農の喜び 言葉に 自ら発信、共有へ一歩 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏

 毎年2月、全国農協青年組織協議会では青年の主張大会を開いています。先日訪ねた北海道JA青年部で「青年の主張」冊子を頂いたのでページをめくっているうちに、一人の酪農家の話に引き込まれました。

 中標津町の須藤宗裕さん(31)は、子どもの頃から牛舎で忙しく働く両親を見て育ち、いつか自分の代になったら大規模にすることを夢見ていました。しかし、学生の時に実習先で見たのは、収入は多くても牛の生産寿命が短く、すぐに淘汰(とうた)されてしまう大規模経営の現実でした。

 その後、後継者となった須藤さんは、JAけねべつ青年部の活動として「牛と酪農家のつながり」のCMを制作しました。母牛が出産する映像に「私の仕事は生乳を得るだけではない、命と向き合うこと」というメッセージの作品を仲間と作り上げたとき、改めて気付いたことがありました。

 憧れだった大規模経営では、どこか牛をモノのように扱う傾向がありましたが、小さい頃から牛と触れ合ってきた自分は、それを許すことができない、と思ったのです。命ある母牛の生乳を頂くことで自分たちは生活している。一頭一頭に感謝し、牛が長くいられる経営にしたい。それ以来、目標は変わりました。搾乳牛は65頭、低コストで多出産を目指しています。そして今では、須藤さんの2歳と3歳になる子どもたちが牛舎へ来て牛をなでるようになりました。

 須藤さんの話には、後継者ならではの苦悩があり、親、自分、子どもの3世代の人生が織り込まれていました。北海道酪農というと、都府県に比べ大規模で、メガファームや企業が話題になりがちですが、実際はそうではありません。連綿と北海道の、そしてこの国の酪農を支えてきたのは、家族農業だったのです。

 国連による「家族農業の10年」がスタートし、「小農宣言」も採択されました。家族と農業について世界中で考え、見直そうという時代に必要なのは、農にある喜びを、生産者自ら発信することではないでしょうか。「小農宣言」とは、「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言」です。これは食料問題だけでなく、自分や子や孫たちが農村で生き続ける人権問題でもあるのです。青年の主張でも、インターネット交流サイト(SNS)でもいい、当事者以外、誰も本当の農の喜びや意義を代弁することはできません。どんな小さな声であれ、自らの言葉を持つことが大事なのではないでしょうか。

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