豚コレラ拡大 官民挙げて封じ込めを
2019年02月07日
最大級の警戒が必要だ。岐阜県に端を発した豚コレラは5府県に拡大し、養豚農家は危機的な状況を迎えている。感染源となる野生のイノシシを近づけないために、電気柵の確認や捕獲の強化など官民挙げた封じ込めが必須である。
一般的に豚コレラに感染したイノシシは、発症して5日ほどで死ぬ。だが、今回のウイルスは弱毒性で、感染しても症状が現れるまでに10日ほどかかり1カ月程度は生存できる。その間にウイルスが各地にばらまかれてしまった。
家畜伝染病に詳しい東京農工大学農学部の白井淳資教授によると、1972年に国内で発生した際の「神奈川株」と同程度の弱毒性という。「岐阜県内には中国人が多く、中国から違法に持ち込んだ感染した肉の残さを夜行性のイノシシが食べた可能性がある」とみる。イノシシの出産期と、春節で海外から観光客が多く訪れる時期が重なり、厳重警戒が必要だ。
まず電気柵の確認から始めてほしい。岐阜県豚コレラ有識者会議によると電気柵やワイヤメッシュの設置が不完全で、豚舎内や飼料置き場に野鳥や小動物の侵入が認められた農場があった。農場での防疫とは違い、野生のイノシシに対する国の対策マニュアルがなく、手探りの状況が続いている。
電気柵を扱うサージミヤワキの宮脇豊社長によると、侵入を防ぐには地上から20センチにワイヤを張ることが鍵という。飛び越えるのを恐れて高く張っているケースが多いが、「鼻先が触れるよう地をはうような高さに設置することが大事」と指摘する。草に触れやすいため、漏電しても電気を流せるエネルギー出力が大きいタイプが良く、豚舎の場合は柵を4、5段とし、ワイヤの強度を高める必要がある。イノシシは体をさらすのが苦手のため、くぼ地をなくし、柵の外側の草も刈り取って寄せ付けないことが肝心だ。
豚コレラは空気感染はせず、経口と接触によって広がる。白井教授によると対策は二つ。一つはイノシシと豚との接触を絶対に避けること。電気柵の適切な設置に加え、生息数を減らすための捕獲強化も求められる。
二つ目は感染がさらに広がった場合の対応だ。「これ以上広がれば、養豚経営は成り立たない。緊急ワクチンを使うことも視野に入れるべきだ。一斉に接種し、出なくなったらワクチンをやめて清浄国になった経緯がある」と提起する。
風評被害を防ぐことも肝要だ。豚コレラは豚やイノシシの病気であり、人に感染することはない。感染した豚の肉が市場に出回ることはなく、仮に食べても影響はないことを、業界挙げて発信すべきである。
豚コレラに加え、アフリカ豚コレラまで侵入したら日本の養豚は壊滅的な打撃となる。防疫対策を全国で徹底し、何としても拡大を食い止めなくてはならない。
一般的に豚コレラに感染したイノシシは、発症して5日ほどで死ぬ。だが、今回のウイルスは弱毒性で、感染しても症状が現れるまでに10日ほどかかり1カ月程度は生存できる。その間にウイルスが各地にばらまかれてしまった。
家畜伝染病に詳しい東京農工大学農学部の白井淳資教授によると、1972年に国内で発生した際の「神奈川株」と同程度の弱毒性という。「岐阜県内には中国人が多く、中国から違法に持ち込んだ感染した肉の残さを夜行性のイノシシが食べた可能性がある」とみる。イノシシの出産期と、春節で海外から観光客が多く訪れる時期が重なり、厳重警戒が必要だ。
まず電気柵の確認から始めてほしい。岐阜県豚コレラ有識者会議によると電気柵やワイヤメッシュの設置が不完全で、豚舎内や飼料置き場に野鳥や小動物の侵入が認められた農場があった。農場での防疫とは違い、野生のイノシシに対する国の対策マニュアルがなく、手探りの状況が続いている。
電気柵を扱うサージミヤワキの宮脇豊社長によると、侵入を防ぐには地上から20センチにワイヤを張ることが鍵という。飛び越えるのを恐れて高く張っているケースが多いが、「鼻先が触れるよう地をはうような高さに設置することが大事」と指摘する。草に触れやすいため、漏電しても電気を流せるエネルギー出力が大きいタイプが良く、豚舎の場合は柵を4、5段とし、ワイヤの強度を高める必要がある。イノシシは体をさらすのが苦手のため、くぼ地をなくし、柵の外側の草も刈り取って寄せ付けないことが肝心だ。
豚コレラは空気感染はせず、経口と接触によって広がる。白井教授によると対策は二つ。一つはイノシシと豚との接触を絶対に避けること。電気柵の適切な設置に加え、生息数を減らすための捕獲強化も求められる。
二つ目は感染がさらに広がった場合の対応だ。「これ以上広がれば、養豚経営は成り立たない。緊急ワクチンを使うことも視野に入れるべきだ。一斉に接種し、出なくなったらワクチンをやめて清浄国になった経緯がある」と提起する。
風評被害を防ぐことも肝要だ。豚コレラは豚やイノシシの病気であり、人に感染することはない。感染した豚の肉が市場に出回ることはなく、仮に食べても影響はないことを、業界挙げて発信すべきである。
