どんな言葉を掛けたらいいのか分からない

 どんな言葉を掛けたらいいのか分からない。言葉を扱う仕事をしているのに▼先日、ある農家から規模を縮小するという話を聞いた。まだ60代。リタイアするには早い。「なぜですか」。少しうつむいて返ってきた言葉は「かみさん、がんなんだよ」。乳がんに加えて肺にも影が見つかったという。生まれたら、いつか死ぬ。分かっていても事実を突き付けられた途端、たじろいでしまう▼そんな時、順天堂大学医学部教授の樋野興夫さんの話を聞いた。2008年、医療現場と患者の溝を埋めようと「がん哲学外来」を始め、150カ所に広がった。参加は無料。医療でも診察でもない、同じ目線で“言葉の処方箋”を出す▼特別な技術は必要ない。ただお茶を飲み、1時間ほど話すだけ。20分を過ぎたあたりで「実は…」と本音が出てくるという。樋野さんはゲーテの言葉を借り「涙とともにパンを食べた者でなければ、人生の本当の味は分からない」と説く。過疎化の進む島根県出雲市鵜鷺(うさぎ)地区出身。「一人の人間を癒やすには一つのむらが必要」が持論▼ふと恩師の言葉を思い出した。「この世は心のトレーニングセンター」。苦しみも悲しみも、心を鍛えるダンベルなのかもしれない。きょうは世界がんの日。そして二十四節気の起点、立春。
 

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