[あしたのデッサン] 持続可能な農業 未来人の目で「解」導け

 農業・農村の「あしたのデッサン」をどう描くか。未来人になって今を考え、解決策を探る、そんな取り組みが各地で始まっている。持続可能な農業に導くための解は、今ではなく未来が握っている。

 漫画『ドラえもん』(小学館)の「未来の国からはるばると」では、お餅を食べながらのんびり正月を過ごすのび太の前に、突然、ドラえもんが机の引き出しから現れる。次々と悲惨なのび太の近未来を予測。孫の孫のセワシもやって来た。「きみののこした借金が大きすぎて、百年たっても返しきれないんだよ」。「すまないなあ。きみたち子孫にまでめいわくをかけて……。ぼ、ぼくは……、ぼくはもう、生きてるのがいやになっちゃった」。泣き出すのび太。ドラえもんとセワシがなだめる。「そんなに気を落とすなよ。運命は変えることだってできるんだから」

 そんな世界がもう始まっている。財政難や地方創生など複雑に絡み合った問題を、世代を超えて解決しようという試みだ。「フューチャー(未来)・デザイン」という手法で大阪大学大学院の原圭史郎准教授らが提唱している。
 

世代超えて議論


 タイムマシンがなくてもできる。将来世代を代弁するグループと、現世代のグループが互いに一つの問題の解決策を考え、ギャップや葛藤を乗り越えながら、持続可能な社会につなげる答えを導いていく。小さな組織から政府レベルまで規模を問わず、応用できるのが特徴という。

 実際、この手法を地域づくりに生かしているのが岩手県矢巾町だ。きっかけは老朽化する水道管の問題だった。少子高齢化が進む中、現状を維持するだけでも料金を倍増しなくてはならない時代。更新や耐震化をどう進めていくか。住民と共に考えようと2008年にワークショップを開いた。

 当初は、料金の値下げを求める声が続出。ところが施設見学や集団での議論などを重ねるうちに、問題を自分ごととして捉え「料金の中にメンテナンス料を含めるべきだ」との意見に集約され、1世帯当たり200円の値上げをしようという案が出た。

 値下げから値上げへ。それだけでも画期的な転換だが、同町企画財政課の吉岡律司課長補佐は「管の更新には1キロメートル6000万円かかる。200円の値上げをしても更新できる管は400メートル。これでは将来にわたる長期的な課題はクリアできない」と考えた。

 そんな時、原准教授から提案されたのがフューチャー・デザインだった。幅広い年代の住民を、41年後の60年から来た「仮想将来世代グループ」(6人)「現世代グループ」(6人)に分け、町の未来像を考えてもらった。60年には日本の人口は3割減って8674万人となり、5人に2人が65歳以上になる。
 

広がる取り組み


 現世代は「少子高齢化が進み、結婚する人が減る」「農業は衰退の一途をたどる」といった目先の課題から考えて議論が始まり、多くが暗い未来を描いた。一方、仮想将来世代は「田園風景や自然が豊かになっている」「野菜の栽培や加工場ができ、雇用増加」「自慢できる町になっている」と明るい未来を描き、「休耕地対策をしっかりする」「農地保全を優先する」といった建設的な提案が相次いだ。

 その延長で町の未来のために「長持ちする水道管を使おう」という意見が上がり、16年には一律6%の水道料金値上げが実現。水道管を更新できるめどもたった。

 「起点を今ではなく将来に置いて考えることで、方向性が違ってくる。今と未来、双方の考えを俯瞰(ふかん)することで新しい答えを導ける」と吉岡さん。今年は「フューチャー・デザインの町」を目指し、総合計画の策定に取り掛かる。

 原准教授によると、同町以外にも大阪府吹田市や長野県松本市、京都府などでも実践が始まっているという。「農業など複雑な課題にこそ応用が可能。将来世代の目線で農業政策を評価したり、地域資源に着目して独創的な提案をしたりできるのではないか」とみる。
 

JAこそ挑戦を


 この手法を農業や農村政策に取り入れられないだろうか。主役は農山村に暮らす皆さん。音頭をとるのはJAや自治体だ。未来から今の地域農業、農村を眺めたら、どんな提案が飛び出すだろう。

 地球温暖化は食い止められたのだろうか。家族農業は続けていけるのだろうか。自給率はどうだろう。国民の食料は足りているか。米の消費は。食の安全は。水、土、空気はどうか。JAは地域の農家経営と住民の暮らしを支えているだろうか。農山村に子どもの声はこだましているのだろうか。その時代に生きる子や孫のことを思い浮かべ、どんな農業・農村なら安心してバトンを託せるだろうか。

 多難な今こそ、地域農業のフューチャー・デザインを描こう。未来からの答えこそ、持続可能な農村をつくる鍵となるはずだ。

 お手本にしたいのがスイスだ。スイスは日本と同様、山間地で農業をしている。日本と違うのは「将来にわたって国民全体で農業を守る」という強い意識が根付いていることだ。 食料危機に陥ったらどうなるのか、消費者も真剣に食と農の未来を考えている。

 17年9月には農業団体や労働組合、消費者団体が一体となって国民投票ができる10万票の署名を集め、憲法に食料安全保障を盛り込むことに成功した。町の商店の店主やホテルの従業員など農家以外の国民が農業は「喜び」「命」と回答。農業を永続的に守り続ける意志を示した。

 経済学者の宇沢弘文氏は言う。「大切なことは、それぞれの国が持っている歴史と文化を社会的共通資本として大事に守り、それを子や孫の世代に伝えることであり、そのために私たちが力を合わせて協力し、協同して解決していくこと」(『人間の経済』)であると。その中心となるのが農の営みである。

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