JAの役割を明記 地方創生で基本方針案
2019年06月12日

政府は11日、地方創生に向けた2020年度から5年間の「まち・ひと・しごと創生基本方針案」を提示した。地方への人や資金の流れの強化や、民間と協働するなど新たな視点を盛り込んだ。農山村に多様に関わる関係人口の拡大、地方への寄付や投資の活発化などを推進する。JAの役割を明記し、地域の人材育成や小さな拠点づくりへの参画を求めた。来週にも閣議決定し、方針を基に、年内に新戦略を策定する。
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[岡山・JA岡山西移動編集局] 冬まで高品質桃 10品種で長期リレー 労力分散贈答品に
JA岡山西吉備路もも出荷組合は、10品種の桃をリレー形式で長期間出荷し、ブランドを築いている。6月中旬から12月上旬までの長期出荷は全国的に珍しい。中元や歳暮の贈答需要に対応した所得安定や、労力分散を図っている。現在は、高糖度で日持ちが良いJA独自ブランド「冬桃がたり」を出荷。シーズン最後に高品質桃を出荷し、消費を取り込み、来季の販売につなげる。
同組合は、6月中旬の極早生品種「はなよめ」を皮切りに、12月上旬まで「冬桃がたり」を出荷する。
近年、力を入れているのが、シーズン終盤の「冬桃がたり」の生産、販売だ。極晩生種で、1玉約250グラム、平均糖度は15以上。品質や日持ちの良さから、歳暮やクリスマスの贈答需要が強い。卸売価格は、夏に出荷する主力「清水白桃」の2倍以上。今季は11月20日から出荷を始め、12月10日ごろまでを計画する。
「冬桃がたり」は2011年に栽培を始め、組合員94人のうち今は35人が1ヘクタールで生産している。生産量は増え、19年産は前年比4割増の3・5トン、販売額は5割増の1000万円を計画する。
栽培管理は4~11月まで8カ月を要する。一般的な剪定(せんてい)は夏と冬の2回だが、「冬桃がたり」は、夏も果実が樹上にあるため、冬の1回で作業を終わらせる必要がある。剪定場所の判断が重要で、組合内で研究を重ねている。収穫から出荷までは、室温7度に設定したJAの予冷庫で貯蔵。温度変化を抑え、品質を保持する。
1ヘクタールで10品種を栽培する組合長の板敷隆史さん(46)は「労力が分散され、安定収入につながる。増産して需要に応えたい」と意気込む。
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2019年12月06日

中小規模に配慮を 畜酪対策で決議 衆参農水委
衆参農林水産委員会は5日、畜産・酪農対策を中心に一般質疑をした。対策取りまとめに向けて、関連補給金は中小規模や家族経営の意欲喚起も考慮して決定することなどを政府に求める決議を全会一致で採択した。江藤拓農相は、関連対策の畜産クラスター事業の要件緩和に前向きな考えを示した。豚コレラ(CSF)の殺処分に伴う手当金の非課税化については、過去の事例を踏まえて議員立法を提起した。
決議では加工原料乳生産者補給金・集送乳調整金の単価や総交付対象数量、肉用子牛生産者補給金の保証基準価格は、中小・家族経営を含む酪農家の意欲喚起を考慮して決定するよう要望。畜産クラスター事業などは、中小・家族経営にも配慮しつつ、地域一体の機械導入などを強力に支援するよう求めた。
畜産クラスター事業の規模拡大要件について、江藤農相は中小規模、家族経営にとって「大きなハードル。重要な政策課題だ」と指摘。地理条件などで規模拡大が難しい農家らへの支援を検討する方針を示した。
加工原料乳生産者補給金の単価決定に向け、江藤農相は環太平洋連携協定(TPP)や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)、日米貿易協定を踏まえ、「農家の不安に寄り添わなくてはならない」と強調。「財務(省)と、しっかり交渉をやらせていただく」と単価水準確保に力を入れる考えを示した。共産党の紙智子氏への答弁。
豚コレラ発生農家には家畜伝染病予防法(家伝法)に基づき、全頭殺処分を求め、殺処分した豚の評価額と同等の手当金を支払う。ただ手当金は所得税の対象。経営再開の財源確保のため、非課税化を求める声は多い。
