国土強靭化と農林水産業 「内側からの改革」を 資源・食糧問題研究所代表 柴田明夫

柴田明夫氏

 令和はどのような時代になるのであろうか。既に見えているものがある。今、世界は気候大変動に伴う環境の限界、グローバリズムの限界、低コスト原油の限界という「三つの限界」に直面していることだ。加速する地球温暖化を考えた場合、世界は脱炭素化に向かわざるを得ない。これは、今後利用できる化石燃料からのエネルギー量が大幅に減少する社会でもある。経済発展に必要な低コストの石油資源が使えないとすれば、世界経済の持続的成長も難しい。エスカレートする米中貿易戦争は、グローバリゼーションの限界を暗示する。
 

低成長が前提に


 日本の場合、これら「三つの限界」に加えて、人口減少、高齢化、大地震災害の懸念、国家財政破綻などの固有の懸念がある。どのように楽観的に見ても、令和の時代は「低成長経済であり低エネルギー消費社会」とならざるを得ない。「国のかたち」も「低成長・低エネルギー消費」を前提にするものとなり、農林水産業の再興が不可欠だ。

 農水省は5月末、「2018年度食料・農業・農村白書」を公表した。冒頭の三つの特集で、「スマート農業」や「農福連携」などの新たな可能性を示す一方、「自然災害からの復旧・復興」問題を取り上げている。

 18年は、「平成30年7月豪雨」、台風21、24号、北海道胆振東部地震などによる甚大な被害が発生し、農林水産関係にも及んだ。防災・減災、国土強靭(きょうじん)化の他、農業者自身も災害に備えた取り組みに努めることが重要と説く。

 とはいえ実際の対応は容易ではない。農業を成長産業と位置付ける安倍政権は、貿易の自由化を外圧として利用するかたちで16年11月、「農業競争力プログラム」を策定し、翌年には関連8法を成立させた。

 だが、これらはあくまでも規制改革であり、国土強靭化には結び付かない。防災・減災、国土強靭化といった場合は、農業・農村の有する国土保全、水源涵養(かんよう)、農業用水の供給、景観の維持など多面的機能の維持・発揮こそが重要だ。

 特に、中山間地域は、人口の1割、農地面積・農業産出額の4割を占め、食料生産のみならず多面的機能の発揮に重要な役割を担っている。
 

拡大から「逆転」


 アベノミクスの「攻めの農林水産業」は、「担い手」への農地集積を23年度までに8割にするという目標を掲げる。

 農地面積に占める担い手の利用面積は、17年には55%と過半を占めるようになったものの、ここ数年の伸びは鈍い。集積の対象が平地などから中山間地など条件の不利な地域に及んでいるためだ。こうした地域では、離農者は増えても、それを引き受ける担い手農家は少ない。

 今後は、いたずらに経営規模を拡大し労働を粗放化するよりも、経営を内向きにして、それぞれの地方の「自然の額縁」の中で、稲作を核に畑作、果樹、畜産などを複合化し、そこに新技術を導入することで地域の農業・農村の再興、ひいては国土保全を目指す逆転の発想が必要ではないか。農林水産業の再興に重点を置いた「内側からの農業改革」である。

 しばた・あきお 1951年栃木県生まれ。東京大学農学部卒業後、丸紅に入社。丸紅経済研究所の所長、代表などを歴任。2011年10月、資源・食糧問題研究所を開設し、代表に就任。著書に『食糧争奪』『食糧危機が日本を襲う!』など。 
 

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