グローバリズムの終わり 農業守り国益確保を 日本金融財政研究所所長 菊池英博

菊池英博氏

 米通商代表部(USTA)のライトハイザー代表は3月12日、上院財政委員会で、日米貿易協定交渉で「(農畜産物が)極めて優先順位が高い」と述べ、農業分野を優先して取りまとめる姿勢を示した。

 米国抜きの環太平洋連携協定(TPP)と、日本と欧州との経済連携協定(EPA)が発効し、米国は牛肉などの対日輸出で厳しい立場に立たされつつある。農畜産物を中心とする分野で、TPP離脱で失った利益を早期に取り戻そうとする思惑が透けて見える。

 トランプ米大統領は選挙中から「保護貿易の方が国民を幸福にする(経済成長率が高い)」と主張し、大統領に就任するとすぐにTPPから離脱した。
 

保護貿易「再び」


 ケンブリッジ大学のハジュン・チャン教授によると、保護貿易時代の1960~80年の平均経済成長率は先進国が年平均3・2%、発展途上国が同3・0%だった。これに対し、自由貿易になってからの81~2010年までの平均経済成長率は先進国が年平均1・8%、発展途上国が同2・7%で、先進国も発展途上国も保護貿易時代の方が経済成長率が高かったのだ。

 トランプ氏は昨年9月25日の国連総会で「われわれはグローバリズムのイデオロギーを否定し、愛国心の理念を受け入れたい」と演説した。この結果、昨年12月の20カ国・地域(G20)の共同宣言から保護貿易批判の文字が消えた。保護貿易の再評価が始まったと言えるだろう。

 『よくわかるTPP 48の間違い』(農山漁村文化協会)によると、日米の「農業産出額に対する農業予算の割合(05年)」は、米国が日本の2・41倍もある。いかに米国が農業を厚く保護しているかが分かる。食料自給率が100%を超す米国が、しっかりと農業を保護しているのだ。
 

解決は別分野で


 一方、日本の食料自給率は肝心のカロリーベースで38%と極端に低い。このため、日米貿易協定交渉で米国の強引な要求をのまされると、日本の農業は壊滅的な打撃を受けるだろう。18年の日本の対米輸出は6兆円の黒字で、米国はこの黒字分を相殺するため日本に武器や農畜産物を購入するように要求している。

 だが、対米交渉では、日本の食料自給率が極端に低いことを勘案して、農業ではなく別の分野で解決すべきだ。対米黒字の7割近くは自動車輸出であり、既に自動車会社は米国での現地生産を増やす方針であると報じられている。

 日本は政府が外貨準備の形式で145兆~155兆円、「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」両方で合計100兆円を超す米国債を保有し、日本の銀行など(預貯金取扱金融機関)が保有する総預金1400兆円の実に17、18%が米国債に投資され、米国に還流している。

 トランプ氏と同じように日本も愛国心の理念をもって、農業保護を強めるべきではないか。
 

 きくち・ひでひろ


 1936年生まれ、東京大学教養学部卒、東京銀行(現三菱UFJ銀行)を経て95年から文京女子大学(現文京学院大学)・同大学院教授。2007年から現職、金融庁参与など歴任。著書に『新自由主義の自滅』(文春新書)。 
 

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