口蹄(こうてい)疫の発生時は、議員立法による措置で非課税となった。江藤農相は、現在の法的状況下で非課税にするのは不可能としつつ、「もう一回議員立法でやっていただければ法的には可能」と述べ、与野党議員に検討を提起した。国民民主党の関健一郎氏への答弁。
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2019年12月06日
街を歩けば、掲示板の何と多いことか
街を歩けば、掲示板の何と多いことか。標識、標語、宣伝。つい見てしまうのが、お寺の掲示板である▼近くの寺は、ほぼ毎月、更新する。「自分が変われば相手も変わっていく」「実践こそ現状を変える」。説教臭くもあるが、妙にしみる時もある。気になる存在だと思っていたら、なんと「輝け!お寺の掲示板大賞」なるものがあった▼仕掛け人は、仏教伝道協会の江田智昭さん。聞けば、昨年7月、お寺の掲示板の写真の投稿を呼び掛けたのが始まり。4カ月で約700作品が集まった。2018年の大賞は「おまえも死ぬぞ」。お釈迦(しゃか)様こと釈尊の教えだとされる。生と死の本質に迫り、インパクトは絶大。これで認知度が高まった▼掲示板の言葉は、仏の教えから人生訓、著名人の名言までさまざま。寺の個性がにじみ出る。「掲示板はお寺と一般の人の境目にあり、双方をつなぐ存在」と江田さん。今年は925作品が寄せられた。5日に発表された大賞は「衆生は不安よな。阿弥陀動きます」。松本人志さんの「後輩芸人たちは不安よな。松本動きます」をもじったもの。全ての生き物の身を案じた阿弥陀仏の教えを伝えた▼衝撃を受けたのは、大分の寺に掲げてあった一言。「ばれているぜ」。深くて怖い。官邸前に張り出したい。
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2019年12月06日

アフリカ豚コレラ 予防的殺処分 迅速に 議員立法も視野 通常国会で先行改正
政府・与党が1月召集の通常国会の冒頭で、アフリカ豚コレラ(ASF)を予防的殺処分の対象とするため部分的な法改正を検討していることが9日、分かった。同国会で家畜伝染病予防法全般の改正を予定しているが、同病の国内侵入に早急に備えるため、この部分だけを先行する。与党は通常より手続きを早められる議員立法を念頭に野党とも調整する。
通常国会は来年1月に召集されるが、2019年度補正予算案や20年度当初予算案の審議を優先し、家伝法を含む一般の法案の審議は4月以降となる見通しだ。
だが、アフリカ豚コレラはアジア各国で発生が拡大し、国内侵入の危険性が高まっている。「予防的殺処分に関する条文だけでも、一刻も早く改正しなければならない」(自民党農林幹部)と判断した。
アフリカ豚コレラは伝染力や致死率が高いが、有効なワクチンが存在しない。このため政府・与党はこの通常国会で家伝法を改正し、一定地域内で、感染していない家畜も含めて殺処分する「予防的殺処分」の対象にする方針を固めている。現行法では、口蹄疫だけがその対象だ。
一方、政府・与党が予定する家伝法改正には、豚コレラ(CSF)対策の強化のため、①国の関与の強化②野生動物対策の法定化③検疫担当職員の権限強化──なども含まれる。政府・与党は、このうちアフリカ豚コレラの予防的殺処分に関する条文だけを先行改正し、補正・当初予算などの成立後、残る部分も改正する方針だ。
法改正について政府・与党は「委員長提案」による議員立法を念頭に置く。事前の与野党合意を前提に、衆参委員会での審議を省略し、手続きを迅速化できる手法だ。豚コレラやアフリカ豚コレラ対策を巡っては、野党も独自に家伝法の改正を検討している。別の自民党農林幹部は、予防的殺処分については与野党で一致できるとみて「今後、野党にも協力を呼び掛けたい」とする。
59カ国・地域で確認 水際に警戒感
アフリカ豚コレラは2005年以降、世界で59の国と地域で発生が確認されている(11月10日現在、農水省調べ)。国際獣疫事務局(OIE)の報告によると、発生件数は飼養豚と野生のイノシシを合わせ、少なくとも3万件を超える。日本では、飛行機で来日した外国人が持ち込もうとした肉製品から、ウイルスの遺伝子が検出された例はこの1年間で80件を超え、水際での警戒が強まっている。
