空をこえて ラララ 星のかなた

 〈空をこえて ラララ 星のかなた ゆくぞ アトム ジェットの限り〉。この歌に多くの子どもが心をときめかせた▼鉄腕アトムは世界的漫画家手塚治虫の代表作である。先の東京五輪の前年にTVアニメが始まり、大ヒット。歌詞は詩人の谷川俊太郎さんが作った。高度経済成長で希望を膨らませる子どもたちの科学と宇宙への夢をかき立てた▼しかし、手塚が追い求めたものは科学の進歩というより生命の尊厳。鉄腕アトムの人気に、「未来は技術革新によって幸福を生むというようなビジョンを持っているように言われ、大変迷惑しています」と『ぼくのマンガ人生』(岩波新書)でこぼしている。ロボットと人間の共存の難しさや科学合理主義への疑問が“科学賛美”に入れ替わり、独り歩きした▼いま、スマート農業への視線が熱い。無人のロボットトラクターが田畑を耕し、作業の誤差はわずか数センチ。病気や害虫の防除は人工知能が判断し、遺伝子を操った新たな品種が育つ。成長を見込んで企業も続々参入する。気が付いたら田んぼから農家が居なくなり、命のぬくもりが消えた。そんな未来図が頭をよぎる▼きょうで、没後30年。「科学の子」の懸念は農業にも通じよう。命を“ムシ”してはいけないと叫ぶアトムの声が聞こえてくる。 
 

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