スイス憲法に学ぶ 食料安保へ農地を守れ

 日本農業の未来を考える上で参考にすべきは、食料安全保障を憲法に明記することに成功したスイスだ。国民への食料供給を確保するため持続可能性を支援し、とりわけ農地保全に力を注ぐ。生産基盤が弱まる日本も食料安保の確立へ、農地の保全を重視すべきだ。

 スイスは日本と同様、山が多く農地が不足しており、農業の国際競争力も弱い。他国からの輸入がなければ需要を満たせない。それだけに食料をどう安定的に確保するかは大きな課題となっている。このため2017年9月の国民投票で、憲法を改正し食料安保を新しい条項(104a条)に追加した。憲法で食料安保を規定するのは主要国としては初めてという。

 条項は「国民への食料供給を確保するため、連邦は持続可能性を支援し、以下の事項を促進するための条件を整備する」として五つの項目を掲げる。冒頭に掲げたのが「農業生産基盤、とりわけ農地の保全」。農地を未来にわたって守り続ける強い意志の表れだ。他に「地域条件に適合し、自然資源を効率的に用いる食料生産」「市場の要求を満たす農業および農産食品部門」「農業と農産食品部門の持続可能な発展に資する国際貿易」「自然資源の保全に資する食料の利用」を掲げた。川上から川下まで網羅されている。

 特筆すべきは、憲法改正だけで終わらない点だ。食料安保につながる農地を保全し、生産力を維持するために「供給保障支払い」を新設した。これまでは所得支持を目的とした直接支払いが大きな割合を占めていたが大幅に縮小。中長期的な農業生産の維持に軸足を移した。

 仕組みはこうだ。所得の土台となるのは約9割の農場が対象となる基礎支払い。その上に山岳酪農が対象となる「生産条件不利支払い」が加わり、平野部の畑作農家は「畑作地・永年作物支払い」が受けられる。

 「日本のような品目別の補助金給付ではなく、いかに農地を維持するかに重きを置いている」と農林中金総合研究所の平澤明彦部長。「持続可能な国づくりに向けてどんな農業を目指すのか。農地をどう保全すべきか、どんな消費流通が望ましいのか。スイスは国民全体で農業の未来をデザインしている」と指摘する。

 翻って日本はどんな農の未来を描くべきか。自給率が先進国で最低の中、食料供給に欠かせない耕地面積は442万ヘクタール(18年)と、ここ5年間で10万ヘクタール以上減った。荒廃農地は28・3万ヘクタール(17年)に上る。

 食料・農業・農村基本法では基本理念に「食料の安定供給の確保」を掲げ、「国内生産の増大を基本とし、輸入と備蓄を適切に組み合わせる」と記す。だが昨今、政府は国内生産の増大以上に輸入に重きを置いている。優先すべき課題は農地をどう保全し、生産を拡大し、食料自給率を向上させるかだ。憲法記念日に食料安保を考えたい。

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