日米交渉と未来像 家族農業軸に再構築 明治大学名誉教授 中川雄一郎

中川雄一郎氏

 安倍晋三首相が昨年9月26日(日本時間27日)に米国で、トランプ大統領と交渉入りで合意した日米貿易協定は事実上、2国間の自由貿易協定(FTA)であることは、今では国民の多くが知るところである。

 それにもかかわらず、この事実を隠すために、安倍首相はFTAではなく「日米物品貿易協定(TAG)」だとの意味不明な言葉を用いて、国民を欺いている。

 安倍首相のこの行為・行動を何とも例えようがない思いで見ている人たち、とりわけ農業生産に従事する人たちは強い憤りの念を禁じ得ないだろう。
 

不均衡是正迫る


 と言うのは、米通商代表部(USTR)が今年3月末に発表した2019年版の外国貿易障壁報告書で、日米貿易協定交渉に言及。「かんきつ類、乳製品、加工食品、その他農産物の高関税」を取り上げて、「何よりもまず日本の農業分野に取り組み、一部の競争相手国よりも不利にならないよう交渉する」と、明記しているからである。

 要するにこの主張は、米国を除いた環太平洋連携協定(TPP)や、日本と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)による「日本市場における米国の不利益を許さない」ということなのである。

 日米両政府は15、16の両日、米国のワシントンで貿易協定の初会合を行い、茂木敏充経済再生担当相は会合後、「昨年9月の日米共同声明を進めるため、実質的な成果を得るという共通目標を再確認した」と述べた。だが、USTRは「巨額の対日貿易赤字を取り上げた」とする声明を出し、貿易不均衡是正を強く迫る姿勢を改めて強調した。

 初会合の真相は闇の中で、私たちは「トランプ政権の要求に忠実に対応」しようとする安倍政権の釈明と正当化を今後、延々と聞くことになるのだろう。

 そう思いつつ私は「日本農業の未来像」を考える資料として、国連世界食料保障委員会報告書『家族農業が世界の未来を拓(ひら)く』(農文協)を再読し、震災後の日本農業に関わる論点に改めて気付かされた。
 

食料安保後回し


 すなわち、①日本社会は食料不足や栄養失調と直接関係がないと思われているがそうではない。低い食料自給率(カロリーベースで38%)と農業部門の高齢化のために食料・飼料・農業資材を輸入することで需要が賄われており、農業生産システムは脆弱(ぜいじゃく)化している。

 ②この状態に対する政府の対策は、規模拡大と企業の農業生産への参入を促進する規制緩和である。しかし、このような政策選択肢が国民に十分な食料、雇用、生計の提供、すなわち、食料安全保障の実現や日本社会の持続可能な発展に貢献するか全く不明である。

 ③一方で、日本は小規模農業部門の経験を諸外国に提供できる存在である。農業生産者と消費者との直接的な連携(産直)は世界の多くの地域の運動モデルとなっている。

 ④震災後の被災地では、復興のための工業的農業プロジェクトが動きだしているが、他方で新たな連帯システム、農業生産活動や農村活動と結合したエコロジー的な小規模生産プロジェクト、地域の食と知恵、そして食料安全保障に対する希望を見いだす活動などが展開されている。

 日米貿易協定交渉は本来、少なくともこのような「日本農業の長期ビジョン」を踏まえてなされるべきである。

なかがわ・ゆういちろう 1946年静岡県生まれ。明治大学名誉教授。元日本協同組合学会会長。ロバアト・オウエン協会会長。著書『協同組合のコモン・センス』『協同組合は「未来の創造者」になれるか』(編著)などがある。

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