消費者不在の安全性 利益のために欺くな 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 最近、「科学的」であることを前面に打ち出した消費者団体をよく目にする。遺伝子組み換え(GM)は安全、防かび剤は安全──。一般に消費者が不安に思っている食の安全に関する問題について、いずれも「何も不安に思う必要はない」という開発・販売側の発言と極めて一致しており、「非科学的で無知な消費者を卒業しよう」と諭すような内容になっている。

 政府の審議会には消費者代表に入ってもらう必要があるが、こうした「科学的」消費者団体は、科学的なことが分かる消費者代表として重宝されつつある。推進したい企業・政府側に消費者が懸念を表明するという構図が消えて、双方が賛成となるので進めやすい。

 消費者団体の中には、「科学的なことは文系の私には分からないので審議会に出ても確信を持って発言できないから遠慮する」という謙虚な人もいる。しかし、そもそも、GM食品などは長期摂取の人体への影響は「分からない」のである。それは非科学的でも無知なのでもなくて、それが正しい。「大丈夫」と断言する方が間違っている。至極妥当な意見の方が遠慮して、あるいは排除されて、「科学的」消費者代表ばかりになったら抑止力がなくなってしまう。

 「自然科学のことが分かる専門家なら正しい」にも疑問符がつく。巨額の研究資金を必要とする自然科学の研究者は、一度つながりができたら、その技術を否定しづらくなる可能性がある。研究資金の出所の違いで「科学的」見地からの発言も真っ向から食い違うこともよくある。 こうした中、消費者庁で食品添加物のパッケージ表示を「スマートフォンで調べたら分かる」という類いの簡略化をする方向で検討が始まろうとしている。食品添加物の安全性についても、まだ「分からない」ことが多い。それを心配する消費者が多いのだから、最低限、表示して選べるように「選択の権利」を保証すべきだ。

 なのに、日本の消費者のためにGM表示を厳格化すると言いながら、米国のグローバル種子企業の要請そのままに、実質GM非表示に近づけようとしている消費者庁は、この食品添加物表示にも、「米国の新たなGM表示法が、実はスマホで調べれば分かるという実質GM非表示法だった」というのと同じ手法を使おうとしている。

 消費者庁が実現した時、消費者は歓喜した。しかし、さまざまな検討が消費者不在で、糸をたどると同じ根っこにたどり着く、一方の側だけで議論した形を自作自演しているとの懸念も出ている。何のために消費者庁をつくったのか。消費者を守るのでなく、消費者を欺き、一部の「今だけ、金だけ、自分だけ」が健康リスクにふたをして、もうけるために消費者庁が機能することになってしまったなら、こんな悲しいことはない。
 

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