生の足掛かりにしたい。

 問題は、米国の顔色をうかがうように採択を「棄権」した日本政府の主体性のなさである。宣言を途上国の零細農家の人権問題に矮小(わいしょう)化してはならない。政府は農政の主体を大規模・法人経営体に置く成長戦略にそぐわないと思っているのか。それとも主要農作物種子法の廃止など「食料主権」に背く政策を連発していることに後ろめたさがあるのか。

 FAOが、家族農業こそ持続可能な食料生産の担い手というように、これは普遍的な課題である。わが国の農業経営体の98%は家族農業であり、そこが集落営農を守り、地域の自治や伝統文化、自然景観を守っているのである。だからJAグループは小農宣言を歓迎し、中家徹JA全中会長も「地域に根付いた家族農業は重要であり、地方創生の観点からも大切だ」と評価している。

 宣言に法的拘束力はないが、そこに盛られた事項は、日本を含む全ての国連加盟国に課せられた責務である。政府は、宣言の意義を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。家族農業の振興策を食料・農業・農村基本計画の見直し論議に反映させ、具体的施策に落とし込むことが求められる。 
 

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