豚コレラに加え、アフリカ豚コレラまで侵入したら日本の養豚は壊滅的な打撃となる。防疫対策を全国で徹底し、何としても拡大を食い止めなくてはならない。
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施設野菜、酪農 営農指導にICT活用 北海道・JA新はこだて
北海道のJA新はこだてはNTT東日本などと協力して農業情報通信技術(ICT)の実証試験を始めた。施設野菜、酪農の生産環境データの測定・分析に加え、農作業も記録し、生産性向上に結び付ける。JAと農業改良普及センターが情報を共有しながら、データに基づいた営農指導を実践。農産物の安定生産と品質向上につなげる。
2019年02月15日

豚コレラ 愛知 処分2・2万頭 渥美半島入り口一般車両も消毒へ
愛知県は、田原市の養豚団地の一部農場で豚コレラの感染が見つかったことを受け、未感染の農場を含め、団地内と関連農場合わせて計16農場の豚1万4600頭の殺処分に踏み切った。ウイルスを封じ込め外部に拡大するのを防ぐ。今回を含めた県内の殺処分頭数は約2万2000頭に上る。田原市のある渥美半島は、養豚場が集中しているため、原則24時間体制で一般道の消毒などに乗り出す。
防疫措置の対象農場は団地内の14農場と、団地内の生産者が管理する周辺2農場の計16農場。8戸が経営しており、事務所や堆肥場、死体を保管する冷蔵庫や車両を共同利用している。県は13、14と連日、団地内の2戸3農場で疑似患畜を確認していた。
3農場以外の検査結果は陰性だったが同じ作業形態、動線があるため、県は今後新たな発生が確認される可能性を懸念。団地全体を一つの農場とみなした上で、団地内の農家が管理する周辺の2農場を含め、一括して防疫対象とした。
団地内での殺処分は13日から始まっているが、防疫措置が完了するには今後、1週間から10日かかる見込みだ。
今回を含めた県内の殺処分頭数は、農水省によると、10年の口蹄(こうてい)疫の約23万頭に次ぐ規模。県全体の飼養頭数約33万頭(18年)の7%に当たる。
同省は、今回の養豚団地から半径約10キロ圏内の9カ所で、畜産関連車両の消毒地点を拡大。さらに、搬出制限区域外の一般道で一般車両も消毒する。
一般車両を想定した消毒は昨年9月に豚コレラが発生以来、初の措置となる。国道3本と県道1本の渥美半島の入り口に消毒地点を置く。同地点から半島の先端まで散水車を走らせ、消毒液を散布する。交通量が多い国道23号沿いに、消石灰帯を8カ所設ける。
畜産関係車両には、消毒地点のある道を積極的に通るよう呼び掛ける。警察や自治体、畜産関係団体の協力を得て、原則24時間体制で消毒する。
2019年02月16日
5月末にも開発拠点 秋の成果発表めざす JA×ベンチャー新事業
ベンチャー企業などと連携し、技術やアイデアを生かして新事業や課題解決につなげるJAグループの新たな拠点「イノベーションラボ」が、5月末にも東京・大手町に開設することになった。今後、コンテストなどを行って連携するベンチャー企業を決定。秋には報告会を開いて、新たな商品やサービスを発表する。
2019年02月13日

[達人列伝](80) ニラ 北海道知内町・大嶋貢さん(49) 緻密な管理で高収量 研究実り通年出荷に貢献
畑の多くが雪に閉ざされる冬の北海道で、貴重な地場産野菜として道民に愛される知内町のニラ「北の華」。約2ヘクタールを手掛ける大嶋貢さん(49)は、地域トップクラスの大規模栽培をしながら、きめ細かい管理で高収量を挙げている。ブランド力を高めるため、それまで出荷がなかった11、12月に収穫できる新たな栽培体系も確立。通年出荷への道を開いた。
同町は道内最大のニラ産地。「北の華」は、しゃきしゃきとした食感や甘さが特徴だ。
一度植えたニラは3年間栽培する。1年目は株を育て、2年目以降に数回収穫する。大嶋さんが最も重視する作業が、1、2年目の7~11月に行う「株養成」。この成否が次年産の作柄を決めるという。
ハウスのビニールを外し、追肥や防除をして球根を育てる。ポイントは、倒伏しにくい丈夫な株作り。肥料は少量を小まめに与え、成長を促しながらも草丈が伸び過ぎないようにする。葉の色や幅、分けつの様子を観察し、タイミングや最適量を見極める。暑い時期はチューブでかん水し肥料の吸収を促す。こうした緻密な管理で、2018年産の10アール収量は地域の平均を25%上回った。
JA新はこだての知内町ニラ生産組合では、7年前から組合長を務めブランド振興に力を入れる。「ビジョンが明確で、地域の農業を守ることを第一に考えている」(JA担当者)と信頼を集め、互選で決まる役員を約20年にわたり務め続ける。
