久保井朝美さん (気象予報士) 農と密接 天気って面白い 

久保井朝美さん

 実は私、気象予報士になるきっかけは、食べ物にあったんですね。

 長野でアナウンサーをしていた時に、飯綱町山水(さみず)のリンゴ農家でリンゴを育てるという企画を約半年かけてやったんです。収録日以外にもおじゃまして、雑草を刈る手伝いなどをさせていただきました。そこの方がヤギを飼っていたので、ヤギのミルクやチーズをいただいたり、朝どれのアスパラガスをいただいたり。

 その経験で、天気と農業がどれだけ密接に関係しているのか、初めて分かりました。夏から秋の長野は朝晩が寒く、昼は暑い。体には堪えましたが、寒暖差のおかげでリンゴがおいしくなると知り、天気って面白いなと思ったんです。

 その頃はアナウンサーとしてお天気コーナーを担当していました。長野県はどの県よりも天気予報の区分が多いといわれます。広いというのもありますが、山がありますから。山を越えると全然天気が違うんですよね。
 

気候が違うと…


 気候が違うととれるものも違い、食文化も異なります。

 長野といえばそばを思い浮かべる人が多いと思いますが、飯田市などがある南信ではお米がとれるので、そばよりも五平餅が名物です。

 そばを食べるにしても、長野市なら普通のそばつゆでいただきますが、クルミの産地の東御(とうみ)ではクルミだれで食べます。「ねずみ大根」という形の変わった辛いダイコンの産地である坂城(さかき)では、大根おろし入りのつゆにつける「おしぼりそば」が名物です。

 私は愛知県の岡崎市で育ちました。岡崎といえば「八丁味噌(みそ)」。大豆と塩だけを使い、カラカラカチカチになるまで熟成させたみそです。

 矢作川が流れる岡崎は水運が発展していて、大豆と塩が豊富に手に入る土地でした。そして気温も湿度も高く、ものが腐りやすかった。それで水分が抜けるほど熟成させる必要があったんですね。

 材料と気候風土がうまく絡んで、あのみそができたわけです。気象予報士になって改めて、なるほどそういうことだったのかと分かりました。

 八丁味噌を使った名古屋の名物料理が、味噌煮込みうどんと味噌かつです。最近は東京でも食べられるようになりました。「山本屋総本家」といううどん屋さんが、神田に店を出しています。そこに行くとホッとして、自分の中に岡崎の血が流れてるんだなと感じます。銀座には「矢場とん」という味噌かつのお店もありますし。

 他にも台湾ラーメン、小倉トースト、天むす……。愛知には独特の料理があります。

 台湾ラーメンって、実際には台湾にはないんですよね。「味仙」という店で、台湾出身の方が日本人に合うようにと考えた辛いラーメンです。愛知の人は八丁味噌に慣れていて濃い味が好きだから、受け入れられたのでしょうか。
 

旬を求め各地に


 食文化の背景に気候風土があると分かってからは、旅行に行っても土地の特性に思いをはせるようになりました。今では、特性の出やすい時期に旅行するのが良いと感じるようになりましたね。

 昔は暑い時は涼しいところに行きたかったし、寒い時は暖かいところがいいと思っていました。でも今は、冬は北陸に行って海の幸をいただき、夏には南国に行ってフルーツを楽しんだりする方が、面白く感じられるんです。南北に長い日本を旅して、旬の食材と料理を楽しみたいと思っています。(聞き手・写真 菊地武顕)
 

 くぼい・あさみ


 1988年、愛知県生まれ。慶応義塾大学卒業後、長野放送でアナウンサーとして活躍。取材を通じて天気に興味を持ち、2015年に気象予報士の資格を取得。「ひるおび!」(TBS)、「モーニングCROSS」(TOKYO MX)など出演テレビ、ラジオ多数。歴史が好きで、日本城郭検定2級保持者。
 

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