[メガFTA] 日欧EPA 止まらぬ市場開放 生き残りへ正念場
2019年02月02日

写真左から▶米価の下落を懸念する大友さん(宮城県名取市で)▶稲わらは全て地元農家から仕入れたものを使う茶野さん(滋賀県近江八幡市で)▶液状飼料を使う小林さん(広島県福山市で)
日本と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が1日、発効した。昨年末の環太平洋連携協定(TPP)に続く大型通商協定を受け入れた日本。今後は、米国との貿易協定交渉も控える。かつてない水準の農産物の市場開放時代を迎えた今、若手、中堅の農家は何を思い、どう立ち向かうのか。現場の声を聞いた。
農事組合法人U.M.A.S.I.(うまし)理事、大友寛志さん(41)=宮城県名取市、水稲70ヘクタール、大豆51ヘクタール
大友さんは、需要が高まる業務用米の生産に力を入れてきただけに「大型経済連携により、中食や外食を中心に安価な外国産米に置き換わり、米価の下落につながってしまわないか」と不安視する。政府には、米価安定への後押しを求める。
同時に「自由貿易協定に関する情報は隠さず、積極的に細かく開示してほしい。合意後に、日本に不利な形で変更することはないようにしてもらいたい」と念を押す。
大友さんが所属する同法人は、津波被害を受けた同市植松地区の農業を維持するため、2016年度に設立。30~60代の社員10人で活動する。高齢のため引退する地区内外の農家から毎年、農地を10ヘクタール程度引き受ける。今後も地域農業が持続するためには、米価が安定し、法人経営が軌道に乗ることが不可欠だ。
国内の消費者や実需者の多様なニーズを踏まえた生産を重視する大友さん。19年度からは、18年度に本格デビューした県の水稲新品種「だて正夢」の栽培を新たに2ヘクタールで始める。「地産地消や米を含めた国産農産物の魅力を周りにもっと伝えていきたい」と強調する。
JAグリーン近江F1委員会副委員長・茶野朋和さん(44)=滋賀県近江八幡市、交雑牛160頭
オーストラリア産などを中心に、既に安価な輸入品の攻勢が強まっている牛肉。交雑種(F1)160頭を飼養する茶野さんは、これまでにない大幅な市場開放時代を生き抜く戦略を、売り先や消費者との関係強化に見いだす。「価格だけでなく、おいしさや地元産であることの価値を、消費者に直接伝えていくことが、今後さらに重要になる」と力を込める。
茶野さんが副委員長を務めるJAグリーン近江F1委員会では、年間約900頭を、県内を中心にスーパーなどを展開する平和堂の独自ブランド「あじわい牛」として出荷する。産地と売り先の「顔の見える」関係づくりを強化し、安さを売りにする輸入品との差別化を図ってきた。
店頭では、半値近い輸入品と「あじわい牛」が同じ棚に並ぶ。付加価値をアピールするため、同委員会では若手を中心に、年2、3回売り場での販促活動を続けている。茶野さんは「今は地元産を選んでくれている消費者も、安い輸入品に流れてしまう可能性はある。『いつも買(こ)うてるよ』と言ってくれる人のためにも、おいしい牛を育て、ファンをがっちりつかんでいかないといけない」と先を見据える。
日本畜産瀬戸牧場牧場長・小林太一さん(34)=広島県福山市、養豚・母豚300頭、肉豚出荷年間4500頭
養豚経営の3代目として働く小林さんは「今でも輸入豚肉は値段が安い。国産の売り場がなくならないか、脅威だ」と、一層の価格低下に危機感を募らせる。
同社は豊かな食を提供しようと、食品残さを使ったリキッドフィード(液状飼料)を給餌。管理は開放型豚舎で、豚のストレスを抑えることで良質な豚肉を生産している。鮮度、品質に自信を持つが、「輸入豚肉も品質は高い」と警戒している。
