タンカン食害…犯人は特別天然記念物 アマミノクロウサギ 自然 農業 共存探る 鹿児島県奄美大島、徳之島

根元にはアマミノクロウサギが樹皮を剥いだ跡がくっきり残る(鹿児島県大和村で)

アマミノクロウサギ(環境省奄美自然保護官事務所提供)

保護で頭数増 園地に巣穴も


 鹿児島県の奄美大島や徳之島で、国の特別天然記念物「アマミノクロウサギ」による農業被害が増え、農家が頭を抱えている。絶滅の恐れはあるものの保護活動が実り、近年は生息数がやや回復。すると、島の主要作物であるかんきつの木で食害が目立ち始めた。固有種の保存と農業経営をどう両立するか。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産登録を目指す機運が高まる中、地元は難しいかじ取りを迫られている。(木原涼子)
 

農家 「仕事にならぬ」


 奄美大島の中央部、大和村にある標高約400メートルのタンカン園地。「昨日も食ったな……」。JAあまみ果樹部会の部会長、大海昌平さん(63)はつぶやく。木の根元から約10センチ。樹皮をかじった歯形がくっきりと白く残る。食害で成木は傷み、病気になりやすくなる。苗木だと植え替えが必要だ。「即座に傷に癒合剤を塗らないと木が駄目になってしまう」という。

 点在する園地7ヘクタールを管理する大海さん。本来なら剪定(せんてい)に費やす時間が、被害の確認と補修に奪われる。その時間は毎日2時間以上。歩いて回れた園地だけでも「前日できた新しい傷」を5カ所以上で見つけた。確認した巣穴は27カ所以上。子育て中の巣穴も5カ所ある。

 新しく植えた苗木でも食害が相次ぎ、今季は約100本を植え直した。「クロウサギはかわいいが、ここまで被害が拡大すると仕事にならない」と嘆く。

 大海さんによると例年10月下旬から出没し、春前に個体数が増えるという。今季は食害が多発。「近隣の農家でも被害が出ている」という。

 村では2014年ごろから被害報告が上がる。農家から訴えがあっただけでも17年度の被害面積は75アール。苗木交換など換算できる被害額は65万円に達した。村は「被害額257万円のイノシシに次ぐ規模」と困惑する。徳之島でも被害面積38アール、被害額11万円になった。かんきつ以外に、芋類でも被害が現れてきた。

 ふんを基にした環境省のクロウサギの独自調査で「目撃や分布から、推定でも個体数は増えている」(奄美自然保護官事務所)という。頭数回復について同省は、天敵になっていたマングースが2000年度から始めた防除事業で減ったことが要因とみる。

 鹿児島大学国際島嶼(とうしょ)教育研究センター奄美分室は「下草が多い農地で、クロウサギがあえてかんきつの樹体を好む理由は解明されていない」と話す。電気柵を使って園地から遠ざける実験に乗り出すが、ウサギの鼻に電線が触れないと効果がないなど課題は多い。県大島支庁は地元自治体や農家、環境省と連携した対策会議を立ち上げ、自然と農業の共存の道を探っている。

 アマミノクロウサギ以外にも、るり色の羽を持つカラス科のルリカケスなど希少な生き物がすむ奄美大島。政府は「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」(鹿児島県、沖縄県)を世界自然遺産候補としてユネスコに推薦することを今年1月に了承した。20年の登録を目指す。奄美の自然が好きな大海さん。「世界自然遺産登録を目指しムードが高まる一方で、現場が抱える問題を観光客も含めて多くの人と共有したい」という。

 天然記念物の食害対策事業として、文部科学省は自治体が防護柵の設置や忌避剤の購入費など経費の3分の2を補助する。鶴の食害に悩む鹿児島県出水市では、指定の場所(水田)に餌をまくことで別の農地への侵入を防いでいる。

<メモ> アマミノクロウサギ

 大きさは40~50センチ。環境省によると個体数は奄美大島で2000~4800頭、徳之島で約200頭と推定(2003年時点)。レッドリストでは絶滅危惧●B類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)に分類される。
編注=●はローマ数字の「1」

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