2大協定発効と輸入増 危機感持ち対策急げ 立教大学経済学部特任教授 金子勝

金子勝 氏

 環太平洋連携協定(TPP)、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の2大協定の相次ぐ発効に伴い、畜産物や乳製品などの輸入が急増している。

 TPPが発効したのは昨年12月30日。1月の牛肉輸入量は前年同月を4割上回る5万574トンとなった。オーストラリアやカナダなど参加国からの輸入量が6割近く(約1万トン)増加。牛肉の関税率が38・5%から27・5%に下がった1月を狙ったものとみられる。

 日欧EPAは今年2月1日に発効した。2月の貿易統計によると、EU産豚肉の輸入量は3万6228トンで、前年同月比54%増となった。デンマーク産は68%増の1万2796トン、スペイン産は44%増の1万1434トンだった。

 ワインの輸入量は42%、チーズも30%増えた。ワインはスペインやイタリア産、チーズはフランスやイタリア産の増加が目立った。EPA発効による関税の削減や撤廃の影響が早速出始めたと言える。
 

輸出戦略進まず


 政府はTPPなどで、関税削減・撤廃による価格引き下げの影響だけに着目し、農林水産分野への打撃(生産減少額)を、補って余りあるほどの輸出増を想定した。だが、現実にはそうなっていない。

 1月の貿易統計では、TPP加盟国のカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ、シンガポールの5カ国への輸出額は4698億円で、前年同月に比べて13・5%も減少した。

 政府が掲げる農産物の輸出戦略も筋書き通り進んでいるとは言えない。農水省がまとめた2018年の「農林水産物輸出入概況」によると、日本の農林水産物の輸出額は前年比12・4%増の9068億円となった。だが、輸入額も同3・2%増の9兆6688億円と拡大し、圧倒的な入超だ。収支は約2000億円も悪化している。

 政府はTPPなどの影響試算で、国内対策の効果により価格の安い輸入品への置き換えは生じず、国内の生産量も農家所得も維持できると想定したが、TPPや日欧EPAで輸入がさらに増えれば、日本農業の崩壊はどんどん進んでしまうだろう。
 

旧態依然では…


 ところが、政府の対応は規模拡大や効率化に傾斜し、危機感が薄いように感じる。18年度第2次補正予算のTPP関連対策も、ほとんどが旧態依然とした規模拡大や機械化などの対策だった。農地の大区画化、畜産関係の機械導入や施設整備への助成、野菜や果樹向けの産地パワーアップ事業などである。

 中山間の傾斜地が多い日本では、農地を集積しても、生産性向上には限界がある。畜産や酪農についても同じ事が言える。肉用牛の1戸当たりの頭数は09年の37・8頭から18年には52頭へと規模拡大が進んだ。だが、飼育頭数は約292万頭から約251万頭、飼育戸数も7万7300戸から4万8300戸に減った。

 酪農も1戸当たりの頭数は09年の64・9頭から18年の84・6頭へと規模が拡大したが、飼育頭数は約150万頭から約133万頭、飼育戸数も2万3100戸から1万5700戸に減少した。つまり、中小規模の経営が成り立たず退出を余儀なくされ、畜産も酪農も衰退している。

 このような状況で、規模拡大や効率化だけを追い求めても農業・農村の衰退は食い止められない。所得補償など根本的な対策を考えなければならない時期を迎えているのではないか。

 かねこ・まさる 1952年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程修了。2000年から慶応義塾大学教授、18年4月から現職。著書に『金子勝の食から立て直す旅』など。近著に『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)。
 

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