産地のリーダーとして、率先して栽培技術などの研究に打ち込む。成果の一つが晩秋取り品種の導入だ。町内の主力品種は、11、12月が収穫の空白期間。大嶋さんは冬の鍋物需要などに応えようと、この時期に収穫できる新品種を模索した。1人で5年ほど試験を重ねて有望な品種を選び、栽培体系を確立した。
若手向けの栽培マニュアル作りなどにも尽力。原動力は、人一倍強い地域への思いだ。「大嶋農園は、先人が築いた『北の華』のずっと後ろの看板にすぎない」が持論。「周りと違うことで成功するよりも、町のみんなで日本一の単価を目指すのが楽しい。変わっているでしょう」と笑う。町がニラ産地として重ねた48年の歴史が、一番の誇りだ。(石川知世)
経営メモ
ニラや水稲、大豆など約20ヘクタールを栽培する「大嶋農園」代表。家族4人と実習生やパート従業員3人で作業する。
私のこだわり
「1人なら1歩だが、10人なら10歩。ブランドはみんなが手をつないで作るもの」
2019年02月11日

世界のラン展開幕 多彩な「花々」 「光る」初公開
世界最大級のランの祭典「世界らん展2019―花と緑の祭典」が15日、東京都文京区の東京ドームで始まった。29回目の今年は、ランにとどまらず、多彩な「花々」や多肉・食虫植物などの「緑」があふれる。世界初公開の「光るシクラメン」などが見どころ。22日まで。
会場には世界18カ国・地域の約3000種、約10万株、250万輪以上の花を展示する。コチョウランやカトレアなどのランで彩った幅約20メートル、高さ約5メートルの「オーキッドゲート」や、華やかなシンボルモニュメントなど、写真映えする空間を演出。光るシクラメンは、深海に生息する海洋プランクトンから発見された蛍光タンパク質の遺伝子情報を導入した。
ランのコンテストは個別部門の最高位「日本大賞」に、東京都の櫻井一さん(71)が栽培したパフィオペディラム エメラルドゲート「グリーン グローブ」が選ばれた。
2019年02月16日
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豚コレラ防疫 息の長い 手厚い支援を
何としても食い止めなければならない。豚コレラの感染が広がり養豚農家の緊張が続いている。防疫の徹底には資金や人員、時間がかかり、中長期的な支援は欠かせない。殺処分を余儀なくされた農家の苦しみに寄り添い、経営再開に向けた息の長い支援が求められている。
「仲間の誰もが精神的にも経営的にも限界の状況だ」。岐阜県養豚協会の吉野毅会長は指摘する。現場では、外部との接触は極力避け、感染拡大の恐怖と闘いながら、想定できる限りの防疫態勢を敷いている。
だが、資金不足からシャワールームなど高度な防疫施設を整備できない農家もいる。リスクを減らすには設備投資への支援に加え、施設に入る車両を一方通行にするなど工夫も求められる。衛生管理への支援は待ったなしだ。さらに吉野会長は「今、起きている現実を見てほしい。一日でも早くワクチンを使ってほしい」と要望する。
殺処分を余儀なくされた当該農家の中には、経営再開を目指す担い手がいる。欠かせないのは万全の補償体制だ。発生農場に対し、殺処分した豚の評価額を都道府県が算出し、国が手当金として補償するといった支援策はあるが、現場からは「雇用も含めた農場全体での評価額を算出してほしい」(愛知県の養豚関係者)、「まとまって補償金が出て収入としてみなされたら、税金が払えない」(発生農場の関係者)といった声が上がる。政府はこうした声に耳を傾け、柔軟に対応すべきである。
地域の理解も必要だ。発生した養豚農家は「経営を再開したい。だが、息の長い支えがなければ、立ち上がれない」と漏らす。周辺住民から経営再開に対し不安の声が出ている場合は、県や地元自治体、JAなどの関係機関が連携して地域に説明し、住民理解につなげる必要がある。殺処分に直面する農家の苦しみや不安に寄り添う対策が求められている。
畜産は、食料を供給するだけでなく、地域産業の一翼を担っている。ふんは良質な堆肥となり、耕種農家を支え、循環型の地域づくりに貢献している。副産物は皮革製品や医薬品にも活用されている。家畜の伝染病対策は農業だけにとどまらず、国民全体の問題として捉えるべきだ。
日本を訪れる外国人旅行者は年々増加し、4月からは外国人労働者を農業現場に受け入れる新たな制度が始まる。人の往来が増えれば、さまざまな家畜伝染病のリスクが増える。外国人との共生は重要だが、これまで以上の防疫強化が必要だ。現場での対策とともに、空港や港湾など水際での防疫をさらに強化し、国内へのウイルス侵入を防がねばならない。
養豚農家は感染の恐怖と闘っている。野生鳥獣の肉(ジビエ)をなりわいとする若者たちの経営にも深刻な影響が及ぶ。現場に寄り添う長期的な政策と心の支えが求められている。
2019年02月16日
政府備蓄米 需給安定へ推進加速を
低調だった政府備蓄米の取り組みが拡大してきた。生産調整見直し2年目となる2019年産は米政策の正念場だ。備蓄米は、飼料用米と並んで主食用米の需給を安定させる要となるだけに、産地の積極的な推進が求められる。
