家族農業とスマート化 公益性高め基盤強く 資源・食糧問題研究所代表 柴田明夫

柴田明夫氏

 平成最後の年が明けた。思い起こせば、平成時代が始まった1989年は、東西冷戦の終焉(しゅうえん)とも重なり、希望に満ちた世界が約束されているかにみえた。しかし、現実は「平成(平らかに成る)」とはいかず、いま日本には、そこはかとない不安が広がっている。

 それは超高速で高齢化する経済・社会に対する不安であり、われわれの生命の源泉である農業・食料への不安でもある。

 2017年の食料自給率(カロリーベース)が前年に続き過去2番目に低い38%(93年=37%)にとどまった。米の消費減が止まらないことや畜産物の輸入増が要因とはいえ、農地面積の減少や農家数の減少など、農業生産基盤の弱体化が進んでいることが根底にある。

 昨年末には米国を除く11カ国の環太平洋連携協定(TPP)が発効し、今年2月1日には欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も発効する。

 1月には、米国との間では2国間の貿易協定交渉がスタートする。よもや自動車への関税を回避するため、農産物の輸入関税の引き下げをのむことはあるまいが、一抹の不安が残る。日本がTPPと日欧EPAで合意した以上の関税引き下げが実現すれば、既に38%まで低下している食料自給率をさらに引き下げることになる。
 

“競争力”に偏重


 どの国でも、経済の発展に伴い農業部門の割合が相対的に縮小し、農業就業者の数も減少する。農業部門の主要な生産物である食料の需要が国内総生産(GDP)の増加ほどには伸びないためである。一方、自然景観の保全、水源の涵養(かんよう)・保水、生物多様性の維持、地球温暖化の緩和の面からの農業部門の重要性は増す。

 問題は、国土を保全し、地域社会の安定基盤であるはずの家族農業を中心とする農業・農村社会が、農業競争力の強化や農村所得倍増の美名の下に解体されようとしていることだ。家族農業は、地域において社会的ネットワークを形成しており、そこでの相互扶助が連帯意識を醸成につながっているのである。
 

変革で所得向上


 こうした中、政府は昨年6月、未来投資戦略2018と財政運営と改革の基本方針(骨太方針2018)を閣議決定。農業分野でも人工知能(AI)やロボットなど、情報通信技術(ICT)を活用した変革をうたっている。農業のスマート化で労働生産性が向上すれば、農業者の所得も向上するとの見方のようだ。

 しかし、労働生産性は、新技術の導入で増えた固定資本の利用度を高めてこそ収益性につながり、農業所得と結び付き得る。そのためには、どのような土地利用の方式を形成していくかということが、農業者の念頭になければならない。

 農業経営には、家族農業を主体とする社会的生産単位と法人による私的収益単位という二つの性格がある。新技術の導入も、鳥獣害の対策や農業水利システムといった地域社会レベルでの導入と、個別営農レベルでの導入を分けて考える必要がある。このうち、収益性に係る技術は民間企業や個別経営の投資に任せるべきで、国は地域農業振興の観点から公益性の高い新技術の普及に注力すべきであろう。スマート農業化が、小規模・家族農業の切り捨てになってはならない。

 われわれは農業・農村の多様な機能を生かすことが、平成時代において失われつつある社会安定装置の強化につながることを再認識すべきであろう。
 


 

<プロフィル> しばた・あきお

 1951年栃木県生まれ。東京大学農学部卒業後、丸紅に入社。丸紅経済研究所の所長、代表などを歴任。2011年10月、(株)資源・食糧問題研究所を開設し、代表に就任。著書に『食糧争奪』『食糧危機が日本を襲う!』など。 

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