アジアでは18年8月に中国で感染が確認されて以来、11の国と地域に拡大した。OIEには12月8日時点で、豚の飼養施設と野生イノシシの発生を合わせて約6500件の報告があった。直近では韓国で9月中旬に拡大。飼養豚は10月上旬で発生は止まっているが、12月に入っても野生イノシシでの発見が続いている状況だ。
アジアから日本への航空便では、旅客の持っていた肉製品からアフリカ豚コレラのウイルス遺伝子が見つかる事例が増加している。当初、摘発が多かった中国やベトナムの他、ラオスやカンボジア、フィリピンから持ち込もうとした例も出てきた。
欧州では今年、スロバキアやセルビアで新たに感染を確認した。野生のイノシシでは11月だけでもポーランドやベルギー、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニアで陽性の報告があった。ロシアでは12月にも野生イノシシで陽性が出た。
アフリカ豚コレラは、国内で発生している豚コレラと症状が似ているが、全く別のウイルスによって感染する豚やイノシシの病気。有効なワクチンがなく、発生した場合は早期の殺処分による封じ込めしか対処法がない。
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2019年12月10日

[岡山・JA岡山西移動編集局] 受託田の水管理住民がサポート
JA岡山西は、JAの作業受託組織を住民が支援する「稲作りサポーター」制度を導入し、JAと地域住民で農地を守る体制を整えた。条件不利地や飛び地などの農地は受託が難しいが、日常的に必要な水管理をサポーターが担うことで、受託能力を高める。2019年は7人が、サポーターとして約5ヘクタール分の管理を担う。
サポーター制度を取り入れたのはJAの子会社として13年に設立した岡山西アグリサポート。19年度は水稲24ヘクタール、タマネギ1ヘクタールを栽培する。
倉敷市を中心に農地中間管理機構(農地バンク)を通じて、高齢で農作業が難しい生産者らから農地を預かるが、受託地は170カ所に分散され、面積拡大にも限界が出ていた。対策として16年から、地元農家から「稲作りサポーター」を募集。水管理の委託を始めた。
赤木稔さん(76)は、同市で水稲80アールを栽培しながらサポーターとして80アールの水管理を請け負う。6月の田植え時期が最も忙しく、地区によってはポンプで水路から水をくみ上げる水田も多く、機械を運搬するため体力もいる。赤木さんは「耕作放棄地を見るのは残念。みんなで助け合い農地を守りたい。体力が続く限り稲作りサポーターを続ける」と話す。
同社の阿部晃治生産部長は「サポーターのおかげでよく水管理ができ、草も生えにくいため、米の品質が上がった。協力して地域農業を守っていきたい」と頼りにする。
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2019年12月07日
農政の新着記事
来年度予算 農水2・3兆円台で調整 閣僚折衝で上積みへ
政府は11日、2020年度の農林水産関係予算を、19年度と同水準の2兆3000億円台とする方向で調整に入った。農水省は閣僚折衝で上積みし、総額の前年度超えを目指す。転作助成金に当たる水田活用の直接支払交付金は、当初予算比で165億円減の3050億円の方向。一方、19年度農林水産関係補正予算の総額は5849億円とする方針が固まった。
2019年12月12日

集送乳調整金5銭上げ 畜酪対策 増頭へ関連事業拡充
政府・自民党は11日、2020年度畜産・酪農対策を決めた。焦点の加工原料乳生産者補給金は、1キロ当たり8円31銭で19年度と同額に据え置き、輸送コストの上昇を受け、集送乳調整金は同5銭上げの2円54銭とした。合計も同5銭増の10円85銭で決着。増頭といった生産基盤の強化などに向け、農畜産業振興機構(ALIC)事業の関連対策も同25億円増の320億6000万円に拡充した。
主に北海道向けの補給金は、加工に仕向けた量に応じて支払う。……
2019年12月12日

基盤強化プログラム 生産拡大へ数値目標