1月末に始まった19年産の備蓄米入札は、年間買い入れ枠20万9140トンに対し、計2回の累計落札量は約10万トン(47%)となった。18年産を下回る鈍い出足だが、初回で様子見をした主産地での落札が伸びた。最多の新潟(計2万トン)を含め、青森や福島、富山の4県で落札量が各1万トンを超えた。一方、県別枠の配分が3万トンと最多の山形や北海道が伸び悩むなど、15道県で配分された県別枠の2割に届かず、温度差が見られた。
近年、年間枠の全量が落札されたシーズンは、序盤で枠の大半が消化される傾向にある。だが19年産は落札が十分とはいえず、巻き返しが必要だ。
振り返れば、18年産は東北地方や新潟といった主産地が備蓄米の作付けをやめ、主食用米の増産に動いた。その結果、主食用米の作付面積は統計がある08年産以降、初の増加に転じた。生産量こそ作柄の低下で大幅増を免れたものの、こうした需給の不安要素は取り除かなければいけない。
需給安定に向けた好条件は、農水省が19年産から備蓄米入札の運用を改善したことだ。買い入れ枠の全量を、他県と競合することなく入札でき、価格面で有利な都道府県別優先枠を割り当てた。備蓄向けに落札された米の引き受け時期も、従来より前倒しし、産地の保管経費を抑えられるようにした。
落札価格は前年産より上げて60キロ当たり1万3000円台後半(税別)で、主食用米と変わらない水準となる。多収性品種で取り組めば、農家所得の向上が見込める。東日本の産地関係者は「19年産備蓄米の価格は、魅力的な水準に映る。当初は模様眺めをしていたが落札を進めている」と明かす。
備蓄米は、播種(はしゅ)前に米の取引価格が決まるため、稲作経営の見通しを立てやすい。19年産の落札実績は、22年産まで優先枠として維持する。
こうした利点の周知が欠かせない。農水省は米の主産県を中心にキャラバンを展開し、需要に応じた米生産と備蓄米の推進を呼び掛けている。JAが独自にちらしを作成して、てこ入れを図る産地もある。
19年産の備蓄米入札は、昨年末に発効した環太平洋連携協定(TPP)の国内対策として、買い入れ枠を18、19年度の輸入枠に相当する9000トンを上乗せした。TPPで輸入する量と同量の国産米を備蓄米として買い上げることで、国産米の需給緩和や価格低下を防げると政府は説明する。
主食用米の需給と農家の経営を安定させるには、官民挙げて備蓄米の年間枠を達成させることが先決となる。
2019年02月15日
バレンタインデー 広めよう 花贈りの文化
きょう2月14日はバレンタインデー。女性から男性に贈るチョコレートもいいけど、最近のトレンドは男性から女性に花を贈る「フラワーバレンタイン」。愛情や感謝の気持ちを相手に伝えるのに花はぴったりだ。消費増にもつながる。花贈りの文化をもっと広めよう。
欧米をはじめ世界的には、バレンタインデーは男性から女性に花を贈る習慣が多いとされる。日本でフラワーバレンタインが知られるようになったのは、花の生産者や卸、小売りでつくる花の国日本協議会が2011年に「男性の花贈り」キャンペーンを始めてからだ。
花き業界ぐるみのフラワーバレンタインの呼び掛けもあり、男性による花贈りの習慣が広がりつつある。
同協議会が昨年まとめた男女1000人(20~50代)の意識調査によると、過去1年間に贈り物で花を買った経験がある男性は42%で、3年前の3倍近い。過去の調査と比べ、花贈りが「楽しい」「わくわくする」と感じる男性が増え、照れくささや恥ずかしさを上回るようになった。一方、花を贈られた女性の8割以上が「すてきだ」「おしゃれだ」「(男性が)一段とかっこ良く見える」などと好意的に受け止めていた。
男女間で花を贈ったり、贈られたりという行動が、これまで以上に肯定的に受け止められ、市民権を得たと言えよう。
この潮流を、花き業界も消費拡大のチャンスと受け止める。日本農業新聞が昨年末、業界関係者に行った19年のトレンド調査では、花き消費拡大の“期待値”が最も高い物日はバレンタインデーだった。正月や盆など定着した物日利用は、伸びしろを見込めないというわけだ。
実際、小売店のフラワーバレンタイン向けの売り込みは年々、積極性を増している。大手チェーン店を中心に商品提案が活発だ。定番のバラに加え、ラナンキュラスやチューリップなど季節の洋花を提案したり、仕事帰りに手軽に持ち帰りやすい商品を前面に押し出したりして消費を喚起している。
業界はさらに、その先を見据える。本紙のトレンド調査でも明らかだが、19年のキーワードとして、週末の食卓や居間を花で飾る「ウイークエンドフラワー」や、職場に花を飾る「フラワービズ」が前年の調査結果を大きく上回った。生活スタイルや働き方を変えるための必須アイテムとして、花を売り込もうという戦略だ。