「畜産業をなくしてはいけない」と、マイナスイメージを変え、若者を呼び込もうと、働きやすい環境づくりに向けて奮闘する。液状飼料で腸内環境を良くすることで、ふんの臭いを抑える。豚舎にバークを敷き詰めてさらに臭いを軽減。20代の社員を3人雇い、4月には高卒の社員が加わる見込みだ。
加工品や総菜の販売も手掛けるが、増える中食需要を見据え、国を挙げた6次産業化の推進の強化を要望する。輸入との差別化へ、脂肪交雑基準(PMS)判定の活用も検討している。「自社銘柄の『瀬戸のもち豚』を誰もが知っているブランドにしたい」と意気込む。
地産地消 魅力伝え
農事組合法人U.M.A.S.I.(うまし)理事、大友寛志さん(41)=宮城県名取市、水稲70ヘクタール、大豆51ヘクタール
大友さんは、需要が高まる業務用米の生産に力を入れてきただけに「大型経済連携により、中食や外食を中心に安価な外国産米に置き換わり、米価の下落につながってしまわないか」と不安視する。政府には、米価安定への後押しを求める。
同時に「自由貿易協定に関する情報は隠さず、積極的に細かく開示してほしい。合意後に、日本に不利な形で変更することはないようにしてもらいたい」と念を押す。
大友さんが所属する同法人は、津波被害を受けた同市植松地区の農業を維持するため、2016年度に設立。30~60代の社員10人で活動する。高齢のため引退する地区内外の農家から毎年、農地を10ヘクタール程度引き受ける。今後も地域農業が持続するためには、米価が安定し、法人経営が軌道に乗ることが不可欠だ。
国内の消費者や実需者の多様なニーズを踏まえた生産を重視する大友さん。19年度からは、18年度に本格デビューした県の水稲新品種「だて正夢」の栽培を新たに2ヘクタールで始める。「地産地消や米を含めた国産農産物の魅力を周りにもっと伝えていきたい」と強調する。
顔見える 関係強化
JAグリーン近江F1委員会副委員長・茶野朋和さん(44)=滋賀県近江八幡市、交雑牛160頭
オーストラリア産などを中心に、既に安価な輸入品の攻勢が強まっている牛肉。交雑種(F1)160頭を飼養する茶野さんは、これまでにない大幅な市場開放時代を生き抜く戦略を、売り先や消費者との関係強化に見いだす。「価格だけでなく、おいしさや地元産であることの価値を、消費者に直接伝えていくことが、今後さらに重要になる」と力を込める。
茶野さんが副委員長を務めるJAグリーン近江F1委員会では、年間約900頭を、県内を中心にスーパーなどを展開する平和堂の独自ブランド「あじわい牛」として出荷する。産地と売り先の「顔の見える」関係づくりを強化し、安さを売りにする輸入品との差別化を図ってきた。
店頭では、半値近い輸入品と「あじわい牛」が同じ棚に並ぶ。付加価値をアピールするため、同委員会では若手を中心に、年2、3回売り場での販促活動を続けている。茶野さんは「今は地元産を選んでくれている消費者も、安い輸入品に流れてしまう可能性はある。『いつも買(こ)うてるよ』と言ってくれる人のためにも、おいしい牛を育て、ファンをがっちりつかんでいかないといけない」と先を見据える。
品質高め 差別化へ
日本畜産瀬戸牧場牧場長・小林太一さん(34)=広島県福山市、養豚・母豚300頭、肉豚出荷年間4500頭
養豚経営の3代目として働く小林さんは「今でも輸入豚肉は値段が安い。国産の売り場がなくならないか、脅威だ」と、一層の価格低下に危機感を募らせる。
同社は豊かな食を提供しようと、食品残さを使ったリキッドフィード(液状飼料)を給餌。管理は開放型豚舎で、豚のストレスを抑えることで良質な豚肉を生産している。鮮度、品質に自信を持つが、「輸入豚肉も品質は高い」と警戒している。