政府は10日、安倍晋三首相をトップとする農林水産業・地域の活力創造本部の会合を開き、輸出向けの産地形成や担い手不足などに対応する「農業生産基盤強化プログラム」を決定した。輸出拡大をにらんだ和牛生産の倍増や水田農業の高収益作物産地500カ所創設などの新たな数値目標を設定。2019年度補正予算や20年度予算に達成に向けた経費を計上するが、万全の財源が確保できるかが問われる。
和牛倍増 加工野菜の需要奪還
安倍首相は会合で「安心で安全な日本の農林水産物が世界に羽ばたくチャンスは今後ますます広がっていく」と強調。輸出拡大や先端技術を活用したスマート農業の推進には「しっかりとした生産基盤が欠かせない」との認識を示した。
江藤拓農相は、同日の閣議後会見で「最重要課題の生産基盤強化を目的に取りまとめた」と説明。現在検討している補正予算を含め「切れ目のない対策を講じていく」との考えを示した。
プログラムは11本の柱で構成。日米貿易協定による牛肉輸出枠の拡大などを念頭に「さらなる輸出拡大」を真っ先に掲げた。来年4月に農水省に輸出の司令塔組織を設置し、輸出拡大に向けた新戦略を定める。
和牛生産は、米国や中国への輸出拡大を見込み18年の14万9000トンから35年に30万トンまで増やす目標を設定。具体策として繁殖雌牛の増頭奨励金や和牛受精卵の利用促進などを打ち出した。
水田農業対策では、輸入品が多い加工・業務用野菜の国産化や輸出向けの果樹栽培を念頭に、主食用米から高収益作物への転換を促し、25年度までに500産地の創出を目指す。高収益作物を導入する産地に水田の基盤整備や機械・施設の導入、販路開拓などを一体的に支援する方針だ。
「中山間地域や中小・家族経営も含め、幅広く生産基盤の強化を図る」とも明記。24年度までに地域資源を活用して中山間地域の所得向上などに取り組む250地区を創出することも盛り込んだ。
他に、加工・業務用野菜の出荷量(直接取引分、18年度は98万トン)を30年度までに145万トンに拡大することや、25年までに担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践することなども目標に据えた。
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2019年12月11日

畜酪対策 補給金単価上げ重視 中小支援が課題 自民
自民党は10日、2020年度の畜産酪農対策の決定に向けて、詰めの議論をした。加工原料乳生産者補給金の単価引き上げに加えて、都府県酪農の抜本的な強化策を求める意見が相次いだ。生産基盤の維持、強化に向けて、中小規模や家族経営への支援を重視。畜産クラスターの要件緩和や営農継続に向けた関連対策の充実を課題に挙げた。
畜産・酪農対策委員会(赤澤亮正委員長)の他、農林合同会議でも議論を重ねた。
補給金は、集送乳経費を支援する集送乳調整金と合わせ、19年度は1キロ当たり計10円80銭。北海道選出の議員らは再生産の確保に向けて、流通コストの高騰などを考慮し、相次いで単価の引き上げを求めた。
関連対策を巡っては、畜産クラスター事業の要件緩和や、家畜ふん尿処理対策、労働力確保に向けた酪農ヘルパー確保など課題は多い。政府は畜産・酪農の基盤強化に向け、繁殖雌牛や乳用後継牛への「増頭奨励金」の交付など、増頭・増産を柱に掲げている。
葉梨康弘氏は、畜産クラスター事業などの支援策について、「増頭できる家族経営ばかりじゃなくなっている」と指摘。規模拡大を目指す農家だけでなく、柔軟な要件にするよう求めた。
生産量減少が進む都府県酪農では、大規模化が難しい中小経営の基盤維持が課題。簗和生氏は「現状維持でも継続できるよう支援するというメッセージが生産回復の一歩だ」と訴えた。
坂本哲志氏は、後継牛やヘルパーの確保、ふん尿処理などを個別に解決しても効果は限定的と指摘。「総合パッケージ型の酪農対策をやらないといけない」と提起した。
ブランド和牛生産の実態を踏まえ、小寺裕雄氏は「規模拡大ばかりに向かわず、現状を維持する経営にも手を差し伸べる施策を充実してもらいたい」と訴えた。
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2019年12月11日

事業協同組合 各地で設立へ 農業、飲食店、介護業…人口急減地域に働き手 若者定住受け皿に
