日本農業、明確に成長産業 若者は気付いている 日本総合研究所主席研究員 藻谷浩介

藻谷浩介氏

 昨年末に、鳥取県米子市本社のケーブルテレビの新春特番の収録に出向いた。地元に根差した局らしく、県内各地の現場で起きていることを、現場で活動している人たち自らが出演して語り合う内容だ。

 今回の出演者の一人は、野菜を栽培する若者だった。従業員を増やして生産規模を拡大中の優秀な農家なのだが、彼はそういうことは自慢せず、生き物を育てる産業である農業の楽しさを、口下手だが真摯(しんし)に語っていた。

 それに対して絶句したのが、年始に民放の全国放送番組に出た際に聞いた、著名経済学者の発言だった。地方に移住する都会生まれの若者が増えているという話題のところで、「田舎に行っても農業くらいしか仕事がない」という趣旨のことを話されたのである。
 

楽しさも収入も


 平成も終わろうというのに、まるで昭和の時代の感覚ではないか。今の地方は東京以上の人手不足で、仕事は山ほどある。その中でも農業は、真面目に取り組めば同年代のサラリーマンより高収入だし、片手間にやっても生活費が下がる、しかもやって楽しい仕事だ。

 そもそも昨今の日本農業は、明確に成長産業なのである。以下、楽しさだのやりがいだのを抜きにした、お金だけの比較になってしまって恐縮だが、リーマンバブルの頂点だった2007年と、17年の、10年間の変化を見よう。声高に言われる安倍政権の経済政策「アベノミクスの成果」と裏腹に、名目国内総生産(GDP)は3%、賃金の総額(雇用者報酬)は5%の伸びにとどまったが、生産農業所得はなんと25%も増えた。

 もう少し分かりやすく、売り上げで比較する。製造業の出荷額はこの間に10%も下落したが、農業算出額は12%伸びた。これは同時期の株価(東証1・2部時価総額)の伸び率と同じだ。もちろん絶対額では、製造業が300兆円規模なのに対し、農業は12兆円と、比較にはならない。

 だが成長力があるのは農業だ。品目別に見れば、米は3%減ったが、野菜・豆・芋類や生乳は16%増となった。鶏卵は31%、肉類(生乳と鶏卵を除いた畜産物)に至っては38%の伸びである。
 

「将来性」を選択


 以上はれっきとした事実だ。それにもかかわらず、農業関係者の多くも「農業は衰退の一途だ」と誤解しているのではないか。近年、大学の学部で農学部志望の若者が増えていることに対しても、「何かの勘違い」と思っているかもしれない。

 だが実際には、農業の成長を肌で感じ取った一部の若者が、より将来性のある分野を選択しているだけなのだ。確かに、市場縮小の続く米を慣行農法で作っていても将来性は乏しいだろう。しかし、食べ手の健康に良い農産物をブランド化して売っている農家の将来は、今後もどんどんと開けていく。

 平成の終わりの新年に、農業に関係する皆さまにも、ぜひ以上のような事実をご認識いただきたい。

<プロフィル> もたに・こうすけ

 1964年山口県出身。米国コロンビア大学ビジネススクール留学。2012年より現職。平成合併前の全市町村や海外90カ国を自費訪問し、地域振興や人口成熟問題を研究。近著に『しなやかな日本列島のつくりかた』など。 
 

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