新基本法制定20年 原点踏まえた農政を 明治大学農学部教授 小田切徳美

小田切徳美氏

 2019年は、農業基本法(旧基本法)の廃止、食料・農業・農村基本法(新基本法)の制定から20年となる。そして新基本法が「おおむね5年ごと」と定める基本計画見直しの議論がスタートする年でもある。

 新基本法は、旧基本法とは異なり、この基本計画という法律の目的達成に向けた仕組みを持つ。変化する状況に応じた政策の方向性は基本計画が規定し、新基本法はその根幹や原点を示している。

 これは、政策の大幅な変転にもかかわらず、実質的な改正を一度もしなかった旧基本法に関わる「反省に基づき」(『食料・農業・農村基本法解説』の逐条解説)、作られている。
 

相協力に照らせ


 それでは、新基本法にある根幹とは何か。周知の四つの基本理念の他にも、政策の仕組みにも注目したい。例えば第37条である。ここでは「国及び地方公共団体は、食料、農業及び農村に関する施策を講ずるにつき、相協力するとともに、行政組織の整備並びに行政運営の効率化及び透明性の向上に努めるものとする」とある。

 農政以外のほとんどの基本法でも、国の責務や地方自治体の役割が規定されており、「基本法」としての所以(ゆえん)はここにある。しかし、新基本法では、それに加えて両者の「相協力」の必要性がわざわざ書かれている。それは、国と地方の対等な協力関係の必要性を唱えたものだろう。

 ともすれば中央集権傾向を強めがちな最近の農政改革は、本来この条文に照らしてチェックされる必要がある。

 この点とかかわり、新基本法の条文には「地域の特性に応じて」というフレーズが6回も登場することも指摘しておこう。これは制定当時には例のない構成であり(後に森林・林業および水産の各基本法がこれを踏襲)、常に政策の地域的弾力性を意識する必要も新基本法の根幹となっている。

 例えば、農地中間管理機構(農地集積バンク)の制度設計の時に、都道府県単位で「地域の特性」に応じた農地政策運営が果たして十分にできるかが、この条文を意識して議論されたのだろうか。気になるところである。
 

地域性と透明性


 第37条で、もう一つ注目したいのは「透明性」である。「逐条解説」では「施策の立案に当たっての透明性を確保する」と書かれている。これは、ある日突然、政府の規制改革推進会議で発案され、関係者を議論に巻き込むことなく短時間の審議で決まった主要農作物種子法廃止のような政策対応を戒めていると理解できる。

 政策形成の過程で透明性がないことは、「政策のトレーサビリティー(追跡可能性)」(福島大学の生源寺眞一教授)の欠落を招く。政策がどこから、どのような経緯と議論で生まれたかをさかのぼることができず、後の検証さえも妨げてしまう。未来に対して、問題を残す。

 このように、新基本法は政策の地域性と透明性を特に意識している。それは、20世紀農政に対する政策当局の強烈な反省を踏まえた仕組みだったのではないだろうか。

 そうしたことを含めて、節目となるこの年に新基本法と現代農政の関係を深く考え、基本計画の見直しに備えたい。 


<プロフィル> おだぎり・とくみ


 1959年神奈川県生まれ。農学博士。東京大学農学部助教授などを経て2006年より現職。専門は農政学、農村政策論。日本学術会議会員、日本地域政策学会会長。『農山村からの地方創生』(共著)など著書多数。 
 

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