TPP発効の代償 前例ない総自由化懸念

 自由化の巨大波が襲う。米国を除く11カ国による環太平洋連携協定(TPP11)が30日に発効する。わが国は歴史上経験のない農業総自由化の新局面に入る。課題を抱えたままの「見切り発車」と言えよう。歯止めがかからない自由化の連鎖とならないか。懸念は強い。

 TPP11発効は、通商協議の地図を塗り替えかねない。前例のない農畜産物の自由化が進み、来年4月からは協定2年目の関税削減が迫られる。輸入農畜産物が一層、国内市場に流れ込むだけでなく、関税削減に伴い国内対策に回していた財源が細る“ダブルパンチ”となる。

 安倍晋三首相は国会答弁で「生産者の不安に向き合い、再生産へ十分な対策を講じる」と繰り返した。しかし首相答弁とは裏腹に、財政は火の車で国の負担は早晩限界が来る。既に飼料用米の支援削減が声高に叫ばれ始めたのは、その証左だ。

 問題は、多国間協議で国内農業の打撃を最小限に抑える戦略が破綻したにもかかわらず、「見切り発車」で強引に推し進めたことだ。

 TPPの本質は、市場開放と規制緩和、地域の安全保障が密接に絡んだ「日米経済軍事同盟」だ。背景には膨張主義を強める中国への対抗がある。米中激突の中で、TPP論議は進んできた。だが米国抜きの11カ国が残り、年明けの対米協議が控える想定外の結果となった。

 米国参加が前提で決めた、いくつかの仕組みの整合性も問われている。TPP11第6条の「見直し条項」は、米国の協定復帰の可能性がなくなった際の見直しを規定した。実際にトランプ政権での復帰は全くなくなった。日米貿易協定交渉開始が決定し、米国のTPP復帰がなくなった今こそ、政府は協定見直しの約束を果たすべきである。

 牛・豚のセーフガード(緊急輸入制限措置)発動基準や生乳換算7万トンの乳製品低関税枠から、米国分を差し引かなければ、自由化の打撃は大きくなりかねない。国産食肉価格を下支えするセーフガードは機能せず、戦略品目チーズの国産化にも逆風だ。

 農水省は、プロセス原料チーズの抱き合わせ制度を維持したとしている。だが、チーズ関税削減が進み4年程度で制度は効かなくなる。

 次に「代償」である。安倍首相は「TPPは幅広い分野で21世紀型のルールを作るもの」とTPP推進に固執した。今後の通商交渉に関税大幅削減・撤廃を盛り込んだ「TPP基準」を採用すれば、国内農業への打撃は避けられない。既に米国の農業団体は「TPPを上回る譲歩」を迫る。TPP強行決定の代償そのものだ。

 30日の協定発効に伴い、政府は畜酪国内対策も拡充する。大手スーパーは自由化還元セールと銘打ち、輸入牛肉などの販促を始めた。TPPの国内農業への悪影響を精査し、支援策の拡充を改めて検討すべきだ。

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