記念日の贈答用から日常生活、職場まで、花を使いたくなる場面はまだ多い。潤いや安らぎを花に求める消費者のニーズは高まっている。暮らしのさまざまな場面に、文字通り花を添えたくなるような商品提案を業界にはもっと期待したい。
もちろん、産地側からの積極的な提案や売り込みも欠かせない。作る人、売る人、贈る人、飾る人──。花贈りは、みんなを笑顔にする。
2019年02月14日
増える外国人事故 安全重視の労働環境を
国内で働く外国人労働者が146万人と過去最多を更新する中、農業現場では安全が置き去りになっている。4月からは改正出入国管理法(入管法)に基づく新たな受け入れが始まる。農業は全産業の中で最も危険な業種だけに、安全教育の徹底や心のケアなど働きやすい環境整備が急務である。
外国人の労災事故は多発している。法務省は2017年までの8年間で、18歳から44歳までの実習生ら計174人が事故や病気、自殺などで死亡したとする集計を出した。
農業現場では、16年度の1年間に耕種農業で57人、畜産で51人と計108人の実習生が事故に遭った(国際協力研修機構調べ)。過去には無免許で道路をトラクターで走行中、転落して亡くなったり、無免許でフォークリフトを運転し、重傷事故で長期入院したりした若者もいる。
生活上のトラブルで死に至るケースも発生している。畜産現場で働いていた中国人男性は入国後1年2カ月で心不全で亡くなった。日本の生活になじめず偏った食習慣が災いし、不眠が続いていたという。他にも、経営者と後輩実習生の板挟みになってストレスを抱え、自殺を図った中国人男性や、実習生同士の男女関係のもつれや仕事ができない悩みで、2度の自殺を試みたタイ人女性もいた。共通していたのは「孤立」だ。日頃から積極的に声を掛け合い、コミュニケーションを取るなど精神面のケアも求められている。
改正入管法に基づき、4月から新たに農業現場が受け入れる外国人材の9割は、技能実習の修了者で占める見込みだ。安全対策が不十分なまま受け入れが始まれば、こうした悲劇がさらに繰り返されることになる。
受け入れ側も問われている。法務省によると、17年に不正行為を通知された実習実施機関は183機関。最も多かったのが「賃金などの不払い」で136機関、「偽造文書などの行使・提供」「労働関係法令違反」と続いた。「農業・漁業関係」の不正行為は39機関と、繊維関係(94機関)に次いで多かった。旅券や在留カードを取り上げて返却しなかったり、通帳や印鑑を事務所で保管し、実習生が自由に賃金を引き出せないようにしたりしていた。
菅義偉官房長官は、改正入管法が成立した昨年12月8日、「外国人材を管理する」と発言した。足りないから外国から連れてきて「管理」し、余ったら帰せばいい──。人間ではなく労働力としか見ていない。自分が他国で息子や娘を働かせている親の立場だとしたらこの状況をどう思うだろう。
JAなどの事業者や雇用者は、労災保険の加入や安全対策の徹底、人権の尊重など労働環境の整備を急ぐべきだ。JA全中などでつくる「農業技能実習事業協議会」の果たす役割も大きい。多様性を認め、誰もが安全で働きやすい職場をつくることが求められている。
2019年02月13日
牛肉輸入急増 TPPの再協議を急げ
環太平洋連携協定(TPP)の再協議を急ぐべきだ。昨年末のTPP発効を受け、牛肉輸入は急増している。参加国からの1月の輸入量は3万トン超と前年同月を6割上回るハイペースだ。輸入急増に歯止めをかけるセーフガード(緊急輸入制限措置=SG)は、離脱した米国の参加を前提にしており、機能を果たしていない。
TPPは日本農業にとって過去最大の市場開放となる。特に影響が懸念されている品目が、関税が38・5%から27・5%へ下がった牛肉だ。
財務省によると、1月のTPP参加国からの牛肉輸入量は、メキシコ、ニュージーランド、カナダ、オーストラリアの4カ国産を中心に3万2885トンに上る。例年ならば、4カ国からの1月の輸入量は2万トン前後で推移しており、「近年にはない高い水準」(東京都内の商社)という。
問題は、肝心のSGが機能不全の状態であることだ。牛肉のSGの発動基準数量は、牛肉輸出大国である米国からの輸入を含めて設定された。ところが途中で米国がTPPから抜けたため、基準数量が実態と合わず、発動しない可能性が高い。
TPPには、米国の復帰が見込まれない場合、合意内容を見直すという再協議規定がある。米国と日本は近く、2国間による貿易協定交渉を本格化させる。まさに今が「復帰が見込まれない場合」で、発動基準数量の見直しに向けて再協議すべき時である。だが、日本政府は動く気配がない。
なぜか。それは米国をTPPに復帰させたいという思惑があるからだ。日本の交渉関係者は「米国抜きの合意内容に見直せば、米国の復帰の道を閉ざし、対日自由貿易協定(FTA)へと向かわせることにもなる」と強調する。