「畜産業をなくしてはいけない」と、マイナスイメージを変え、若者を呼び込もうと、働きやすい環境づくりに向けて奮闘する。液状飼料で腸内環境を良くすることで、ふんの臭いを抑える。豚舎にバークを敷き詰めてさらに臭いを軽減。20代の社員を3人雇い、4月には高卒の社員が加わる見込みだ。
加工品や総菜の販売も手掛けるが、増える中食需要を見据え、国を挙げた6次産業化の推進の強化を要望する。輸入との差別化へ、脂肪交雑基準(PMS)判定の活用も検討している。「自社銘柄の『瀬戸のもち豚』を誰もが知っているブランドにしたい」と意気込む。
おすすめ記事
間がいいのか、悪いのか
間がいいのか、悪いのか。総務省が今月から、「統計の日」の標語を募集している。案の定、ネットはざわつく。「お役所が本気出して全力でボケてきたな」。そんなわけはないが、突っ込みどころは多い▼「統計の日」は10月18日。明治初期、農業生産調査などが定められた日にちなむ。1973年に制定され、以来、統計の大切さを標語で呼び掛けてきた。「統計は明るい暮らしの道しるべ」「論より数字 勘より統計」「統計の確かな情報 大きな安心」▼晴れやかな標語が、一連の統計不正で、すっかりくすんで見える。誠に罪深い。いま、ネットに相次ぐ投稿は、辛辣{{しんらつ}}極まりない。「合わぬなら作ってしまえ偽統計」「権力のためなら変えますその数字」「アベノミクス すべての統計自由自在」。大喜利なら「ざぶとん一枚」の声も掛かりそう▼役人の指先ひとつで好不況が操れるなら、これほど恐ろしいことはない。統計の英語訳は、ラテン語の「国家」に由来するという。統計とは一国の土台を成すものである。そこが不正や虚偽というシロアリにむしばまれていては、国という家は立ち行かない▼「正しい統計 間違い認める勇気から」。こんな投稿を採用するぐらいの本気度を政府には見せてほしい。標語は3月31日まで受け付けている。
2019年02月13日
豚コレラ発生5カ月 181農場 監視を徹底
岐阜県での豚コレラの発生から5カ月。発生の拡大が収まらない中、感染経路の特定が急務の課題となっている。だが、ウイルスを持った野生イノシシ、と畜場を含む施設を通じた感染源などが想定されるものの、経路の特定には至っていない。そうした中、農水省は181の農場を監視対象にし、拡大を防止する狙い。感染拡大を食い止めるため、感染経路の早期の特定と、それに応じた対策が欠かせない。
感染経路では、野生イノシシがウイルスを拡散しているという見方は強い。農水省も両県へ防護柵設置などの助成を拡充しているが、野生イノシシがどうウイルスを広げたか、具体的なメカニズムは解明されていない。
愛知県では1例目の豊田市の養豚場と、同ウイルスに感染した野生イノシシが見つかった犬山市は30キロほど離れる。同省の疫学調査チームは、野生イノシシ以外の原因を含め調査している。
と畜場など発生農場が使った施設に人や車両が立ち入り、消毒も不十分だとウイルスが運ばれ、新たな感染が起きる恐れがある。愛知県の2例目は、先行して発生が確認されていた農場と同じと畜場を使っていた。
同省は感染経路究明に向けて「あらゆる可能性を想定している」(吉川貴盛農相)。疫学調査チームは岐阜、愛知両県に入り、感染経路などを調べており、近く結果をまとめる見通しだ。
監視対象の農場では、不安を抱えながら県への報告や出荷自粛を続けている。心のケアを含め、生産者へのきめ細かい対策が重要になっている。
2019年02月15日
エコフィード 業界挙げて防疫を シンポで豚コレラ対策
全国食品リサイクル連合会が13日、東京都内で開いたエコフィードに関するシンポジウムで、豚コレラも含めた防疫対策が改めて強調された。今回の発生農場には、エコフィードを利用している養豚場があったこと、感染ルートの一つとして飼料輸送が疑われていることもあり、発表者が輸送車両の消毒技術や飼料の衛生的処理方法などを示し、病害の発生源とならないための意識改革が必要だと訴えた。