過疎地や離島など人口が急減する地域のさまざまな職場や作業場に、事業協同組合が若者を“人材供給”できる新法が成立した。集落営農組織、飲食店、介護業者、農家など、若者は組合に出資した多様な組織や個人事業主に出向いて通年雇用され、行政が運営費を補助する。新法の活用では若者がやりがいを持って働ける環境づくりや地域内の連携が鍵になる。
複数の仕事通年で提供
新たな法律は「特定地域づくり事業推進法」。先の臨時国会で11月27日に成立した。都道府県知事が認定し、人口が急減している各地域に、特定地域づくり事業協同組合を設立するものだ。
組合は、地域の四つ以上の会社や個人事業主などが出資して発足。出資できる組織は資本金や従業員数などの上限がある。同組合では社会保障や給与を保障して若者らを通年雇用し、基本的に出資先の組織や個人事業主に人材を供給する。
総務省によると、山間部の一つの中小企業で雇用を1年間継続するのは難しくても、地域の企業や個人が連携し同組合を設立すれば人材を確保できる。同省は「夏場だけ忙しい農業、冬場だけ忙しいスキー場など、年間の需要の変動を、組合でうまく調整すれば年間通じた仕事が確保できる」と説明する。
政府・与党は組合運営費の2分の1を基本的に公費から支援する方針だが、特別交付税措置も含めて国がそのうちの4分の3を財政支援をする見通し。来年6月の施行までに同省が詳細を決める。
組合が雇用する従業員は若者を想定するが、法律には年齢制限を明記していない。厚生労働省の労働局に労働者派遣の届け出をして、各職場に出向くことになる。
JAの場合、資本金や従業員数の上限があるため、事業協同組合に出資できない組織が多い見通し。ただ、同組合の事務局になり地域の連携を後押しするなど、関わる手立ては多い。事務局は公務員やNPOなど多様な主体を想定する。
環境づくり話し合いを
同法に、既に大きな関心を示す地域もある。農山村に移住したい若者はいても、安定した仕事の確保が移住や定住の壁の一つ。同法の運用次第では若者の定住対策も見込める。今後は、雇用される若者がやりがいを持って出向く環境づくりが問われる。
島根県邑南町の石橋良治町長は「田舎で豊かに暮らしたい若者の活躍の場を作りたくても、難しい面があった。地域にも若者にも貴重な法となり得る。受け入れる側の責任が問われる法律」と認識する。今後は地域で時間をかけて話し合い、出資をしてもらう会社や組織を募り、若者を受け入れる考えだ。
子育て支援に力を入れる新潟県出雲崎町も関心を示す。小林則幸町長は「若い人を呼び込める起爆剤としたい」と強調する。一方、西日本のある県は「労働の穴埋めという考えではうまく機能しない。人手不足だからと安易に組合発足を(自治体に)促さず、話し合っていく」とする。
地域の“宝”呼び込む
法律の作成を主導した人口急減地域対策議員連盟会長、細田博之衆院議員の話
かつては田舎には仕事がなく都会に若者が向かっていた。しかし、働く環境や子育てする環境などを見ると、現代は都会が過疎地域に比べて豊かとは決して言えなくなった。ただ、農村に住みたい若者はたくさんいても仕事の確保が課題だ。
一方、農村では、農業や林業、雪かき、介護、草刈りなど仕事はたくさんあり、人手不足に悩む。ただ、何か専業では食べていけなかったり、一つの企業で雇用は難しかったりと課題がある。
新法はこの二つの課題を結びつけるもの。雇用保険や年金など社会保障も確保して通年雇用し、多業で働いてもらう。
法律に「派遣」との言葉があるので都会の派遣業のイメージを持つ人もいるが、全く異なる。来て働く若者は地域の宝。新法は地域の中核となる人材を安定雇用するものだ。派遣というより、人材供給と捉えてほしい。
国は財政支援をする。ただ、まずはJAや地域の中小企業などみんなで将来の地域の在り方も含めて話し合ってほしい。山間地の集落営農組織に活用してもらいたい。
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2019年12月11日

アフリカ豚コレラ 予防的殺処分 迅速に 議員立法も視野 通常国会で先行改正
政府・与党が1月召集の通常国会の冒頭で、アフリカ豚コレラ(ASF)を予防的殺処分の対象とするため部分的な法改正を検討していることが9日、分かった。同国会で家畜伝染病予防法全般の改正を予定しているが、同病の国内侵入に早急に備えるため、この部分だけを先行する。与党は通常より手続きを早められる議員立法を念頭に野党とも調整する。
