[結んで開いて 第3部][集落営農の先に](6) 定住後押し農地守る 空き家マッチング 島根県邑南町

持ち主の打診を受け、家の購入を決めた戸津川夫妻。高橋さん(左)も「真面目な二人で安心している」と温かく見守る(島根県邑南町で)

 島根県邑南町の出羽地区。12集落からなる農村で5年間に6軒、あるじを失った空き家に明かりがともった。32ヘクタールを耕作する合同会社出羽の、定住部門が仲介した移住者。20~40代の若い世帯が多い。

 Iターン就農した戸津川良さん(42)、美由紀さん(35)夫妻。住民から無料で借りた50アールの畑で、80種類の野菜を生産する。

 「畑が隣にあり、倉庫もついている。農業をするには最適の環境。本当に良い縁に恵まれた」

 県西部、浜田市出身の良さん。スーパーの青果バイヤーとして多くの農家と接した。「安値重視の時代。販売側は作り手の声を届けきれない。自ら作り、発信したい」

 師匠と慕う農家が住む同町で就農を望んだ。同社は、家の持ち主と賃貸の条件などを交渉。移住者と集落長の面談の場を設け、地域とつなぐ。

 17人いる出資社員の職業は農家の他、不動産、建築業などさまざま。空き家は必要があれば、同社が150万円程度まで出して改修する。1カ月の家賃は3万円ほどだ。

 出羽地区の人口は900人を切り、10年間で約150人減少した。農地の管理に空き家の活用、交通弱者対策……。安心して住める魅力的なまちをつくるため、新たな人材に期待をかける。

 人を呼び込んで農地を守ってもらうだけではなく、同社も担い手不在の農地を預かり、水稲や野菜の生産、繁殖和牛の飼育を手掛ける。年間売上高は3000万円。農地の預かりは、2013年の設立から倍増し、集落全体の農地150ヘクタールの約2割になった。県内の農業大学校を卒業した20代2人を、正社員として雇う。

 地区を束ねる自治会が核となって活動してきたが、取り組みが多彩に広がったため、会社設立に踏み切った。17年には、起業支援を開始。廃業した商店を改装して2人がパン店と雑貨店を開業するなど、生活となりわいの場を整えてきた。

 同社事務局の沖野弘輝さん(50)は「住民の思いを形にする実働隊として、会社が存在する」と結束の固さを実感する。

 新しい人を迎え入れる姿勢にも気を使う。集落長の高橋雄二さん(63)は言う。「困ったときには親身に相談に乗るが、集落の役や行事の参加は強制しない」。まずは自分の生活を築くことを優先してもらう。程よい距離感が、居心地の良さを生んでいる。

 築50年を超えた空き家に戸津川さん夫妻が移住してきた14年。住民が開いてくれたお披露目会で、良さんには忘れられない言葉がある。

 「よう、ここに来てくれたな」

 この地でやっていく自信が持てた。

 「この地にずっと残ると意思表示をして、皆さんに安心してもらうことが、恩返しになる」。家を購入し、永住する決意を固めた。

 沖野さんは「農家だけでつくる組織だと、こうはいかない。多様な人材がそろうのも、12の集落を股にかけた広域組織の強みだ」と話す。集落、営農の枠も超えて、農村の魅力を高める実働隊として活躍し、若者の定住に結び付ける。

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