だが、生産現場への打撃を放置していいはずはない。何より、TPPを批判して離脱した米国が、TPPに復帰する保証はどこにもない。
問題は他にもある。「TPP枠」だ。日本が米国を含む12カ国を対象に設定した低関税輸入枠で、乳製品の場合は7万トン。既にニュージーランドやオーストラリアだけでこの枠を満たしてしまう。それとは別に、米国から2国間交渉で低関税の輸入枠を迫られる展開もあり得る。
TPP参加国は1月、東京都内で閣僚級の「TPP委員会」の初会合を開いた。議論したのは、新たな国が加盟する際のルール。日本はTPP再協議に手を付けないまま、国内農業をさらに窮地に陥れる加盟国拡大を急いでいる格好だ。
2月から欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も発効した。日本農業はかつてない自由化の真っただ中にいる。安倍晋三首相が「農家の不安にしっかり向き合う」と言うのであれば、TPP再協議に向けて汗をかくことこそ、政府の進むべき道である。
2019年02月11日
食品ロス削減 もったいないを行動に
食品ロスの削減に向けて、市民や飲食業界を巻き込んで「サルベージパーティー」「フードシェアリング」という取り組みが広がっている。余った食材の調理法を共有したり、食材を余らせた人と必要としている人を結び付けたりすることだ。食品ロスの4割は家庭から出る。地域で、家族で考えてみよう。
サルベージパーティーとは、海難事故から人や物資を救い出す「サルベージ」という言葉から、捨てられてしまう食材を救うとの意味が込められている。
パーティーでは余った食材を持ち寄り、シェフと調理法を考える。飲食業の企画・立案を手掛けていた平井巧さん(39)が、飲食業から出る食品ロスを「もったいない」と感じたことが発端となった。残った食材で作る賄い飯からヒントを得た。ロスを減らすこつは「難しく考え過ぎないで、楽しく新しい調理法を学び、習慣化することが大切」という。
フードシェアリングは、食べ物を分かち合うという意味がある。売れ残りを出したくない飲食店と格安な食材を求める消費者をつなぐスマートフォンのアプリも登場し、飲食店295軒、8万2000人の消費者が登録している。
行政も動く。富山県は「3015運動」を県民に呼び掛ける。3015は同県が誇る北アルプスの立山の標高(メートル)にちなんだ。運動は、①毎月30日と15日に冷蔵庫をチェックして食材を使い切る②宴会の開始後30分と終了前15分に食事を楽しむ時間を設定して食べ切る──という内容だ。
国会でも昨年12月、超党派による「食品ロス及びフードバンク支援を推進する議員連盟」が発足した。今国会で議員立法による「食品ロスの削減に関する法律案」の成立を目指す。
まだ食べられるのに捨てられる食品ロスは全国で646万トン。6割は食品産業や小売り、外食が占め、残り4割は家庭由来だ。国民1人当たりに換算すると1日に茶わん1杯分のご飯が捨てられていることになる。
国連加盟国が2030年までの達成を目指す「持続可能な開発目標」(SDGs)では、小売り・消費レベルで「世界全体の1人当たりの食料廃棄を半減させる」という目標を掲げている。国際社会の一員として、積極的に関わる必要がある。
全世界の科学者を対象としたジャパンプライズに選ばれた、米オハイオ州立大学特別栄誉教授のラタン・ラル氏は、各国政府は国連の場では決議に賛成するが、本国に戻ると実行しないという。「選挙を気にしない、長期視点を持つリーダーシップが欠かせない」と説く。
大量生産、大量消費、大量廃棄の悪循環の輪から抜け出すことが大事だ。飼料自給率の向上へ廃棄が出ても焼却せず、家畜の液状飼料として活用することも欠かせない。「もったいない」の気持ちを行動に移す時である。
2019年02月10日
綱渡りの生乳需給 飲用上げ弾みに増産を
生乳需給は綱渡りが続いている。Jミルクは、2019年度の需給を予測し、前年度比0・9%増と4年ぶりの増産を見通した。だが、都府県の生産基盤弱体化に歯止めがかかっていない。4年ぶりの飲用乳価引き上げをてこに、官民挙げた着実な増産対策を進めるべきだ。
相次ぐ自由化で、酪農家の生産意欲に悪影響を及ぼさないか。今春には日米貿易協定交渉も待つ。国産乳製品への打撃は、徐々に出てくると見込まれ、需給にどう響くか注視したい。
こうした中で、Jミルクの生乳需給見通しは微増となった。北海道が昨秋の大地震の影響から立ち直る見込みが大きい。半面、都府県は減少幅が縮まってきたとはいえ、減産傾向が続く。需給見通しとセットで農水省は、来年度のバターと脱脂粉乳の輸入枠数量を発表した。
注目したいのは、バター2万トン(製品換算)と、1年前の当初枠に比べ7000トンと大幅に輸入を増やした点だ。需要が増えているためだが、今後も消費増が続くか不透明だ。生乳に換算すれば約24万7000トンと酪農産地、数県分の数量だ。それだけに国内の乳製品市況をはじめ、需給状況によって来年度の乳製品価格交渉にも影響する。