通常国会は来年1月に召集されるが、2019年度補正予算案や20年度当初予算案の審議を優先し、家伝法を含む一般の法案の審議は4月以降となる見通しだ。
だが、アフリカ豚コレラはアジア各国で発生が拡大し、国内侵入の危険性が高まっている。「予防的殺処分に関する条文だけでも、一刻も早く改正しなければならない」(自民党農林幹部)と判断した。
アフリカ豚コレラは伝染力や致死率が高いが、有効なワクチンが存在しない。このため政府・与党はこの通常国会で家伝法を改正し、一定地域内で、感染していない家畜も含めて殺処分する「予防的殺処分」の対象にする方針を固めている。現行法では、口蹄疫だけがその対象だ。
一方、政府・与党が予定する家伝法改正には、豚コレラ(CSF)対策の強化のため、①国の関与の強化②野生動物対策の法定化③検疫担当職員の権限強化──なども含まれる。政府・与党は、このうちアフリカ豚コレラの予防的殺処分に関する条文だけを先行改正し、補正・当初予算などの成立後、残る部分も改正する方針だ。
法改正について政府・与党は「委員長提案」による議員立法を念頭に置く。事前の与野党合意を前提に、衆参委員会での審議を省略し、手続きを迅速化できる手法だ。豚コレラやアフリカ豚コレラ対策を巡っては、野党も独自に家伝法の改正を検討している。別の自民党農林幹部は、予防的殺処分については与野党で一致できるとみて「今後、野党にも協力を呼び掛けたい」とする。
59カ国・地域で確認 水際に警戒感
アフリカ豚コレラは2005年以降、世界で59の国と地域で発生が確認されている(11月10日現在、農水省調べ)。国際獣疫事務局(OIE)の報告によると、発生件数は飼養豚と野生のイノシシを合わせ、少なくとも3万件を超える。日本では、飛行機で来日した外国人が持ち込もうとした肉製品から、ウイルスの遺伝子が検出された例はこの1年間で80件を超え、水際での警戒が強まっている。
アジアでは18年8月に中国で感染が確認されて以来、11の国と地域に拡大した。OIEには12月8日時点で、豚の飼養施設と野生イノシシの発生を合わせて約6500件の報告があった。直近では韓国で9月中旬に拡大。飼養豚は10月上旬で発生は止まっているが、12月に入っても野生イノシシでの発見が続いている状況だ。
アジアから日本への航空便では、旅客の持っていた肉製品からアフリカ豚コレラのウイルス遺伝子が見つかる事例が増加している。当初、摘発が多かった中国やベトナムの他、ラオスやカンボジア、フィリピンから持ち込もうとした例も出てきた。
欧州では今年、スロバキアやセルビアで新たに感染を確認した。野生のイノシシでは11月だけでもポーランドやベルギー、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニアで陽性の報告があった。ロシアでは12月にも野生イノシシで陽性が出た。
アフリカ豚コレラは、国内で発生している豚コレラと症状が似ているが、全く別のウイルスによって感染する豚やイノシシの病気。有効なワクチンがなく、発生した場合は早期の殺処分による封じ込めしか対処法がない。
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2019年12月10日
温暖化で植物適地移動 VoCCで分析 果樹転換参考に 長野県など研究
地球温暖化が現在のペースで進むと、国内の高山帯に生息する野生動植物は、21世紀末に生息適地がなくなる可能性がある──。長野県環境保全研究所などでつくる研究グループが発表した。全国1キロ四方ごとに温暖化の影響を推計したのは初めて。影響は市町村ごとに閲覧できるようにし、農業分野では作物転換の検討に使ってもらう。
推計には、気候変動速度(VoCC)という指標を用いた。現在のペースで温暖化が進むと、VoCCの全国平均は1年当たり249メートルとなる。樹木の移動は、最大で同40メートルといわれており、気候変動に追い付けない。これは、身近な自然が将来、緯度の高い所や標高の高い所でしか見られなくなるということを示唆する。
