この一年「内政」 改革で1次産業窮地に

 安倍政権下の「官邸農政」は、農林水産業に一層の規制緩和を迫った。主食である米の生産調整から政府は手を引き、生乳の流通自由化も始まった。森林業や漁業なども企業参入を促す法改正が行われ、1次産業は改革の荒波にもまれ続けた。

 長く政府が主導してきた米の生産調整は、今年産から生産者自らが取り組む方式に変わった。生産に大きな変化はなく、作況が「98」だったこともあり比較的安定した需給となった。

 だが、来年産以降の生産動向次第では、稲作の危機に直面する恐れがある。高齢化と人口減少で米の消費量は年間10万トン以上減る見通しだ。海外との貿易交渉に伴う義務輸入が続く中、政府が音頭を取る輸出は1万トン台にとどまる。米価急落の危険性は高まる一方だ。

 生産者自らの生産調整と言えば聞こえはいいが、主食に対する国家責任の放棄とも言え、しわ寄せは稲作農家が被る。このままでは国土の維持すら困難となろう。

 酪農も規制緩和に踏み切った。政府は、酪農家の再生産を支える制度を畜産経営安定法(畜安法)に組み込んだが、指定生乳生産者団体の一元集荷を廃止。酪農家は事実上、自由に販売先を決められ、政府は産地が活性化すると強調した。

 しかし、都府県酪農の生産減に歯止めはかからず、増産につながっていない。むしろ北海道地震によって浮き彫りになったのは、安定的な供給を担う指定生乳生産者団体の重要性だった。酪農家の自助努力は必要だとしても、増産に向けて家族経営に対する国家的支援が求められている。

 民間企業の参入を加速する規制改革は「山」でも始まった。森林経営管理法が成立し、所有者が管理できないと地方自治体が判断した森林を、民間業者が伐採できる制度に道を開いた。

 林業の活性化に期待がある一方、「ハゲ山が増える」との懸念が後を絶たない。森林は国民の財産である。伐採と植林、管理を計画的に行う森林管理が必要だ。森林を永続的に守ってきた家族経営や、環境保全を重視する自伐型林業の役割を軽視すべきではない。

 臨時国会で成立した改正漁業法は、漁協や漁民を優先してきた漁業権を見直し、企業の新規参入をしやすく緩和した。

 主食の米、生乳、森林、魚、種子、水道に至るまで規制を緩めた。民間企業が参入すれば全て解決するといった姿勢は、「新自由主義」に基づく規制改革推進会議の一方的な考え方による。国民の共有財産を営利を目的とする企業に委ねていいのか。世界の状況を踏まえながら、慎重な検討が必要だろう。

 安倍晋三首相は、国会で「国民の懸念にもしっかりと向き合っていく」と述べた。国土を担う1次産業を守り維持することは国家的使命である。それを放棄するような「官邸農政」は早急に改めるべきだ。
 

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