本年度は、都府県対策を重視した大手乳業メーカーが指定生乳生産者団体との価格交渉で、飲用向けを4年ぶりに引き上げた。一方で、加工向けは乳業によって対応は分かれたが、最終的に据え置きで決着した。
自由化に伴って乳製品の輸入は拡大していく。それに加えて今回のバター輸入枠の大幅拡大。会見で「バター輸入枠が大き過ぎないか」との指摘に、同省は「あくまで枠であり5、9月の時点で生産状況を見て見直しもあり得る」と応じた。
焦点は夏の気温と生乳生産の状況だ。改元絡みの10連休で学校給食向け牛乳の休止もあり、気温次第で一挙に加工向けが増える可能性もある。国は需給動向を精査し、輸入枠見直しも含めて迅速に対応するべきだ。
間違いないのは、9月の生乳需給が例年以上の綱渡りとなることだ。9月の道外移出量は前年同期比23%増の6万トン強を見通すが、輸送能力の限界に近い。昨秋の北海道地震の教訓は道と都府県の均衡ある酪農発展だったはずだ。都府県の生産底上げが欠かせない。
気になるのは、輸入枠発表時に示した同省の国内生乳生産の見通しがあまりにも楽観的なことだ。2歳未満の未経産牛の増頭などから、長期目標750万トンに向けて「順調に回復していく」とした。自由化が加速し、生産コストが上がる中で果たしてそうだろうか。
国は畜産クラスターや初妊牛導入対策などを拡充するが、償還金返済や家畜ふん尿処理の環境対応など課題も多い。中山間地域や家族経営にも光を当て、北海道と都府県のバランスある発展を見据えた酪農行政が求められている。
2019年02月09日
米大統領教書演説 対日強硬姿勢に備えよ
米国議会でのトランプ大統領の一般教書演説は一見、融和と協調の姿勢が強調されている。だが、注視すべきは通商交渉の行方で、関税の大統領権限強化に触れた。日米協議に言及しなかったとはいえ、農産物の市場開放を含めた今後の厳しい対日交渉に備えるべきだ。
演説内容を額面通りには受け取れない。1年前、一般教書演説では深入りしなかった通商問題を、直後に激しく動かしたからだ。制裁関税を“武器”に「ディール(取引)外交」を展開したことは記憶に新しい。
今回も「過去何十年にもわたる破滅的な通商政策を転換しなければならない」と強調した。まずは、米中通商協議の行方だ。期限の3月1日まで3週間余り。2月下旬の米朝首脳会談と絡め、中国の習近平国家主席と首脳会談を行う可能性も高い。ただ、一時休戦が成立しても、安全保障を絡めた経済覇権争いは収まらない。長期戦となるだろう。
通商政策で注意したいのは、演説の中で新法に言及した点だ。「互恵貿易法案」とも言うべき通商関連法案で、関税の決定権を全て大統領に移管する強硬策である。トランプ氏は米国の貿易赤字を諸悪の根源と見て、これを削減し、解消する手段として制裁関税の威力を強調している。
米中協議が一定に妥結すれば、次は対日交渉に焦点が移る。トランプ外交は“トップ決断”が特色で、訪日の機会は5月から6月にかけて2度あるとみられる。
一つは5月の新天皇即位での国賓としての招待。いま一つは、日本が議長国となる6月下旬の主要20カ国・地域(G20)首脳会議の時である。事前には、水面下も含め日米の通商閣僚による協議があるだろう。
トランプ氏の全ての関心は、来年11月の次期大統領選にある。支持を得るための国民的関心事は何か。「トランプ・カレンダー」と言われる政治日程のスケジュールは、大統領選から逆算して具体的に書き込まれている。この「トランプ・カレンダー」に照らせば、来年初頭には再選のかかった大統領選が事実上動きだす。
トランプ氏が日米貿易協定の交渉成果を有権者にアピールするには、今年中に議会の批准を終える必要がある。逆算すれば7月末までに合意、署名を目指すとの見方も出ている。
一方、安倍政権は今後の政局を左右する参院選を控えており、いずれにしても、6月から7月にかけてが交渉の大きなヤマ場となる。
相次ぐ自由化で、国内農業の生産基盤は一層の弱体化が懸念される。食料自給率は38%と危機的な状況だ。安倍晋三首相は、日米協議で国内農業生産に打撃を与える一切の妥協を排すべきだ。拙速な判断は、農業者の不安を増幅させ、今後の選挙にも重大な影響を与えることを肝に銘じるべきだ。
2019年02月08日
豚コレラ拡大 官民挙げて封じ込めを
最大級の警戒が必要だ。岐阜県に端を発した豚コレラは5府県に拡大し、養豚農家は危機的な状況を迎えている。感染源となる野生のイノシシを近づけないために、電気柵の確認や捕獲の強化など官民挙げた封じ込めが必須である。
一般的に豚コレラに感染したイノシシは、発症して5日ほどで死ぬ。だが、今回のウイルスは弱毒性で、感染しても症状が現れるまでに10日ほどかかり1カ月程度は生存できる。その間にウイルスが各地にばらまかれてしまった。
