森朗さん(気象予報士) 1年分の気候で育つ食材 味引き立つ素朴な料理

森朗さん

 は子どもの頃、「コックさんになりたい」と言っていたそうです。その時の思いがよみがえったのか、数年前に料理に目覚めてしまい、いろいろ作るようになりました。

 よく作るのはコロッケとギョーザ。コロッケは、母親が作ってくれた味を思い出しながら。ただしカロリーを控えたいので、油で揚げるのではなく、オーブンを使って作っています。ギョーザは、銀座の中華料理店「天龍」のあんをイメージして。この店のギョーザは、ニンニクもニラも入っていないあっさり味。祖父に連れられて行って以来、50年以上も通って食べ続けている大好物です。

 最近では冷蔵庫を開けて残り物が何かを見て、メニューを決めています。

 料理をやると、食材にも興味が湧くじゃないですか。そうすると、仕事や旅行で行った先々で見たものへの興味や関心も違ってきますね。

 去年の秋、初めて新潟県の十日町に行ったんです。見渡す限りの田んぼに圧倒されました。関東平野と違って山が迫っているんですが、そちらの方にも棚田が見える。さすがは米どころだな、と。

 新潟は冬の雪がものすごい。そのため水資源に事欠かないんですね。山に降った豊かな水資源が海まで流れる間に、田んぼにとどめておかれるということなのでしょう。この地域は冬は雪で閉ざされてしまうので、外で仕事ができません。それで織物が盛んになったそうです。

 物ののり付けには、海藻のフノリが使われます。そこでフノリが入ってきました。さらにそれをつなぎに使う、へぎそばというそばも誕生したんです。なんで海から遠いのに海藻を使ったそばがあるのかと疑問に思っていましたが、答えは冬の雪にあったんですね。

 世界的にみても、これほど緯度の低い所で豪雪となるのは、この地域だけなんです。シベリアの寒気が流れ込んでくる気候が「コシヒカリ」やへぎそばを作っているわけです。

 去年の3月に北海道の網走に行きました。そこで食べたオホーツクの魚介類のおいしさは、言葉で例えようがないですね。ものすごく低い水温で育っているので、脂が乗っていて甘い。カニを食べても甘い、ホタテを食べても甘い。東京で魚介類を食べて「脂が乗ってておいしい」という表現を使っていたんですが、それとは全然違いますね。滑らかな甘味です。

 流氷が流れ着く冷たさが、甘味のある海産物を育てるのでしょう。

 いといえば、ここ何年か続けて訪れている沖縄県の八重山諸島。仕留めたばかりのイノシシをいただくんです。軽くあぶっただけの、タタキみたいな状態で。この肉がまた甘いんですよ。野山を駆け回って、きれいな野草や山菜を食べたイノシシの肉ほどおいしいと聞きました。

 自然環境と食材の関係については、学問として勉強はしていました。でもその場所に行き、見て、食べてみないと、実際には分かりません。これまで僕は頭でっかちでしたね。

 これからはなるべく地方に出掛け、それぞれの土地のおいしいものを食べたいと思うようになりました。食材の良さを生かした素朴な料理がいいですね。味付けは塩だけとか。それが一番のぜいたくだと思います。

 目の前にある食材には、1年分の気候がギュッと詰まっているわけじゃないですか。各地の「気候を食う」みたいな旅行をたくさんしたいですね。(聞き手・写真 菊地武顕)
 

 もり・あきら


 1959年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、日鉄建材工業(現日鉄住金建材)入社。趣味のウインドサーフィンから天気に興味を持ち、95年に気象予報士資格を取得。「ひるおび!」(TBS)などテレビ・ラジオに多数出演中。著書に『異常気象はなぜ増えたのか~ゼロからわかる天気のしくみ』(祥伝社)など。
 

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