2019年02月14日
5月末にも開発拠点 秋の成果発表めざす JA×ベンチャー新事業
ベンチャー企業などと連携し、技術やアイデアを生かして新事業や課題解決につなげるJAグループの新たな拠点「イノベーションラボ」が、5月末にも東京・大手町に開設することになった。今後、コンテストなどを行って連携するベンチャー企業を決定。秋には報告会を開いて、新たな商品やサービスを発表する。
2019年02月13日

[あんぐる] ぜーんぶ、泉州産 おむすびで地域おこし 義本紀子さん (大阪府泉佐野市)
大阪府泉佐野市でおむすび専門店「オトメゴコロ」を営む義本紀子さん(42)は米やのり、具材が全て同府泉州地域産の「泉州おむすび」で地元の食の魅力を発信している。特産の冬キャベツや伝統野菜の「難波葱(ねぎ)」などを具材に、これまで70種を超えるおむすびを考案。その味で地域農業と消費者を結び付ける。
泉州地域は同府南西部の13市町からなる。大阪湾に面して山地もあり、古くから農業や漁業が盛んだ。義本さんが使う米は、貝塚市で生産された「ヒノヒカリ」や「きぬむすめ」。農家から年間2・4トンを仕入れている。
「口の中でほぐれるように、やさしく握る」のが義本流。「一度に何種類も味わって」との思いから、1個に使うご飯は100グラムほどと小ぶりだ。
冬場のメニューは定番の塩むすびやのりに、地元の銘柄豚肉「犬鳴豚」のそぼろなどを加えた12種類。今が旬の「松波キャベツ」は、コンソメで炊いたご飯に食感が残るゆでキャベツを混ぜるなど、工夫を凝らしている。
泉佐野市内の主婦で常連客の大河内美緒さん(35)は「手作りの素朴な味わいがうれしい。知らない地元農産物も発見できる」と絶賛する。
義本さんが「泉州おむすび」での地域おこしを志したのは2009年。出身地の同市でデザイナーとして働く傍ら、ボランティアで田植え体験イベントを手伝った経験などを基に思いついた。12年には同店を開き、週3日営業する他、週末は各地のイベントにも出店する。
活動で知り合った農家は20人を超え、その度にメニューも増えた。芋がらやミツバを持ち込み、新メニューの開発を頼む農家もいた。キャベツを提供する同市の野菜農家、角谷裕生さん(38)は「特長の甘さが際立つおにぎりにしてくれた。キャベツのPRにつながるね」と歓迎する。
義本さんは「地域には関西国際空港もある。将来は泉州と世界をおむすびで結びたい」と目を輝かせる。(染谷臨太郎)
2019年02月10日
農政の新着記事

停電、断水に備え 酪農災害対応で手引 北海道
昨年9月の北海道地震による道内全域の停電で酪農に大きな被害が出たことを踏まえ、道は酪農家やJAの災害対応のマニュアルをまとめた。被災の経験を参考に、自家発電での搾乳に必要な電力を把握する方法や発電機の扱い方、断水時の備えなどを示す。今後、JAを通じ道内の全酪農家に配る。
条件想定、作業手順も
大規模停電では搾乳が滞り乳房炎が発生した他、自家発電装置のない乳業工場は操業を停止。道の推計では、集出荷できなかった生乳は2万3000トンを超える。停電を経験した酪農家の間では自家発電機を整備する動きが広がっている。
マニュアルは、まず搾乳などに必要な電力を把握することが重要だと指摘。使用電力が大きいほど、発電機などへの投資額も増える。経営に合った発電規模を決めてから設備を整えるよう呼び掛ける。
停電時に想定するパターンは①通常通り②生乳を出荷できるよう搾乳と生乳冷却③搾乳だけ──の三つ。動かす機械類の消費電力を合計し、その1・2倍ほどの能力を持つ発電機を備える。バルククーラーなど一部の機械は、起動する時に電力使用が増えることも計算に入れる。
発電機の調達では、「購入」「レンタル」「他の生産者と共同利用」「JAのものを利用」などから最適なものをあらかじめ選定する。
