[あしたのデッサン] むら再生の道 しなやかに したたかに

 より大きく、より強く。欲望のおもむくままに資本が暴走してきた社会に、もうさよならを言おう。「小さな経済」「小さな協同」「小さな拠点」、そして「小さな農」の中にあしたを探そう。もうひとつの道を求め、再生の物語を紡ぎ始めた人や地域が、確かな未来を照らし出す。

 その村は「奇跡の集落」と呼ばれる。

 新潟県十日町市の山あいにある池谷集落。1960年当時、37世帯200人を超す人でにぎわった村は、40年間で8戸に減った。「次は誰が出ていくのか」。諦めが漂う中、とどめをさすように2004年、中越地震が襲う。ついに6世帯13人となり「村納め」を覚悟した。

 それが今、11世帯23人にまで増えた。朽ち果てる運命の棚田は、「山清水米」というブランド米を生み出す宝の田んぼに変わった。

 廃村寸前の小さな村が起こした「奇跡」とは──。

 池谷集落では、内と外の力が重なり合って化学変化が起きた。災害ボランティアや地域おこし協力隊が吹き込んだ外からの風、気付きと危機感で立ち上がった内側からの力。「集落の灯を絶やさない」。同じ目線、思いで課題に向き合い、協働の中から地域の未来図を描いた。

 その中核組織がNPO法人「地域おこし」。米の直販、農産加工、交流や定住支援、後継者育成を通じ「百年続く集落」を目指す。代表で稲作農家の山本浩史さん(67)は言う。「交流がなければこんな展開はなかった。彼らが気づきと自信を与えてくれた。中山間地の小さな村でも存続できる道を示したい」
 

「縁」を結び直す


 全国の村々で同じような芽生えがある。共通するのは、市場経済が断ち切って来た「縁」の結び直し。家族、地域、働く場で、つながりが薄れ孤立が進む「無縁社会」にあって、それは新しい共同体を作り直す作業だ。しかも旧来の閉じたムラ社会でなく外に開かれた場として。

 池谷集落が教えるのは、小さな経済が地域の中で回る仕組み作りだ。足元の資源を生かさず、中央や大資本の「下請け経済」に甘んじていては、持続可能な未来は開けない。

 「脱成長という成長」を唱える経済学者の水野和夫さんは、新しい制度設計ができるまで「資本主義の『強欲』と『過剰』にブレーキをかけることに専念」すべきだという(『資本主義の終焉(しゅうえん)と歴史の危機』)。

 新しい経済システムとは何だろう。「里の哲学者」内山節さんが提唱する「半市場経済」の考え方が参考になる。同名の著書の中で、内山さんは「貨幣の奴隷」から抜け出し、どんな社会で、どんな結び合いの中で、どんな働き方をしたいのかを問う。

 市場は利用するが、市場原理とは別の営み、人間本来の経済活動を「半市場経済」と名付けた。これからは「志」と「価値観」を共有する「共創社会」の時代だという。実践の場は地域。産業革命以来の経済学に替わる「ローカル経済学」に未来を見る。
 

「地域」を主語に


 地域再生のキーワードは、しなやかさとしたたかさ。「つながる力」と「多様な力」がかみ合うと「未来へ続く力」になる。

 徳島大学の田口太郎准教授は「多様な担い手による地域づくり」を提唱する。交流や移住は、数の競い合いでなく「地域自治の担い手」をどれだけ獲得できるかだとし、「地域を主語」にした主体的な取り組みを促す。

 それを実践し、地域の自治力を取り戻したのが岡山県美作市上山地区。山あいの棚田に10の集落が肩を寄せ合う約150人(67世帯)の村だが、実に移住者が18世帯40人を占める。

 ここの特徴は「多業」。移住者は棚田保全や地域活動に軸足を置きながら、「薬草販売」「医者」「介護職」「古民家カフェ運営」「建築業」「木工と移動販売」「キャンプ場運営」など、多彩ななりわいを持つ。

 集落再生の中心的存在で、移住のさきがけとなった水柿大地さん(29)は、地域に溶け込み、村人の困りごとに徹底的に向き合う。「地域に役立つ多業化」が、村の再生につながり、「よそ者」を受け入れる素地を作った。「日本の集落は生産性の悪い土地がほとんど。そこをどう保全し継承していくか。小規模だけど多様性があることで自治力を高められる」と話す。

 企業と連携して小型電気自動車や半自動草刈り機の開発などの「社会実験」も行う。日本の問題を先取りする地方だが、見方を変えれば、課題解決の先進地となる。情報通信インフラと先端技術、物流網の発達、外部人材が、それを可能にする。
 

ローカル革命を


 冒頭に紹介したNPO法人「地域おこし」事務局長の多田朋孔さん(40)も、地方だからこそ新たな産業構造の転換ができるという。多田さんの前職は経営コンサルタントで、池谷集落再生の実践とノウハウを『奇跡の集落』(農文協)にまとめた。

 多田さんは「経済成長」でなく「経済循環」こそ日本の生きる道だという。「経済成長を海外と競うのではなく、国内で食料・エネルギーなど生活に必要なものをすべて確保し、国内で循環できる手段を持つべき」「地方は、人口減少社会への対応策を現場で試行錯誤しながら形にしていく最先端の場所」(同書)だと確信する。「例えば、政府が米を農家から買い上げ、国民に支給するなど現物によるベーシックインカム(最低限の社会保障)の発想があってもいい」と話す。

 家族農業と農村を再評価した昨年末の国連「小農の権利宣言」、今年からは「国連家族農業の10年」も始まる。強欲なグローバル経済が限界を迎える中、「小さな農の大きな価値」に光が当たる。

 「つめたい市場経済」から「あったかい共生経済」へ。地域と暮らしを取り戻す人間のための「ローカル革命」はもう始まっている。 

おすすめ記事

論説の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは