国連「小農宣言」 可能性と力 直視せよ 民俗研究家 結城登美雄

結城登美雄氏

 2018年の世相を表す「今年の漢字」に「災」が選ばれた。大阪北部地震、西日本豪雨、台風21号、北海道地震など、すさまじい自然災害が列島を襲い、命はもとより住まい、作物、農地が失われ傷ついた。そんな1年を振り返り何とか災い転じて福となる道はないか、と焦る私の胸に示唆を与えるようなニュースが飛び込んできた。

 国連総会で「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言」が賛成多数で正式に採択され、19年から28年までを「家族農業の10年」と定めたことである。

 しかし、日本の多くのメディアはこのことをほとんど取り上げないため、国民の多くは小農や家族農業の大切さについては知らないままである。そうした中で、農業生産現場を知る日本農業新聞だけはその内容や意義、可能性について丁寧に伝えてくれている。このテーマはもっと国民運動として展開するべきだと思う。

 国連が小農や家族農業の大切さを訴えているのはなぜか。その背景の一つに世界人口の増加による食料不足の問題がある。今、世界人口は73億人だが、国連食糧農業機関(FAO)によれば、50年には97億人と24億人も増えると予想されている。

 当然ながらそれに見合う食料をどう確保するかは極めて重大なテーマである。既に現在、途上国の食料不安は深刻で飢餓人口が8億人を超えたといわれている。人間が生きていくための食料を生産する世界の農家の7割は家族農業で、食料生産額の8割を賄っている。日本の農業経営体138万のうち家族経営体は134万で98%を占める。周知のごとく日本の食料自給率(カロリーベース)は38%で主要先進国で最下位。いつまで海外からの輸入食料に頼っていられるのか。日本のこれからを考えるのなら、大規模農業一辺倒の政策だけでなく、小農や家族農業の可能性と力に真剣に向き合わねばならないのではないか。
 

直売活動広がり


 私にとって小農・家族農業への期待は、1990年に農水省によって“戦力外通告”された自給的農家(耕地面積30アール以下、年間販売額50万円以下)の女性や高齢者たちが畑に近いところに農産物直売所を造り、たとえ耕地は小さくても多彩な野菜は作れると生産意欲を向上させていった姿をこの30年近く見てきたことがベースになっている。

 小農は不要だと農政から見放されても、食べものを大切に思う心と力の結集から大きな可能性を生み出した小農たちの農産物直売活動。既にその数全国2万4000カ所に広がり、売り上げが1兆円を超えるまでになっている。

 その意義は経済活動にとどまらない。生産者と消費者、都市と農村の相互理解と連携による新たな可能性を秘めている。小さな力も集まれば大きな力になる。そのための学びの場とテキストが求められている。
 

<プロフィル> ゆうき・とみお

 1945年山形県生まれ。山形大学卒業後、広告デザイン業界に入る。東北の農山村を訪ね歩いて、住民が主体になった地域づくり手法「地元学」を提唱。2004年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

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