発電機を使い始めるための作業手順も示した。「電源切替開閉器」を通じて配電盤とつなぐ方法などを図で示す。
断水への備えでは、牛の飲み水や機械の洗浄に必要な水の量の計算法を示した。過去には、設備が不十分で、給水車が来ても貯水できない例が多発したと指摘。ポリタンクなどに加え、ビニールシートとコンテナなどで簡易貯水槽ができることも紹介する。
道は、個々の酪農家だけでなく、地域全体の停電対策の検討にも活用されることを期待。「JAなどが地域の酪農家に災害対策を働き掛けるきっかけにしてほしい」(畜産振興課)とする。3月中に、道のホームページに掲載する予定だ。
2019年02月16日

豚コレラ 愛知 処分2・2万頭 渥美半島入り口一般車両も消毒へ
愛知県は、田原市の養豚団地の一部農場で豚コレラの感染が見つかったことを受け、未感染の農場を含め、団地内と関連農場合わせて計16農場の豚1万4600頭の殺処分に踏み切った。ウイルスを封じ込め外部に拡大するのを防ぐ。今回を含めた県内の殺処分頭数は約2万2000頭に上る。田原市のある渥美半島は、養豚場が集中しているため、原則24時間体制で一般道の消毒などに乗り出す。
防疫措置の対象農場は団地内の14農場と、団地内の生産者が管理する周辺2農場の計16農場。8戸が経営しており、事務所や堆肥場、死体を保管する冷蔵庫や車両を共同利用している。県は13、14と連日、団地内の2戸3農場で疑似患畜を確認していた。
3農場以外の検査結果は陰性だったが同じ作業形態、動線があるため、県は今後新たな発生が確認される可能性を懸念。団地全体を一つの農場とみなした上で、団地内の農家が管理する周辺の2農場を含め、一括して防疫対象とした。
団地内での殺処分は13日から始まっているが、防疫措置が完了するには今後、1週間から10日かかる見込みだ。
今回を含めた県内の殺処分頭数は、農水省によると、10年の口蹄(こうてい)疫の約23万頭に次ぐ規模。県全体の飼養頭数約33万頭(18年)の7%に当たる。
同省は、今回の養豚団地から半径約10キロ圏内の9カ所で、畜産関連車両の消毒地点を拡大。さらに、搬出制限区域外の一般道で一般車両も消毒する。
一般車両を想定した消毒は昨年9月に豚コレラが発生以来、初の措置となる。国道3本と県道1本の渥美半島の入り口に消毒地点を置く。同地点から半島の先端まで散水車を走らせ、消毒液を散布する。交通量が多い国道23号沿いに、消石灰帯を8カ所設ける。
畜産関係車両には、消毒地点のある道を積極的に通るよう呼び掛ける。警察や自治体、畜産関係団体の協力を得て、原則24時間体制で消毒する。
2019年02月16日

豚コレラ 封じ込めへ 1万2000頭殺処分 連日発生の田原市養豚団地
愛知県は14日、一部農場で豚コレラの発生が確認された田原市の養豚団地で、団地内で飼養する全ての豚を豚コレラの疑似患畜とし、約1万2000頭を殺処分することを決めた。同日午前までに発生が確認された団地内の3農場を除き、他の農場の検査結果は陰性だった。ただ、全農場で施設や機材、車両などを共同利用しており、各農場へのウイルス侵入の可能性を懸念。封じ込めを狙い団地内の全農場を防疫対象とした。
農水省の要請を受けた措置。同県の大村秀章知事は、自衛隊の災害派遣要請を決めた。
田原市の養豚場では13日、同県2例目となる豚コレラの発生が確認されていた。14日午前には、隣接する同市の養豚場で発生が新たに確認。いずれも同じ養豚団地内にある。
国の拡大疫学調査チームによる現地調査によると、発生農場を含む養豚団地の全農場は、事務所や堆肥場、豚の死体を保管する冷蔵庫、車両などを共同利用していることが分かった。
