雪柳、水仙、パンジー、乙女椿、彼岸桜

 「雪柳、水仙、パンジー、乙女椿(つばき)、彼岸桜。春はなりふりかまわぬ、というていで、急ぎ足に、髪ふり乱してやってくる」▼近郊の野原を歩きながら、ああ、本当にそうだなぁ、と思う。田辺聖子さんのエッセーにある一節だが、これほど春の気分を表している形容を知らない。草花たちは、待ちかねたように、せきを切ったように、先を競いながら、野山をとりどりの絵筆で彩色していく。花前線が春北風(はるならい)の中を北上している▼春の喜びは、洋の東西を問わない。チェコの国民的作家カレル・チャペックは、大の園芸マニアで知られた。「四月、今こそまさに、恵みにみちた園芸家の月だ」「蕾(つぼみ)や芽のほころびは、まさに自然がつくりだす最大の驚異であることを知ってほしい」(『園芸家の一年』)。文字からも浮き立つ興奮が伝わる▼萌(も)えるのは草花だけではない。人もまた恋の芽生えに萌える。「恋草」という言葉がある。文字通り恋心を、盛んに生い茂る草に重ねたものでいかにも風雅である。春はまた新たな旅立ちの季節。旅の安全、門出の幸運を祈る時、先人は「草を結ぶ」と言った▼草を分けて進むがごとき人生の旅路。たとえ、路傍の名無し草であっても、小さな花をつけたいものである。〈あるがまま雑草として芽をふく〉種田山頭火。 

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