STOP!農作業事故 潜むリスクあぶり出せ 実地で測量も 複合要因を徹底分析 宇都宮大学農学部

宇都宮大学で開かれた農作業安全のセミナーで農家と話し合う学生たち(宇都宮市で)

 深刻な農作業事故の背景には複合的な要因が潜む。宇都宮大学農学部の学生らは、農家が「危険」と考える箇所を実際に測量して、目に見えにくい危険要素をあぶり出す試みを続けている。調査を踏まえ学内で開かれたセミナーには農家も参加。事故防止策の重要性や安全な作業に必要な農業技術を巡って意見を交わした。(特別編集委員・山田優)
 

コンバイン 判断力が鍵


 修士1年の棚橋拓也さん(24)は、日本農村医学会の過去の調査の中から、農機事故の状況が詳しく分かっている事例を基にして、「危険度」を計測した。

 農作業事故が起きる要因を「人」「機械」「環境」に分けてリスクを計算。事例の発生確率と被害の程度を勘案したところ、トラクターによる重大な事故では、4割が操作の際の判断ミスが主な原因だった。コンバインの場合は、事故リスク自体は小さいものの、判断ミスが原因で起きた事故の割合が6割で「対応がしにくい特徴がある」と指摘した。
 

トラクター 薄暮に注意


 同じ調査を基に4年生の松井脩平さん(22)は、トラクター事故に絞って複合要因を分析した。従来、事故がなぜ起こったのかを調べる調査はあったが、要因の組み合わせに注目したのが特徴だ。

 その中で浮上したのが「明るさ不十分」だ。個別の危険度は「安全性の低い機械」「傾斜や段差」などに比べて低いものの、他の要因と組み合わさって事故に結び付いていることが分かった。夕方にライトを点灯せずに転落したり、反射板がなくて後続の車に追突されたりした事例があった。薄暗い状態でトラクターを運転した場合、他の事故要因と合わさり、事故を誘発する可能性が大きい。
 

一見“安全” 危険箇所に


 4年生の小川悠一さん(22)は、実際の農機作業者6人に、自分の圃場(ほじょう)にある危険箇所を挙げてもらい、その場所で測量して分析した。水田への進入路の場合、単純勾配や高低差が大きいほど警戒するが、双方ともに小さい場合でも、作業者が「危険」と判断している場所が複数あった。測量結果をコンピューターグラフィックで再現すると、全体の勾配が緩やかでも部分的に傾斜がきつかったり、ぬかるみがあったりした。圃場の安全性を高めるには、注意深く周辺環境をチェックする必要があると指摘した。
 

個人農家の 意識付けを


 修士2年の白髭祐未さん(24)は、土地利用型の農家や11の法人を対象に、従来の事故分析で見過ごされていた「平常時」に焦点を当てて分析した。農作業環境に対する安全対策では、異業種から参入した法人が「危険な圃場は引き受けない」とリスク回避をしているのに対し、農家は「依頼を断りにくい」と回答した。

 また法人では作業をする人に朝礼などで安全対策を再確認していたが、農家は単独作業が一般的でそうした機会がなかった。しかし慎重な農機の操作や圃場、作業道の改善などには農家も法人も取り組んでいた。「ヒヤリハット」を感じる前から危険な場所や作業の改善が必要だと指摘した。

 学生らの調査、分析を基に同大学で2月末、農村計画学会の地区セミナーが開かれた。学生と栃木県農業機械士会会長の手塚安則さん(64)ら農家4人が意見を交わした。農家からは「進入路を渡る際、コンバインや田植え機のような作業機が不安定な状態になりやすい」「地域の実情を考えると危険箇所がある圃場でも引き受けて耕作しなくてはならない」などの声が挙がった。

 一方、学生は「安全対策を怠ると地域の農業が崩壊する」「研究を通じて農業が危険であることが分かった。このままでは就農にはためらいがある」などと話した。

 主催した農業環境工学科の田村孝浩准教授は「複合的視点で取り組むことの大切さがはっきりした。農家の声を聞くと、現行の圃場整備の設計基準を見直すことが必要かもしれない」と述べた。

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