“畑違い”から新視点 “モノ”作る現場に魅力 大手広告代理店から農業参入

「農業の課題をどんどん解決していきたい」と話す栗田さん(東京都港区で)

「野菜一つ一つの個性を大事にしていきたい」と話す阿部さん(東京都千代田区で)

 華やかな大手広告代理店を退職し、農業の世界に参入する若者がいる。自分の仕事が何につながっているのか見えにくかった会社員時代より、自分の手で何かを生み出す生き方に「幸せ」を見いだす。異業種の視点から農業の課題を見つけ、解決する活動も始める。
 

自社銘柄「ゆる野菜」出荷 神奈川県藤沢市 栗田紘さん


 神奈川県藤沢市で農業ベンチャーを経営する栗田紘さん(36)は、大手広告代理店の「電通」を辞め、2014年に農業の世界に飛び込んだ。現在は、トマトやキュウリなどを自社ブランド「ゆる野菜」としてJAさがみわいわい市藤沢店などに出荷する。

 電通時代は顧客から受注して提案する仕事が主。ゼロから1を生み出す「モノ作り」に携わりたいと考え始めた頃、父親が体調を崩したことが重なり、健康や食に気を使うようになった。モノ作り、食の両方に関われる場が農業だと思い、19アールの農地を借りて「seak(シーク)」を設立。農家として実績のない栗田さんが借りることができたのは、草木が生い茂る荒れ果てた土地だった。

 「今の農業の仕組みだと、稼げるようになるまで時間がかかり過ぎるなど、多くの問題が見えてきた」と栗田さん。自らが体験した苦労を解決することで、新規参入は増えると確信。農地を借りる交渉やインフラ整備、販路確保などの過程をパッケージ化したものを就農者に提供する新事業「リープ」を16年から仲間と新たに始めた。

 栗田さんは、今の農業には課題が多いと感じる一方、課題解決こそ可能性を引き出すと考える。「生き物を相手にしている手触り感が、都心の広告代理店で情報を商材に取り扱っていた頃に比べて幸せ」と充実感を感じる日々だ。

 畑は249アールまで拡大。栗田さんが出荷するJAわいわい市藤沢店の山本聡店長は「客の動向を理解した売り方を実践している。栗田さんの世代の人に農業を頑張ってほしい」と応援する。
 

ブランド化サポート事業 東京都渋谷区 阿部成美さん


 「畑にある“かわいい”を、みんなに共感してほしい」と笑顔を見せるのは「TUMMY(タミー)」(東京都渋谷区)代表の阿部成美さん(28)だ。18年に大手広告代理店の「博報堂」を辞め、同社を設立した。

 食べることが大好きで、京都大学農学部に進学。在学中に農家を訪れるうちに、畑に捨てられる規格外品や、量が少ないため流通に乗らない地場の特産を知り「もったいない」と感じたという。

 「畑の魅力を伝えられるのは自分しかいない」との夢を抱くようになり、まずは発信者としての力を付けようと博報堂を志望。4年間働いた後に夢を実現するために退社した。当初、収入減少に不安があったが、インターネット交流サイト(SNS)で起業について発信したところ、1カ月で1000人の賛同があったことが自信になった。「給料は自分の価値を測るものじゃない。どれだけ影響を与えられたかが価値になる」と不安を振り払った。

 今は、依頼があった農家の畑や農産物の魅力のブランド化をサポートする事業を請け負いながら、千葉県印西市で年間100種類以上の野菜を生産する「柴海農園」で週に1回、農作業を手伝う。タミーでは4月、「今の旬を届ける」をモットーに、同農園の野菜をメインに宅配事業を始めた。スーパーに並ばない珍しい野菜を優先し、納得のいく味、均一性より自然な形を厳選する。

 ダイコンの葉をベッドに見立て、寄り添う形で袋詰めするなど、詰め方も工夫する。「同じ形はなく、職場などで受け取った時にときめく体験をコミュニティーで共有してほしい」と願う。

 柴海農園代表の柴海祐也さん(33)は「かわいく野菜を売るという発想は自分には思い浮かばない。若い世代に野菜をしっかり食べようとアピールできれば、今後も成長していける」と期待する。

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