人と食べ物の関係 命を食に変える尊さ 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ

 財務省の貿易統計によると、2018年の食肉輸入量は209万トンと過去最多、野菜も前年を上回りました。足りなければ外から導入し、余れば捨てる。人と食べ物の関係について、先日、考えさせられる出来事がありました。

 長野県東御市の和牛一貫経営「牧舎みねむら」は、危害分析重要管理点(HACCP)の考え方を取り入れた衛生管理の認証制度「農場HACCP」を取得、2代目の峯村誠太郎さん(37)は直営店も設け、「牛がこの牧場に生まれたことを後悔しないように」を心掛けています。一緒に切り盛りする妻の伊世さんに伺うと、生まれたての弱い子牛を自宅へ連れ帰り、家族みんなでこたつで温めたこともあるそうです。

 しかし、どんなにかわいくても30カ月後の出荷は変えられません。牛の世話をしながら伊世さんが、「この子は特に苦労して育てたので買い戻してやりたいんですよ」と語ったのを聞いて、私は初めて、肉牛農家の内面に触れた気がしました。

 人々の食を支える肉牛ですから、食肉にするのは運命です。その責任として肉になった姿を確かめ、牛の命を見届ける。もちろん、ほとんどの場合、出荷までがかけがえのない仕事であり、買い戻せるのはまれです。

 ただ、農家ではない家から嫁いだ伊世さんが、仕事する中で牛の命を感じ、自ら問い掛け、模索した結果、出た言葉なのだろうと思いました。大切に育てた牛が食べ物となって人々を笑顔にする。尊く、喜ばしい循環です。本来「食べる」とは、責任を伴うことなのです。

 食べ物とは生き物の命であり、それらを恵みに変える生産者の営みがあって初めて口にできるということが、近頃忘れられているように思えてなりません。ビジネスツールとしての食品(商品)になる前に、それらは生きていたのです。

 本紙元日号の短歌大賞にこんな歌が載っていました。宮崎県日向市の水田と和牛繁殖10頭を営む黒木金喜さん(69)の短歌です。

 「鬼のよな顔した牛にピーナツを五個ずつあげる節分の日に」

 一頭一頭の前でピーナツを数える作者。牛と節分を祝う友情のような穏やかな関係が目に浮かびます。この歌を読んでなんとも優雅な気持ちになりました。こういう人生を豊かというのではないでしょうか。アニマルウェルフェア(快適性に配慮した家畜の飼養管理)という言葉を掲げなくても、この方の考えは伝わります。そろそろ大量消費、大量廃棄から循環型に切り替え、限りある命について考える時ではないでしょうか。

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