県は13日から、2例目の発生農場から半径3キロ圏内の移動制限区域にある33農場で検査を開始。このうち「発生リスクがより高いと判断した」(県畜産課)同養豚団地を先行検査をしていた。
団地内では3カ所を除いて検査結果は陰性だった。ただ、共同利用している施設や機材を通じて各農場にウイルスが侵入している恐れがあるため、団地内の全農場で防疫措置に踏み切った。
一方、2例目の農場から半径3~10キロ圏内の搬出制限区域には、34農場がある。移動制限、搬出制限両区域での飼養頭数は10万頭に上り、県全体の3割に当たる。
昨年秋に発生した豚コレラは岐阜県に集中していたが、今月6日に愛知県豊田市の養豚場とその系列である田原市の養豚場で発生が確認され、子豚の出荷を通じて長野、岐阜、滋賀、大阪の4府県にも広がった。
農水省は感染経路の究明を急いでいる。豚コレラは豚やイノシシの病気で、人に感染することはなく、感染した豚を食べても健康に影響はない。
2019年02月15日
豚コレラ発生5カ月 181農場 監視を徹底
岐阜県での豚コレラの発生から5カ月。発生の拡大が収まらない中、感染経路の特定が急務の課題となっている。だが、ウイルスを持った野生イノシシ、と畜場を含む施設を通じた感染源などが想定されるものの、経路の特定には至っていない。そうした中、農水省は181の農場を監視対象にし、拡大を防止する狙い。感染拡大を食い止めるため、感染経路の早期の特定と、それに応じた対策が欠かせない。
感染経路では、野生イノシシがウイルスを拡散しているという見方は強い。農水省も両県へ防護柵設置などの助成を拡充しているが、野生イノシシがどうウイルスを広げたか、具体的なメカニズムは解明されていない。
愛知県では1例目の豊田市の養豚場と、同ウイルスに感染した野生イノシシが見つかった犬山市は30キロほど離れる。同省の疫学調査チームは、野生イノシシ以外の原因を含め調査している。
と畜場など発生農場が使った施設に人や車両が立ち入り、消毒も不十分だとウイルスが運ばれ、新たな感染が起きる恐れがある。愛知県の2例目は、先行して発生が確認されていた農場と同じと畜場を使っていた。
同省は感染経路究明に向けて「あらゆる可能性を想定している」(吉川貴盛農相)。疫学調査チームは岐阜、愛知両県に入り、感染経路などを調べており、近く結果をまとめる見通しだ。
監視対象の農場では、不安を抱えながら県への報告や出荷自粛を続けている。心のケアを含め、生産者へのきめ細かい対策が重要になっている。
2019年02月15日

高知市に仮住まい→県内の居住地検討 農村移住 2ステップで
田舎暮らしはしたいけど、移住への一歩が踏み出せない──。そんな悩みを解消するため、高知県で「二段階移住」の取り組みが始まった。まずは高知市に移住し、県内の市町村を巡って次の移住先を探す。移住のミスマッチをなくして費用の負担も軽減し、移住へのハードルを下げる狙い。高知市独自の制度で、全国的にも珍しい仕組みだ。
ハードル下げ ミスマッチ防ぐ
東京都出身の鈴木助さん(28)は、高知市が実施する二段階移住制度を活用して、東京から高知市を経て今月、香南市への移住を実現した。二段階移住は、まず比較的都市部の高知市に移住・滞在し、そこを拠点に県内を巡って自分に合った場所を見付けてから、最終的な移住を決める手順。同市から家賃やレンタカー代などの補助が受けられる。
鈴木さんが高知への移住を希望したのは、就職した企業の転勤で高知で暮らしたことがきっかけ。東京に戻ってからも、再び「自然豊かな高知らしい暮らし」がしたいと、自治体の移住相談窓口を訪問する中で同制度を知り、昨年12月に第一段階の同市に移住した。
鈴木さんは起業を目指していることから、住居は一軒屋が条件だ。「インターネットでも物件情報は見られるけれど、開業に合う一軒家は実際に見ないと分からない」と、同市土佐山で借りた住居を拠点に各地を探して回った。
