米中貿易戦争 報復の連鎖に歯止めを

 制裁と報復の応酬がやまない。米中両政府は共に追加関税を公表し、報復合戦は最終段階に入った。二大経済大国の覇権争いは、世界の貿易・経済に深刻な影を落とし、余波は日本農業にも及ぶ。「勝者」のない不毛な対立の早期収拾を望む。

 対中貿易赤字の解消を政権公約に掲げるトランプ米大統領の強硬姿勢が際立つ。来年の大統領選挙をにらみ、求心力を高める狙いもあるだろう。高めのボールを投げて譲歩を引き出す得意の「ディール(取引)」だとしても「危険水域」に入ったと見るべきだ。

 米国による第4弾の追加関税が発動すれば、中国からのほぼ全ての輸入品に関税が上乗せされる。ただ鉱物資源や医薬品を除外するなど、国内産業に配慮をする苦心の跡も見える。特に反発を強める農家向けに独自の支援策を検討するなど、支持層への対策にも目を配っている。体外的な強硬姿勢と国内対策の双方をにらみ、周到に戦略を練っている節がある。

 対する中国も一歩も引かない構えで、追加関税「最大25%」を表明。品目ごとに上げ幅を調整するなど苦肉の策を取っているが、圧力を強めている。習近平国家主席にとっても指導力を維持するためには対米圧力に屈することは許されず、米中双方にとって「瀬戸際交渉」が続く構図となっている。鍵を握るのが6月末に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)サミット。両首脳によるトップ会談でどこまで歩み寄れるかが最大の焦点となる。だが知的財産保護や技術移転、為替問題などの構造的対立を解くのは容易ではない。

 問題は米中対立の激化が、世界の貿易秩序をゆがめていることだ。吉川貴盛農相も協議の動向は「日本を含む世界の農産物の需給、価格に大きな影響を与える」と警告する。国際食糧政策研究所(本部・米ワシントン)は日本農業新聞の取材に、貿易戦争の犠牲者は貧困層だと指摘。1920年代末から30年代初めに横行した関税引き上げ合戦が、失業者の増大と世界恐慌を招いたとし、危機感を募らせている。国連が定める持続可能な開発目標(SDGs)にも逆行しているのは明らかだ。

 事実、世界経済にも暗雲が漂い始めた。国際通貨基金(IMF)は今年の見通しを下方修正したが、貿易摩擦の激化はさらに経済成長を弱めるとしている。日本経済も景況感の悪化が顕著になってきた。

 さらに注視が必要なのが、日米貿易協定交渉への影響だ。米中の通商交渉が停滞すれば、功を焦るトランプ米大統領が対日交渉の「成果」を求め、圧力を強めてくるのは必至だ。それでなくても農産物の関税撤廃を優先的に迫る構えである。交渉の本格化は参院選後といった観測もあるが、早期決着も予断を許さない。今月から来月にかけ日米首脳会談も相次ぐ。大幅譲歩への危険度は高まると見て、警戒を怠ってはならない。 
 

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