都道府県ごとに影響を見ると、沖縄が同2174・3メートルで、最も速度が速かった。次いで千葉、長崎となった。自治体ごとの影響は、環境省のホームページ内で確認できるよう準備を進めている。
農業分野では、将来の地域の気候がどの地域と同じになるのか判断でき、転換する品目・品種や転換のスケジュールの検討で参考になる。同研究所の高野宏平研究員は「果樹などの永年作物は栽培や転換に時間がかかる。苗木の準備計画に役立ててもらいたい」と話す。
<ことば> VoCC
ある地点で気候が変化した場合、将来同じ気温になる場所の最短距離を、変化した時間で割った速度のこと。例えば、年平均気温15度の場所が100年間で100キロ北上したら、VoCCは1年当たり1キロとなる。
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2019年12月10日

中小・家族目配りを 自民畜酪委熊本を視察 畜産農家ら訴え
自民党畜産・酪農対策委員会は7日、2020年度の畜産・酪農対策の決定に向け、九州の酪農・畜産現場へ視察に入った。意見交換で畜産農家は、中小や家族経営も安定的に農業を続けられる環境づくりを要望。ヘルパーの確保や、豚コレラ(CSF)などの防疫強化を求めた。
熊本県JA菊池で開いた意見交換には、井野俊郎同委員会委員長代理、農林・食料戦略調査会の坂本哲志副会長、藤木眞也農水政務官らが出席。JA熊本中央会の宮本隆幸会長は、相次ぐ国際貿易交渉の結果「農家は先が見えず不安になっている。次世代が安心して農業ができる対策をしてもらいたい」と訴えた。
繁殖農家の源義通さん(69)は生産力の維持・向上には「定休型ヘルパーの導入で、農家が休めるようにしなくてはいけない」と指摘。ヘルパー確保につながる支援を求めた。肥育農家の斉藤秀生さん(59)はアジア諸国から日本への観光客の増加で「豚コレラや口蹄(こうてい)疫の侵入リスクが高まっている」と懸念。農家ごとの対策は限界があるとして、国主導の水際対策の強化が「最重要課題」と強調した。同委の宮路拓馬事務局長は北海道、関東、九州での視察内容を踏まえ、11日にも対策をまとめる考えを示した。
8日は鹿児島、宮崎県での現場視察、農家らとの意見交換を予定する。
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2019年12月08日

コスト増、人材不足、日米交渉… 生乳生産不安尽きず 畜酪対策 来週ヤマ場
2020年度の畜産・酪農対策を巡る政府・与党の協議が来週、ヤマ場を迎える。都府県は生乳生産の減少に歯止めがかからない一方、北海道は増産意欲は高いが、コスト増や人材確保などの課題があり、日米貿易交渉など将来への不安も尽きない。生産基盤強化に向け、規模拡大や家族経営の維持など多様な担い手が将来に安心して生産できる体制を求める声が強まっている。
生乳生産量は、北海道は増産基調だが、都府県は前年割れが続く。課題の一つが農家戸数の減少が続く都府県酪農だ。
栃木県大田原市で、育成牛含めたホルスタイン66頭を家族3人で飼養する藤田義弘さん(43)は「乳価は上がったが、消費増税で相殺され、経営は改善していない」と訴える。課題として挙げるのは人手の確保。毎月の休みは3日で休む時は酪農ヘルパーに頼むが、来てくれないときもあるためヘルパーの人材確保を強く求める。
藤田さんが就農した20年前の市内の酪農家は約90戸だったが、現在は約70戸。戸数減に歯止めをかけるため「現状の規模や労働力でも経営が維持できる対策にも力を入れてほしい」と家族酪農が続けられる対策の充実を求める。
「クラスター」要件厳し過ぎ
北海道頼みの生乳生産だが、道内の生産基盤も盤石ではない。酪農家は減り、規模拡大で生産量を維持、拡大している状況でコスト増が課題だ。
士幌町で乳牛380頭を育てる川口太一さん(56)は、牛舎の増築費用に頭を悩ませる。現在の搾乳牛200頭を約260頭に増やしたいが、増築費は資材費や人件費の高騰で「10年前に牛舎を作った時より、2倍以上(3500万~4000万円)かかる」と話す。畜産クラスター事業を活用したいが、建築基準などの要件が厳しく適用が難しいという。このため、同事業の要件緩和を求める。
