棚田は地域の資産 文化や歴史を商品に 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏

 棚田地域振興法が成立し、中山間地の期待が高まる中、「棚田学会」の現地見学会で長野県へ行ってきました。「日本の棚田百選」の認定が16カ所と日本一多い長野でまず訪ねたのは、上田市の「稲倉の棚田」です。1999年の認定を受け棚田保全委員会を設置し、780枚のうち200枚を復田させて棚田オーナーや酒米オーナーにも取り組んでいます。 ユニークなコンテンツとしては、ドローン(小型無人飛行機)と連動した特殊ゴーグルで空からの眺めを楽しむ体験や、レトロな軽トラツアーなどアトラクションも豊富で、交流館では1キロ1200円と強気の価格設定で棚田米を販売しています。実際に棚田を体感した人は価値を理解するようで、昨年は490万円を売り上げました。こうしたブランディングには、元地域おこし協力隊が立ち上げたNPOの存在がありますが、来年から協力隊の派遣が途切れるそうで、希望と現実の両面を抱えていました。

 一方、千曲市の「姨捨(おばすて)の棚田」は「田毎の月」の語源になった地として知られ、全国で初めて名勝に指定された棚田とあって、農業だけでなく歴史文化財として市が関わり活動する保全団体は六つもあります。棚田の維持保全に欠かせない都市農村交流として、棚田オーナー制度には2種類あり、田んぼ作業をしたいファミリー層などは体験オーナーに、環境や地域貢献意識の高い層は保全オーナーにと、棚田との関係、応援の度合いが選べます。

 県では昨年から、棚田をはじめとした農村景観を「信州の農業資産」と銘打って、魅力を発信する事業を始めました。遺産ではなく資産ですから運用しなければ宝の持ち腐れになりますが、眺めて通過するだけでは喜ばれません。その歴史や文化に対価を払う仕組みとして、今後さまざまな切り口が必要です。 一方で、企業、組合、自治体などあらゆる組織の活動に国連の掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」が求められています。この17目標の内容をひもとくと、「飢餓、健康、教育、福祉、水、エネルギー、気候変動、循環型、生物多様性」など、まさに棚田地域で育まれる農業システムと合致します。社員研修、福利厚生、コラボ商品開発など、さまざまな形で棚田と連携することは、企業のSDGs活動になるのです。

 棚田振興法の施行は8月半ばとされています。これからは企業も地域も率先して、都市と農村の双方を喜ばせる新しい時代の棚田ブランディングが求められます。
 

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