家畜伝染病に詳しい東京農工大学農学部の白井淳資教授によると、1972年に国内で発生した際の「神奈川株」と同程度の弱毒性という。「岐阜県内には中国人が多く、中国から違法に持ち込んだ感染した肉の残さを夜行性のイノシシが食べた可能性がある」とみる。イノシシの出産期と、春節で海外から観光客が多く訪れる時期が重なり、厳重警戒が必要だ。
まず電気柵の確認から始めてほしい。岐阜県豚コレラ有識者会議によると電気柵やワイヤメッシュの設置が不完全で、豚舎内や飼料置き場に野鳥や小動物の侵入が認められた農場があった。農場での防疫とは違い、野生のイノシシに対する国の対策マニュアルがなく、手探りの状況が続いている。
電気柵を扱うサージミヤワキの宮脇豊社長によると、侵入を防ぐには地上から20センチにワイヤを張ることが鍵という。飛び越えるのを恐れて高く張っているケースが多いが、「鼻先が触れるよう地をはうような高さに設置することが大事」と指摘する。草に触れやすいため、漏電しても電気を流せるエネルギー出力が大きいタイプが良く、豚舎の場合は柵を4、5段とし、ワイヤの強度を高める必要がある。イノシシは体をさらすのが苦手のため、くぼ地をなくし、柵の外側の草も刈り取って寄せ付けないことが肝心だ。
豚コレラは空気感染はせず、経口と接触によって広がる。白井教授によると対策は二つ。一つはイノシシと豚との接触を絶対に避けること。電気柵の適切な設置に加え、生息数を減らすための捕獲強化も求められる。
二つ目は感染がさらに広がった場合の対応だ。「これ以上広がれば、養豚経営は成り立たない。緊急ワクチンを使うことも視野に入れるべきだ。一斉に接種し、出なくなったらワクチンをやめて清浄国になった経緯がある」と提起する。
風評被害を防ぐことも肝要だ。豚コレラは豚やイノシシの病気であり、人に感染することはない。感染した豚の肉が市場に出回ることはなく、仮に食べても影響はないことを、業界挙げて発信すべきである。
豚コレラに加え、アフリカ豚コレラまで侵入したら日本の養豚は壊滅的な打撃となる。防疫対策を全国で徹底し、何としても拡大を食い止めなくてはならない。
2019年02月07日
国会論戦本格化 農の未来像 現場に示せ
4日から通常国会の予算委員会が始まり、論戦が本格化してきた。安倍晋三首相が語ってきた「事実に基づく丁寧な説明」とは程遠い。厚生労働省による毎月勤労統計の不正調査問題では、事実究明に後ろ向きな政府の姿勢が鮮明になっている。国会は、政治家が国民に語り掛ける場であることを忘れるべきではない。
毎月勤労統計の不正調査問題を巡り、野党は予算委に先立つ理事会で厚労省の前政策統括官の参考人招致を要求した。だが与党は拒否。安倍首相も招致の是非について「お答えのしようがない」とはぐらかした。政府・与党は、7日までに2018年度第2次補正予算案を成立させ、8日から19年度予算案の実質審議入りを目指すが、事実の究明をうやむやにしたまま審議入りを急ぐべきではない。
農業、農村は重大な局面を迎えている。かつてない農畜産物の自由化を行う環太平洋連携協定(TPP)、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が相次いで発効し、農家は今後の経営に不安を抱いている。さらに日米貿易協定で、トランプ大統領が強硬に圧力をかけてくるのは間違いない。
12年12月の第2次安倍内閣発足以降、安倍首相は成長戦略の“一丁目一番地”として農業の規制改革を断行し、農協組織の在り方にメスを入れ、米の生産調整なども見直した。官邸主導で強引に改革を進めたことで先行きが見えず、現場は混乱している。
農林中金総合研究所は、政府の「農業競争力強化プログラム」に基づく農業改革関連法の運用状況を検証し、業界再編は必ずしも農家の所得向上につながっていないと断じた。
メガFTA(自由貿易協定)の時代に農家や産地はどう立ち向かえばいいのか。規模拡大や競争力強化に傾斜した農政をどう軌道修正すべきか。生産基盤の弱体化をどう克服し、低迷する食料自給率を高める道筋をどう描くのか──。国会の場で説明する責任がある。
本来なら、農政検証の場となる食料・農業・農村基本計画の見直しが始まっている頃だ。1月末に農相が有識者らでつくる審議会に諮問し、約1年かけて議論するのが通例だった。だが農水省は議論の開始を今秋に先送りし、農家らの意見聴取を先に始めることとした。異例の段取りとも言える。
安倍首相は、今国会の施政方針演説で「平成の、その先の時代に向かって、日本の明日を共に切り開いていこう」と語った。それならば基本計画見直しを農政の主テーマに掲げ、与野党が論戦を繰り広げるべきだ。
春には統一地方選、夏に参院選がある。衆院選もあるかもしれない。高齢化に伴う労力不足に加え、未曽有の災害や貿易自由化が農家を直撃している。安倍首相はじめ与野党の議員は、審議を通じて農の未来像を示すことが必要だ。
2019年02月06日