コストが高くなりがちな冬の施工を防ぐため、十分な工期を確保できる仕組みも提案。同事業本来の狙いである畜産関係事業者が連携・集結し、地域ぐるみで高収益型の畜産を目指す体制整備も重要と話す。「産地としての責任を果たすため経営主になって以来、増頭してきた。少しでも事業を使いやすくしてほしい」と強調する。現在はパート1人、中国人技能実習生3人で経営しており、将来の雇用確保も懸念している。
中小・家族経営守る政策必要
酪農の規模拡大が進む中、新たな課題が広がる。「増頭で、ふん尿処理に困っている」「酪農ヘルパーなどの人材確保の対策を続けてほしい」──。11月30日、12月1日に釧路市や幕別町、網走市を視察した自民党畜産・酪農対策委員会の委員に、各地区のJA組合長が訴えた。「中小規模・家族経営基盤の維持強化に向け、省力化などの支援を続けてほしい」といった声も目立つ。酪農家が減少する中で規模拡大一辺倒ではなく、中小規模や家族経営を守るという意識も高まっている。
JAグループ北海道は畜産クラスター事業では計画的に投資できるように全ての事業の基金化を求める。加工原料乳生産者補給金は再生産可能な水準、集送乳調整金は指定団体が機能発揮できる水準を求めている。
生産減、離農止まらず
全国の生乳生産量は減少傾向にあり、農水省によると2018年度は728万9227トンと、5年前から2・9%減。特に都府県で減り続けている。牛乳・乳製品の需要は堅調だが、生産量が伸び悩み自給率は低下。同年度はカロリーベースで25%にとどまった。
酪農家戸数はこの10年、前年比4%前後の減少が毎年続く。大規模化や牛1頭当たりの乳量の伸びで、生乳生産の下落をカバーしている。
JAグループは、中小規模の家族経営などの離農が止まらないことが生産基盤の弱体化につながっていると指摘。大規模農家を、引き続き生産基盤の維持・拡大をリードする存在と位置付ける一方、「多様な生産者」の生産基盤の強化を重視する考えを打ち出した。
20年度畜産・酪農対策の重点要請では、規模拡大を問わず事業継承や生産効率の向上を支援するように提起。特に、飼養頭数50頭未満が76%を占める都府県酪農を念頭に、牛舎の空きスペースを活用した増頭への支援などが必要だとしている。
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2019年12月07日
直接支払い3制度 自治体負担軽減を 農水省が検討開始 根拠法20年度見直し
農水省は6日、中山間地域等直接支払制度と多面的機能支払交付金、環境保全型農業直接支払交付金から成る「日本型直接支払い」の検証を始めた。農業者団体からの意見聴取などを通じ制度の課題を洗い出し、2020年度に対応方針も取りまとめる。現場で制度を推進する自治体の事務負担の軽減などが検討事項となる見込みだ。
三つの制度は、政府が地域政策と位置付けており、条件不利地を含めた農地の保全、営農の継続などを後押ししている。各制度の根拠法として、農業の多面的機能発揮促進法が15年4月に施行され、施行5年後の20年度に見直すかどうか、検証するとしていた。今後、三つの関連制度の第三者委員会で検討を進める。
同日の会合で、委員長に就いた東京大学大学院の中嶋康博教授は「それぞれ(の直接支払いは)地域の農業農村に大きな役割を果たしている。改めて法制度、運用について課題を共有したい」と話した。同省は、自治体のアンケート結果を報告。三つの制度を同じ部署で担当している市町村は7割に上った。
宮城大学の三石誠司教授は、関連制度を推進するに当たり「市町村が忙しいため、(現場の要望を)聞くことができていないのではないか」と指摘。自治体の人手不足を課題として検討するよう提起した。
日本消費者協会の河野康子理事も自治体の人手不足を課題に挙げ、「コンサルティングなどの手当てが必要」と述べた。コンサルタント企業クニエの原誠マネージングディレクターは「事務と人材が課題の大きな柱になる」と指摘した。
市町村は同じ部署で3制度を担当するが、同省は制度ごとに担当部署を設けていることも論点になった。中嶋委員長は市町村の人手不足を念頭に「書類様式を可能な限り統一した方がいい」と指摘、同省に精査を求めた。
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2019年12月07日