同市から約1時間ほどの香南市で希望の物件を見付けた鈴木さん。2月初旬に新たな生活をスタートさせた。「口コミで地元の人に聞いたり、頻繁に通って探すことができた」と話す。
市が制度化 費用補助 中山間へ人口分散を
同制度は昨年、高知市が創設。県内での移住先を探す人が、まず同市にお試し移住した後、県内の市町村の相談窓口を3カ所以上巡って実績を報告すると、高知市での物件の1カ月分の家賃や引っ越しの費用などが20万円を上限に、県内の市町村の移住相談窓口を巡る際に使うレンタカー代が2万円を上限に補助が受けられる。市によると、これまでに19件の利用があり、「腰を据えて相談しながら移住先が探せた」などの反響があったという。
高知市が二段階移住制度を始めた背景には、県の人口の46%が同市に集中する一方で、中山間地では人口減少や高齢化が進んでいる現状がある。経済、社会的にも他地域との相関関係が高いことから、同市は18年4月に県内全市町村と「れんけいこうち広域都市圏」を形成し、人口減少の克服を目指す。制度はその一環で、県内の移住相談窓口と連携して、移住者のサポートを行う。同市は「移住者を増やして中山間地の1次産業など、県全体で振興していく必要がある」(定住・移住促進室)と強調する。
県への移住者は17年度は816世帯。20年度1000世帯を目標に、県は県移住促進・人材確保センターを立ち上げた。センターでは県内の事業者の人材ニーズなどを集約し、移住相談者の希望に応じた求人情報を提供するなど、暮らしと仕事の窓口を一本化する。農林水産業や福祉、企業などの団体が参画し、「半農半X」などの働き方にも対応していくという。県は「オール高知の体制づくりを進めていく」(移住促進課)と力を込める。
まず地方都市から ふるさと回帰支援センター・嵩和雄副事務局長の話
地方都市は比較的仕事も住む所も見つけやすく、移住のニーズが高まっている。さらに、地方都市は県からの人口流出を食い止める機能を果たしている。移住はしたいが、行きたい場所がはっきりしない人には、二段階移住制度を使うことで、気になった場所に頻繁に通って地元のキーパーソンに話を聞いたりイベントに参加したりと、じっくり探すことができ、選択の幅が広がる。高知市が主体となって制度が実現したのは、県全体で移住に取り組んできた表れだろう。
2019年02月15日
ノウフクJAS新設 障害者雇用後押し 農水省来年度
農水省は、障害者が作った農産物について、新たな日本農林規格(JAS)を定めた。収穫や家畜の飼育など主要な生産工程に障害者が関わり、その取り組みを意味する言葉「ノウフク」を表示することが条件。障害者と連携して作った農産物や加工品のブランド価値を高め、障害者の就労先拡大や賃金向上、農家の労働力不足解消につなげる。
2019年02月15日
豚コレラ 愛知2例目 監視対象から確認
愛知県は13日、田原市の養豚場で豚コレラの新たな発生を確認したと発表した。県内の豚での感染は6日の豊田、田原両市に次いで2例目。当該農場は、先行して発生が確認されていた田原市の農場と同じと畜場を使っており、監視対象農場となっていた。ただ、同県農政課によると、疑似患畜が確認される前の段階では異常がなかったため、当該農場は所定の手続きを経て、12日に豚をと畜場に出荷していた。
県は12日午後2時すぎ、同市の養豚場から豚に食欲不振などの症状が見られると報告を受けた。家畜保健衛生所による精密検査の結果、13日午前8時、疑似患畜を確認。当該養豚場の飼養頭数は1180頭。同日に殺処分を始め、18日をめどに防疫措置を完了させる予定だ。
今回の発生農場と、6日に疑似患畜が出た田原市の農場は、5キロ以内に位置する。両農場とも豊橋市のと畜場を使っていたため、県は9日、発生農場を監視対象農場に指定していた。
