進む農水組織解体 良識ある官僚 奮起を 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 振り返ると、日本の農林漁業を守り、国民への安全な食料供給の確保を使命としてきた農水省にとって、TPP(環太平洋連携協定)交渉への参加は、長年の努力を水泡に帰すもので、あり得ない選択肢であった。何としても阻止すべく、総力を挙げて闘ったが、押し切られた。痛恨の極みだった。重要5品目を除外する国会決議も守れなかったが、米などの被害を最小限に食い止めるために農水官僚が必死に頑張ったのは確かだ。

 重要品目の国境措置だけでなく、酪農の指定団体制度も、種子法も、漁業法も、農林漁家と地域を守るため、知恵を絞って作り上げ、長い間守ってきた仕組みを、自らの手で無残に破壊したい役人がいるわけはない(特定企業による民有林・国有林の「盗伐」も合法化する)。それらを自身で手を下させられる最近の流れは、まさに断腸の思いだろうと察する。

 官邸における各省のパワー・バランスが完全に崩れ、従来から関連業界と自らの利害のためには食と農林漁業を徹底的に犠牲にする工作を続けてきた省が官邸を「掌握」している。そんな今、命・環境・地域・国土を守る特別な産業という扱いをやめ、農林漁業を「お友達」のもうけの道具に捧げるために、農水省の経済産業省への吸収も含めて、農林漁業と関連組織を崩壊・解体させる「総仕上げ」が進行している。

 2017年6月には、生乳の特質から世界の全ての国が全量出荷を義務付けているのに、日本だけが酪農協の共販の弱体化を図る法改正を断行した。そのとき、「省令で『いいとこどり』の二股出荷は拒否できるように規定するから」と担当部局は酪農関係者に説明し、実際、彼らは一生懸命に知恵を絞っていた。しかし、「上」からの「小細工すると、分かっているよね」という圧力によって、結局、有効な歯止めをかけることはできなかった。

 種子法廃止(18年4月1日)に当たっても「従来通りの都道府県による推進体制が維持できるよう措置する」との付帯決議(与野党が頑張ったアリバイづくり)が入ったが、案の定、都道府県への「通知」(17年11月)は、都道府県は事業を続けてよいが、それは民間に移譲する移行期間においてのみで、その期間における知見も民間に提供しろと指示した。つまり至れり尽くせりで、グローバル種子企業がもうけることができるよう、早く準備しろと要請しているだけだ。

 実は、役所の担当部局と主要県の担当部署が相談して「都道府県は事業継続できる」との案を作ったのだが、「上」からの一声で、「それは企業に引き継ぐまでの間」と入れさせられてしまったのだ。酪農と同様、担当部局が頑張っても、最後は「鶴の一声」でジ・エンドである。

 それでも良識ある官僚は頑張っていることは忘れてはいけない。農水省をなくしてはならない。 
 

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