菜畑遺跡の食生活 穀物制限に異議あり 農林中金総合研究所客員研究員 田家康

田家康 氏

 佐賀県唐津市にある菜畑遺跡を先月、訪れた。縄文時代晩期から弥生時代中期にわたる集落跡で、紀元前900年ごろとされる日本最古の水稲耕作遺跡が見つかっている。

 遺跡には、当時の水田が復元されている。まだ大がかりなかんがい設備がなかったため、水田と言っても小川の水をせき止めたものだ。小川の両岸に沿って細長い30平方メートル程度の谷水田が整備され、古代米(赤米)などが栽培されている。水田に隣接した台地に高床式倉庫や竪穴式住居の集落が形成されていた。
 

豊作祈願と漁労


 遺跡の敷地内にある末盧館(まつろかん)では、菜畑遺跡からの出土品が展示されている。黒々と炭化した当時の米、水田を囲ったくいや矢板、くわ、穀物の実をかき集めたりするため長い柄の先に横板を付けた農具の柄振(えぶり)など、見学して飽きることがない。布痕の付いた土器を見ると、きめ細かな衣服が織られていたことが分かる。

 興味深かったのは、3頭の豚の焼けた頭骨が並んで出土したことだ。祭りの日に豚の頭をバーベキューのように串刺しにして焼き、豊作を祈ったと考えられている。水田稲作と野生動物の狩猟、そして玄界灘に近く漁労も営まれていたこの地では、豊かな食文化が形成されていたことだろう。

 2007年に顕在化したリーマン・ショックに連なる世界金融危機を喝破した金融デリバティブの専門家、ナシム・ニコラス・タレブ氏は、ちょっと変わった食事観を持っている。
 

先祖と同じ物で


 先祖が長年食べてきた食材こそが望ましく、そして安全だという考え方だ。レバノン生まれの彼は、東地中海で2000年間栽培されてきた農作物を食べ、飲み物では1000年前からあり、安全性が実証されたものを口にするという。水、ワイン、コーヒーがこれに当たり、炭酸飲料は対象外となる。

 最近、カロリーダイエットから炭水化物ダイエットとさまざまな食事の取り方が話題になっている。それぞれ栄養学などの根拠があるのだろうが、科学的な知見というのは新たな研究成果が出るごとに塗り替えられるから厄介だ。

 数十年を振り返れば、卵を一日何個食べるのが適切かなど、コロコロと見解が変わってきたことを思い出す。タレブ氏の視点は科学的な知見というよりも、歴史的なフィルターに信頼を寄せるものと言える。

 炭水化物ダイエットとは1970年代に米国で広がった「石器時代ダイエット」が端緒であった。人類は数百万年間にわたって狩猟採集で食物を獲得してきたのであり、穀物は主食ではないとの発想である。

 とはいえ、何も1万年前まで戻る必要はなく、タレブ氏が言うように2000年前を振り返ればいいのではないか。日本人が栄養不足に陥り、低身長になるのは仏教が普及して動物食が禁忌となって以降で、弥生時代から古墳時代にかけての成人男子の身長は160センチ以上あった。

 菜畑遺跡の食生活こそ日本人の原点といえよう。どなたか「菜畑式ダイエット」を考案してもらえないかと思う。
 

 たんげ・やすし


 1959年生まれ。農林中央金庫森林担当部長などを経て、農林中金総合研究所客員研究員。2001年気象予報士資格を取得し、日本気象予報士会東京支部長。『気候文明史』『気候で読む日本史』などの著書。
 

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