監視対象農場は、豚の健康状態を毎日、県に報告する。基本的に出荷は規制されるが、1カ月間の出荷計画を提出し、出荷日の1週間前から体温などの記録を取り、県が異常がないと認めれば出荷できる。今回の発生農場は、異常が確認される前日の11日、異常がないと認められ、12日の午前11時、県の許可を得て、と畜場に出荷した。出荷を許可したことについて県は、「発熱など健康の異常がなかった」(農政課)としている。
農水省は「臨床検査や、体温検査など必要な対応をしっかりととっていたのであれば問題ない」(動物衛生課)としている。
現時点の監視対象農場は、愛知県内だけで107農場、全国では11府県、181農場に上る。
田原市の飼養頭数は2016年時点で10万5000頭。市町村別の豚の産出額は88億円で全国10位の産地となっている。
2019年02月14日
イノシシ特命課長任命 被害対策に専任 福岡市
福岡市は13日、イノシシ対策専任の特命課長と係長を4月から配置すると発表した。既存部署と連携して農業や人的被害の対策を急ピッチで進める。2017年度より3割多い2000頭の捕獲を目指す。特定の野生動物対策に専任するポストは全国でも珍しい。
2019年02月14日
衆院予算委 豚コレラ発生巡り首相 経営再開へ支援万全
安倍晋三首相は13日の衆院予算委員会で、豚コレラの発生によって豚を殺処分するなどして、経営に打撃を受けた農家らの経営再開に向け、「政府としても万全の支援体制を取っていきたい」との考えを示した。発生農場などで防疫作業に長時間従事し、負担が大きくなっている自治体職員らのケアにも対応し、防疫措置の迅速な完了につなげていくとした。
2019年02月14日

豚コレラ追加支援 移動制限で減収補填 監視対象 11府県・181農場 農水省
農水省は12日、豚コレラ発生に伴い、豚を出荷できなくなった農場への新たな経営支援策を明らかにした。移動制限や出荷自粛により生じた減収などを補填(ほてん)する。想定する対象は、発生が確認された岐阜、愛知、長野、滋賀、大阪の5府県を含む11府県181農場に上る。同省は府県の詳細は示していない。岐阜、愛知両県向けに防護柵の設置支援のため総額1億8000万円を措置するなど、野生イノシシ対策の概要も示した。
同省は181農場の詳細は示していないが、愛知県はそのうち107農場が同県にあると公表している。
経営支援策は、家畜伝染病予防費負担金の2000万円で対応する。移動制限で豚が出荷できない期間が続くと、流通規格を超える大きさに成長し、価格が下がる場合がある。その際の売り上げ減少分に加え、出荷制限中にかかった飼料代の増加分などを補填する。
対象となるのは、発生農場の周囲にあって移動制限を受けた農場の他、発生農場と同じと畜場を使うなどの関連があり、同省が「監視農場」と位置付ける農場。監視農場には出荷、移動の自粛を要請している。
同省は「幅広く網を掛け、少しでも接点がある農場は対象にした。減収への備えを示すことで、感染防止に協力する農家の不安を取り除きたい」(動物衛生課)と考える。
岐阜、愛知両県向けの野生イノシシ対策の一環として、わな設置や遺伝子検査の経費支援に向けて、両県に合計1000万円を追加配分する。
捕獲活動の支援には、鳥獣被害防止総合対策交付金を活用。岐阜、愛知の両県は、鳥獣被害防止総合対策交付金での交付限度額を撤廃。両県に2000万円ずつ追加交付し、捕獲や家畜保健衛生所への運搬、わなの消毒などに充ててもらう。長野、滋賀、大阪は従来の限度額の範囲内で対応する。
イノシシ防護柵の設置には、同交付金を岐阜に1億2000万円、愛知に6000万円を交付する。6日以降の着工分が対象。国が費用の10分の9を支援する。
2019年02月13日