[農村NEXT 変革のパートナー](3) 起業家 雇用生む “常識外れ”

開発したシャーベットについて島民に感想を聞く渡部さん(右)と松本さん(左)。島民に支えられながら会社を運営する(山形県酒田市で)

共助を事業化 休暇は3カ月


 有給休暇3カ月、「ゼロ次産業」──。こんな異色のビジネスを打ち出し、若者の雇用を進めるのは、山形県唯一の離島、飛島(酒田市)にある「合同会社とびしま」。20、30代の従業員10人からなる企業が、これまで日本社会の常識では考えられなかった働き方や事業を実践する。

 30年前に比べて人口が7割も減った島の住民の平均年齢は70代。島の仕事は季節に左右されるため、通年の雇用はできない。本土と島を結ぶ日に1度の船便は欠航が多く、島外に日帰りの通勤や通学は不可能だ。

 そんな島の不便さや課題を同社は逆手に取った。「ゼロ次産業」は風景保存や継承のための聞き書き、草刈りや除雪、水道管理など暮らしの根幹を支える事業を指す。かつては住民が助け合いや自力で担っていた。高齢化で継続が難しくなったが、島に必要なものをあえて事業化した。その他、後継者がいないため閉じようとしていた島の旅館を継業し、観光ツアーや飲食店、居酒屋も市内中心部で経営する。

 多彩な経営に取り組む同社が、昨年10月から本格的に始めた制度が「有給休暇3カ月」だ。観光と農・漁業が閑散期になり船も欠航しやすい時期に長期休暇を取得し、社員の趣味との両立や都会でのスキルアップを応援する仕組みだ。

 同社の松本友哉さん(30)は「島だけで事業を完結させるのは難しい。3カ月あれば、つながりや技術を島に持ち帰えることができる」と考えを明かす。

 7年前に「緑のふるさと協力隊」に応募し、島を訪れた山口県出身の松本さん。任期後は島を離れるつもりだったが、島出身の同世代と話すうちに、起業を考えるようになった。

 松本さんも含め、U・Iターンした同世代と島のさまざまななりわいを事業にし、今年度の同社の売り上げは5000万円の見通しだ。

 たくさんの人より、「島を考える一人」を求める同社。長期の有給休暇の実現は、島暮らしや、趣味も勉強もしたい若者を呼び込める。福利厚生の充実や働き方改革として会社のPRにもなる。

 かんきつの試験栽培管理、シャーベット開発など果樹や海産物の加工品にも乗り出し、今春には2人の20代が入社。10年後には従業員20人に増やす計画だ。

 島出身の同社員、渡部陽子さん(34)は「人口減少は仕方なくても、受け継がれてきた祭りや食文化を残したい。島で何かやると注目されるので、手応えもある」と感じる。

 島にとっても、日本社会にとっても、斬新な同社の働き方。島民の佐藤勝一さん(82)は「新たな価値観を持つ若者の会社を応援することが私の役割。若者がつくったとびしまは島の担い手そのもの。若者の考えを押さえ込んでいたら消滅する。島と共に会社が発展してほしい」と願う。
 

若者がけん引 働き方幅広く


 安倍政権の目玉政策である働き方改革。今春からいよいよ政策は実行段階に移る。労働人口が減る中で、各企業にとって働き手の確保や育成は最重要課題でもある。

 一方で、地方へ移住して社会的事業を起業する若者が目立ち、内閣府などは移住して地域課題に向き合う起業家に助成金を出す。内閣府の「共助社会づくりの担い手の活動規模調査」で2014年時点の社会的企業は20万を超え、中小企業の12%を占めるまでになった。

 とびしまのような地域密着の“ローカルビジネス”を起こす若者や企業は、現場から示す地方創生にも、働き方改革にもモデルとなり得る存在だ。

 鳥取市で農山村に若者を送り込む「学生人材バンク」を15年前に立ち上げた起業家の中川玄洋さん(39)は、「地域に根差すからといって、一概に柔軟に働けるというわけではない。創業期は夜に会議をするなど、働きずくめだった」と振り返る。ただ、今は社員も自身も、副業や在宅勤務が可能で、子育ても両立できる働き方に変えた。「ローカルビジネスの働き方の選択肢は広い。副業も含め自分の働き方を考えられる」と中川さん。新しい起業など、働き方も含めた価値観を尊重する地域に、未来が見えてくる。

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