日米貿易協定 使い分け 通用しない 経済評論家 内橋克人

内橋克人氏

 俗に「内づらと外づらを使い分ける」と言う。新年1月中旬にも始まる日米貿易協定交渉を指して、政府は「日米物品貿易協定」(TAG)なる日本製・造語を発し続ける。内と外で呼び名を使い分け、事の本質を隠して世論の反発を避ける。言い繕いは安倍政権の得意技だ。

 他方、米国側は当初から「われわれは日米自由貿易協定(FTA)を求めている」との主張を通し、米通商代表部(USTR)はこのほど新たに「米日貿易協定」(USJTA)なる規定を採択した。既にUSTRが開いた各種団体の公聴会は農畜産関連をはじめ44団体に及ぶという。

 日本政府が「物品貿易協定」の呼称にこだわる理由は、はっきりしている。

 TAG(Trade Agreement on goods)ならば、日米間の関税の駆け引きは「モノ」(物品)に限って行われる。これがFTA、すなわちUSJTAともなれば、交渉の中身は投資から金融、通信、サービス、経済社会のルール……まで、全てを含む「包括的自由貿易協定」となる。両者の違いは大きい。それを日米の2国間で結ぶというものだ。

 だが、今なお日本政府は国民に向けて「物品だけの関税交渉にすぎない」との印象付けを変えようとしない。
 

いずれはFTA


 メディアも頻用する。しかし、日本政府は米国に対して「いずれ包括的なFTA交渉に入るのもやむを得ない」と譲歩している(官邸筋)。今、両国民の深い認識格差をそのまま残したまま日本政府は世界の覇権国相手に「受け身」で交渉の場に踏み出そうとしているのだ。

 折も折、米最大手自動車メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)が11月末、大規模なリストラ計画を発表した。英国の経済紙フィナンシャル・タイムズ紙によれば、GMは国内4工場とカナダの1工場を閉鎖し、従業員1万4000人を解雇する。フォード・モーターがこれに続く。オートバイのハーレー・ダビッドソンは欧州向け生産拠点を海外に移すと既に発表している。トランプ米大統領は激怒した。
 

首絞まる米流儀


 しかし、トランプ氏の導入した鉄鋼、アルミ関税の引き上げが、米メーカーが必要とする原材料や重要部品の価格上昇を招き、アジア、欧州車に太刀打ちできなくなったからだという。輸入を減らそうと関税引き上げを発表しただけで米国内の鉄鋼価格は上昇を始めた。ブーメラン効果、悪く言えばトランプ氏は返り血を浴びつつあるということになるだろう。

 すなわち米国が自ら進めてきたグローバル化は世界各国のサプライチェーンを巻き込み、トランプ流儀が通用し難い次元にまで行きついてしまっているのである。

 皮肉なことに、中国からの米国向け輸出額の60%以上が欧米系多国籍企業の手によるとされる。トランプ氏の怒りの源泉である不均衡な貿易赤字の少なからぬ部分は、IT製品や通信機器など中国の低賃金と成長市場を求めて進出した米国などの巨大な多国籍企業が生み出したものなのだ。

 メキシコ国境に壁は築けても、マネーの流れをせき止めることはできない。代わってトランプ流儀と安倍手法の前途に頑強な「壁」が見え隠れしている。

<プロフィル> うちはし・かつと

 1932年神戸市生まれ。新聞記者を経て経済評論家。日本放送協会・放送文化賞など受賞。2012年国際協同組合年全国実行委員会代表。『匠の時代』『共生の大地』『共生経済が始まる』など著書多数。

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