戸田奈津子さん(映画字幕翻訳家) おいしい欧州 車で巡って

戸田奈津子さん

 ハリウッドの映画関係者は、食べることが大好き。彼らは日本食を食べることを楽しみに来日するんですよ。

 特にすし。皆、アメリカで普段から食べていますけど、本場の日本ですしを食べるというのは特別な意味があるんでしょう。

 向こうですしの次に市民権を得たのが、そばとうどんです。SUSHIと同じようにSOBA、UDONは英語になっているくらい。麺類といえば、ラーメン好きのスターもいますよ。キアヌ・リーブスは、成田空港から東京・恵比寿のラーメン屋に直行するくらい。彼は豚骨スープが好き。あっさり系よりこってり系ですね。
 

懐石は繊細過ぎ


 日本の映画会社は、来日したスターを懐石料理の店に連れて行くんですよ。でもそんな料理を食べさせても、高いだけで無駄。あまりに味がデリケートなため、その良さが分からないんです。彼らにとっては、すしが限界かな。それに、懐石はとてもきれいに作られていますが、その料理の食材が何か分からない。それで彼らはとても不安に感じるようです。

 日本食の味がよく分かるのは、リチャード・ギア。ダライ・ラマと親交があるくらいの仏教徒で、東洋の文化に入れ込んでいますから。彼だけは懐石料理のデリケートな味わいも分かるようです。ウナギも好きだし。驚いたのは、ヒジキが好きだということ。向こうでも食べているみたいです。「ヒジキ、ヒジキ」と言い続けてました。

 フランシス・コッポラ監督もすごく食いしん坊で、何でも食べます。それに対してスティーブン・スピルバーグ監督は、すしが限界のよう。

 トム・クルーズは酒を飲まないから、せっかくすし屋に連れて行っても、握りを食べながらコーラを飲むのよ。彼はステーキが限界。ものすごく仕事に情熱を燃やしてますから、食べることにまで興味が回らない。体力のために肉を食べたいんですね。日本の柔らかい肉は格別だと、もりもり食べます。

 一つ知っていただきたいのですが、外国人が日本食を楽しんでいる姿を見て「箸、上手ですね」と声を掛ける人がいますよね。褒めているつもりで言うんでしょうが、これはとっても失礼なこと。アメリカでも、箸を使って食べるのは今や特別なことではありません。私たちがナイフとフォークを使って食べている時に、外国人から「上手ですね」と言われるのと同じなんですよ。

 私も食べることが大好き。プライベートで海外に行く時は、アメリカではなくヨーロッパなんです。理由はヨーロッパの方がおいしいから。毎年2週間ほど休みを取って、自分で車を運転して各地を回ったものです。ミシュランガイドを持ってね。フランス、イタリア、ポルトガル、スペイン。ついおいしい国に足が向きます。
 

今でも暴飲暴食


 私、暴飲暴食を続けているけど、とても健康なの。運動は大嫌いだし、健康に良いと言われることは何にもしていないけど、人間ドックで検査すると、医者がびっくりするくらい数値が良い。

 ストレスをため込まずに過ごしてきたのが良かったんでしょうね。一番忙しい時は、年間で50本字幕を作りました。週に1本ですよ。スターが来日すれば、通訳として引っ張り出されました。でもどんなに忙しくても、好きな仕事だから全然苦になりませんでした。おかげで80歳を過ぎても、おいしいものを食べ続けています。(聞き手、菊地武顕)

 とだ・なつこ

 1936年生まれ、東京都出身。80年公開の「地獄の黙示録」の字幕を担当し高い評価を得て売れっ子に。「タイタニック」「ミッション:インポッシブル」などの大作をはじめ、1500本以上の字幕を担当。92年に淀川長治賞、95年に日本映画批評家大賞を受賞。スター来日時には通訳も務める。

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